車の車体に堕ちかけの陽が反射していた。
焚火を作りながら公園だった場所で、僕らは夜を越そうとしていた。その時、中村が近くの家からギターを持ってきた。
「久しぶりに歌おうぜ」
と中村は僕に向かって云う。そういえば中村はギターをやっていて、僕の歌の練習に付き合ってくれていたことを思い出す。
「ギター持っている姿が懐かしいね」
「そうか? ほれ」
中村は腰を下ろして右足を組み、ギターを構え、聞き覚えのある旋律をゆったりと奏でた。
否応なしで戸惑ったが彼の目線に負けてしまい、僕は一曲だけ歌ってみた。
「所々ずれているな」
「仕方ないだろ。何年ぶりだと思っているんだ」
僕は言いながら中村の組んだ足に手のひらを突き出し、照れ隠しをした。
「でもまあ、懐かしいぜ。お前が歌を頑張って練習してたのって、あいつの為だろ?」
「……ああ」
そういえば、そうだった。僕が歌を上手くなろうとした理由は、彼女の好きな曲を歌えるようになりたかったからだ。そっか。僕は思いのほか彼女の事が好きだったんだな。だから頑張って気を引こうとし続けた。それが伝わったのか分からない。それをどう思われたのかもわからない。でも――、
「歌はいいね」
「そうだなぁ」
僕の言葉に、中村の視線が泳いだ。
焚火の向こう側に座っていてほしかった、二人の影を探すように。