「着いたぞ、何でも好きなものを注文してくれ」
「ありがとうございます」
入奈に連れてこられた場所は若い女子に人気のカフェチェーン店であるステラバックスコーヒーだった。学校でもよく新作の話題などで盛り上がっている姿を見る。
ちなみに前世では入奈とたまに行っていたが今世では始めてだ。そう言えば入奈と付き合うまではハードルが高くて入った事がなかったっけ。そんな事を思い出しながら俺はメニュー表を見る。
「俺は決まりました」
「オッケー、じゃあ注文しようか。すみません、ステラバックスラテのトールが一つ」
「キャラメルフラペチーノのグランデでカスタムのチョコソースとチョコチップが一つ」
俺がそう注文すると隣にいた入奈は驚いたような表情を浮かべてこちらを見ていた。
「どうしたんですか?」
「いや、てっきり有翔はステバに来るのは初めてだと思ってたのでな」
「実はそれなりに来た事があるんですよね」
なるほど、それで入奈は驚いていたようだ。確かに俺のような地味な男子がステバに来るようなイメージは無いに違いない。
今でこそカスタムのような上級者向けの注文をしているが、前世では入奈と行くようになるまでは行った事すら無かったし。
「……もしかしてステバデビューは女子がきっかけだったりするか?」
「まあ、一応はそうですね」
より具体的に言うと未来の入奈がその相手なわけだがそんな事を言っても頭がおかしいと思われるに違いないため口には出さない。
「一体何故こんなにも違いが……」
俺の言葉を聞いていた入奈は本日三度目となる自分の世界に入ったようで一人でぶつぶつと何かをつぶやいている。小声でよく聞こえなかったが時々俺の名前が出ていたので少し内容が気になってしまう。
「あれっ、もしかして佐久間君?」
突然声をかけられたのでそちらを振り向くとそこにはクラスメイトの
前世ではあまり関わりがないクラスメイトの一人だったが今世では交流の幅を広げているためそこそこ話す相手だったりする。
佐久間と佐渡で同じさ行の苗字という事もあり席が前後ろなのだ。だからクラスの女子の中では一番よく話す相手と言える。
「あっ、佐渡さん。こんなところで会うなんて奇遇だな」
「それはこっちのセリフだよ」
「もしかして一人で来たの?」
「ううん、友達と一緒。今はお手洗いに行ってていないけど」
よくよく見ると佐渡さんはプラスチックのカップを二つ手に持っていた。やっぱり陽キャは一人で行動なんてしないよな。特に女子は一人で行動するのが嫌という人も多いらしい。
入奈のようなタイプは珍しいと思う。そんな事を思いながらチラッと入奈の方を見ると佐渡さんを鋭い目付きで見つめていた。
てっきりまだ自分の世界に没頭している最中だと思っていたがいつの間にか我に返っていたらしい。そして佐渡さんもそんな入奈の視線に気付いて若干困惑しながら口を開く。
「ところで佐久間君と一緒にいる女子は友達?」
「ああ、隣にいる氷室先輩は仲の良い先輩なんだよ」
「そうなんだ……あっ、友達が戻ってきたから私はもう行くね」
「うん、また明日」
そう言い終わった佐渡さんは俺達の前から去って行く。その様子を見つつ俺は入奈に話しかける。
「佐渡さんの事を睨んでたように見えましたけど一体どうしたんですか?」
「私の敵な気がしたからついな、特に深い意味はないから」
いやいや、その敵な気がしたからという理由は十分過ぎるくらい深いと思うんだけど。入奈の場合はああいうキラキラした女子が苦手だったはずなのでそういう意味では敵に見えたのかもしれないが、俺のクラスメイトを威嚇するのはやめて欲しい。