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第9話 有翔の事は煮るなり焼くなり好きにしてください

 入奈と一緒に買い物をしてから一週間が経過した。入学してから三週間目に突入した事もあってクラスメイト達の緊張もほぐれ雰囲気も落ち着きつつある。俺も二回目の高校生活に順応しつつあるため今のところ大きな問題は起こっていない。


「よっしゃ、やっと放課後だ」


「島崎君はいつもこうだよね」


「島崎は昔からこういう奴だから」


「そっか、大智と有翔は同中だもんな」


 俺と島崎はホームルームが終わった後クラスメイトである天瀬春樹あませはるき須藤新汰すどうあらたと雑談をしている。


「そう言えばついに来週からゴールデンウィークだよな」


「だよね、皆んなは何か予定はあるの?」


 島崎の口から飛び出した言葉に対して反応した天瀬がそう声をあげた。そう言えばもうそんな時期か。ブラック企業では祝日なんて関係なかったため意識すらしてなかったが学生は普通に休みだよな。


「俺と大智は部誌の発行とかでゴールデンウィーク中も何日かは活動があるらしいから一応予定はある」


「なるほど、漫画研究部って意外とやる事が多いんだな」


「そうそう、ちなみにそういう有翔はどうなんだよ?」


「俺は特に予定はないかな」


 須藤から話を振られた俺はそう答えた。ブラック企業サラリーマンとは違い学生は祝日に休めるので基本的には思いっきりダラダラ過ごすつもりだ。


「俺はさっき須藤が言った通り部活に参加するけどそれ以外は特に予定は無いんだよな」


「大智は先輩とイチャイチャするので忙しいもんな」


「いやいや、別にイチャイチャなんてしてないだろ」


 須藤に揶揄われた島崎はそう声をあげた。グループのメンバーは島崎が先輩目当てで漫画研究部に入った事を知っているため時々こんな風にいじったりする。


「俺なんかより佐久間の話の方が面白そうだろ」


「そう言えば佐久間君は二年生の背の高い先輩とよく一緒にいるよね」


「確かにその話については俺も詳しく聞きたいな」


 何と島崎は自分に向けられていたターゲットを強引に俺に変更してきた。入奈はあの買い物の後も学内でちょくちょく俺に絡んできておりそんな様子を見られていたりする。


「氷室先輩とは別に浮いた話なんてないぞ」


「本当かよ?」


「僕達に何か隠してたりしない?」


「中学時代は女気が無かった佐久間が急にそんな風になったからどう考えても怪しい気しかしないぞ」


 三人は好き放題言って俺を面白おかしく追求してくるが、少なくとも現時点では皆んなが期待しているような話なんて何も無い。この流れが続くのもだるいしターゲットを天瀬になすりつけるか。


「俺的には天瀬の方が怪しいんだけど、俺達のグループの顔面偏差値をめちゃくちゃ釣り上げてるんだし」


「確かに春樹はあっちのキラキラしたグループにいてもおかしくは無さそうだよな」


「俺や佐久間、須藤とはタイプが明らかに違うし」


「えー、僕こそ何も無いんだけど」


 天瀬は顔がかなりの美形でありクラスメイトの女子達からの人気は高かったりする。オタク趣味が強いから俺達と一緒にいるが陽キャ集団の中にいても全く違和感がない。

 そう言えば天瀬は前世では普通に彼女が出来ていたっけ。そんな事を思いながらしばらく盛り上がっていると突然教室内がざわざわし始める。

 一体何事かと思って前を見るとそこには入奈が立っていた。入奈は世間一般的には美人な部類に入るためクラスメイト達の注目を集めたのだろう。一体何をしに来たのだろうかと思っているとこちらへ真っ直ぐ歩いてくる。


「すまない、取り込み中だったかな?」


「いえ大丈夫ですけど一体どうしたんですか?」


「有翔に用事があったから靴箱で待っていたんだが中々来ないから迎えにきたんだよ」


 入奈は堂々とそんな事を言い放った。周りの奴らに聞かれてるしめちゃくちゃ見られてるから勘弁して欲しいんだけど。


「僕達はもう大丈夫なので佐久間君はお渡ししますよ」


「じゃあな佐久間」


「有翔の事は煮るなり焼くなり好きにしてください」


 天瀬と島崎の言葉はまだ分かるが須藤の煮るなり焼くなりはどう考えてもおかしいだろ。とりあえず俺は入奈とともに教室を出た。

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