僕らは薄汚れた布をはたき、一気に引っ張る。
埃が目に見えてよく飛び散り、童顔が現れる。
「おお。ええっと、こういうのでいいのかな」
僕は魂が抜けたようにそこに鎮座する鏡を見て呟く。
「それでいいと思うぞ」と浅井が横から云ってくれる。
「じゃあこれを持って行こうか」
鏡に布を戻し、僕は両手でそれを抱えた。
首にかけていたカメラは一旦浅井に持っておいてもらう。家を出て坂を下り、上る夕陽を背に工場へ向かった。
「なあ浅井」
「ん」
浅井は僕が手渡したカメラを興味深そうに見ていたが、僕の言葉に首を回した。
「あの人、信用できるかな?」
車を用意すると言ってくれたものの、今朝町工場に尋ねた時に車が丸裸にされていた。
初めてその車の内部を見たのだが、あまりにちぐはぐで寄せ集めを繋ぎ合わせたような風貌で、角材は棘が突き出し、隅に長さが余って飛び出しており、エンジンとみられる部分も一見、動くようには見えない。
「できるだろう」
即答だった。
「どうして?」
「どうもこうも、あれは車だったからだ。確かに見てくれは洗練されていないが、あれが工具や機器の不足が理由であるのはすぐわかった。それに、俺にしてみればあの車は普通車よりも性能面で優れているぞ」
「そ、そうなの?」
浅井は息をつく。
「ああ。久しぶりにあんな作品を見た気がする」
作品――。浅井亀太郎という男が、冷徹に言い放った言葉は、あまり彼から聞けない単語である。彼の審美眼はあの発明に何かを見出したらしい。思わぬことだった。
「でも、元は普通の会社員だったんだよね?」
「疑問は最もだが、時期に分かる。あの車はパワフルでユーザビリティに富んだものになるだろう」
「それだけのものなの?」
浅井は重く頷いた。
彼の饒舌な状態を久しぶりに見た気がする。彼は云う。
「カメラを少し借りてもいいか? 撮影したいものができた」
「ほう? それってあの作品?」
「無論だ」
浅井はそれを肯定し、小走りで鏡を持っている僕を置いて行ってしまった。
是非も伝えていないというのに、彼は自慢話を早く伝えたい子供の様な背中を見せて角を曲がって行った。