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第6話 私に遠慮はいらないぞ

 おもちゃ売り場に到着した俺達はひとまずゲームソフトから見始める。小学生や中学生なら多分ゲームの話題で盛り上がると思うのでプレゼントの最有力候補ではないだろうか。


「私はゲームをほとんどやった事が無いからあまり分からないんだが、有翔はどれが良いと思う?」


「うーん、個人的に選ぶならやっぱりモンスタークエストですかね」


 モンスタークエストシリーズはモンスターを従えたトレーナーが主人公の世界的に有名なRPGゲームだ。初代は俺が生まれる前に発売されており、十年後の未来でもまだ続くほどの人気を誇っていた。

 ちなみに最近発売された最新作として棚に並べられているシリーズは俺も前世ではプレイしておりしっかりクリアまでした事を覚えている。

 モンスタークエストには色々なやり込み要素があるため熱中するとあっという間に時間が経ってしまう。そのせいで高校二年生の時に成績が下がってめちゃくちゃ怒られた事はいまだに忘れられない。


「なるほど、モンスタークエストはやった事があるって言ってたからありだな」


「一個前のシリーズと同じゲーム機で遊べるはずなのでこれをプレゼントするなら買うのはソフトだけで大丈夫です」


「それだと助かる、ゲーム機本体まで一緒に買うとなると流石に予算オーバーするからな」


「一万円を超えてくると高校生の財布事情だと中々しんどいですもんね」


 言うまでもなく学生と社会人では使えるお金が圧倒的に違う。ついこの前も社会人の時と同じような感覚でお金を使ったらあっという間に無くなって困ったばかりだ。

 ちなみにブラック企業サラリーマン時代は自由時間が無さすぎてお金を使う事があまりなかったため懐にはかなり余裕があった。

 そのため会計の値段を一切気にせず適当に買っても全く支障が無かったが今は違う。今の俺はサラリーマンではなく高校生なのでその辺りの悪癖は直さなければならない。


「他にも良さそうなものがあるかもしれないし、もう少し色々見てから決める事にするよ」


「そうですね、せっかくここまで来たのでもっと色々見てまわりましょう」


 それから俺達は現在いるおもちゃ売り場を含めモール内を見てまわり始める。文房具や服などもプレゼントの候補になったが最終的にはモンスタークエストのゲームソフトを選んだ。

 小学六年生なら多分文房具はあまり喜ばないだろうし、服に関しては身長が伸びてすぐに着れなくなる可能性が高いという事で却下となった。


「有翔のおかげで助かったよ、ありがとう。せっかくだし、何かお礼をしないとな」


「いえいえ、この前購買で助けてもらったお礼の意味もあったので別にそこまで気を使って頂かなくて大丈夫ですよ」


「私に遠慮はいらないぞ」


 これで貸し借りをチャラにしたかったためお礼を受け取らないつもりの俺だったが、入奈からそう言われてしまったので流石に断りづらい。

 だから俺は素直にその言葉に甘える事にした。お礼にカフェで飲み物を奢ってくれるとの事なので俺達は目的地を目指し始めるわけだが、その道中映画館の横を通った際に入奈はとあるポスターを見て立ち止まる。


「……この映画は」


「最近めちゃくちゃ流行ってますよね、よくテレビでCMも流れてるので友達も見に行ったって行ってましたよ」


 『あなたの名は』という名前のこの作品は東京に住む女子高校生と自然豊かな田舎町に暮らす男子高校生がある日突然入れ替わる内容のアニメ映画だ。

 俺は映画館ではなく数年後にネット配信サービスで見たが社会現象を巻き起こすほど大人気になっただけあって普通に面白かった記憶がある。

 同じ監督の次回作である『天候の少女』は付き合っている時に一緒に映画館で見て、その次の作品である『つばめの戸締り』も見る約束をしていたがその前に入奈と別れたため結局見ていない。

 ポスターを見た入奈は何故かさっきから暗い表情を浮かべている。その表情はまるで何かを思い出して苦しんでいるように見えた。


「大丈夫ですか……?」


「……すまない、また自分の世界に入ってしまっていた。もう大丈夫だ」


 そう言い終わると入奈は再び歩き始める。何故あんな表情をしていたのか気になりはしたが触れない方が良さそうだったため何も聞かずに後をついていく事にした。

 それにもし聞いたとしても入奈の性格的に多分答えてくれないに違いない。五年以上付き合っていたためそのくらい流石に分かる。

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