入奈から意味深な心配をされてから一夜が明けてゴールデンウィークに突入した。今年は土日と平日の祝日が組み合わさった関係で五連休となっている。ブラック企業に就職してから長期間の休みなんて無かったためこんなに長く休むのは本当に久々だ。
ちなみに今世ではクラスメイト達と遊びに行く約束をしているわけだが前世では違った。前世の俺はあまり話した事がないクラスメイトと遊ぶのは気まずくなりそうで怖いという理由で参加しなかったのだ。
「そう考えたら昔の俺って本当に凄まじく臆病だったんだな」
ブラック企業に入ったせいでろくな目に合っていないがコミュ障が治りメンタルも明らかに強くなった事に関しては良かったと思っている。
大学時代に入奈と付き合うようになったのも授業のペアワークで顔見知りになった事がきっかけでありナンパをした訳ではない。
流石に付き合う時の告白は俺からしたがもしあの時ペアになっていなかったら付き合うどころか顔見知りにすらなっていないに違いない。
「よし、そろそろ出ようかな」
俺はクローゼットの中から白いTシャツと黒のスキニーパンツを取り出して履き、机の上においていたシンプルなデザインのネックレスを取って身に付ける。
量産型大学生みたいな服装と言われそうだが奇抜なファッションをするよりも周りからのウケは良いため基本的に休日はこんな感じだ。
それに前世の今頃の俺は訳のわからない英字が入ったお洒落さのかけらもないような格好をしていたためそれよりは遥かにマシだと思う。
それから俺はワックスで髪をセットしてから家を出る。ゆっくりと自転車を漕いで目的地に向かう俺だったが集合時間よりもかなり早く到着してしまった。案の定まだ誰も来ていない。
「やっぱり時間の感覚だけは全然変わらないな」
ブラック企業で遅刻は絶対に許されずやらかしてしまった時は重いペナルティがあったため約束の時間よりもめちゃくちゃ余裕を持って行動するようになった。そしてその癖はいまだに抜け切っておらず朝も自然と早い時間に目が覚めてしまう。
そのため学校に到着してもまだ人がほとんど来ていないパターンが多い。幸いここは駅前で時間をつぶせそうな場所もたくさんあるし、どこかでしばらく時間をつぶそうか。
そう思っているとどこからか視線を感じる。もしかして誰かに見られているのだろうか。そう思ってキョロキョロしていると見覚えのある顔が視界に入ってくる。
「あっ、やっぱり佐久間君だ」
「佐渡さんか、まだ集合時間よりかなり前なのに早いな」
「それは佐久間君もそうじゃん、私が一番乗りだと思ったからびっくりしたよ」
まあ、確かに幹事でもないやつがこんなに早くから集合場所にいたら驚くよな。そんな事を考えつつも相変わらずまだどこからか向けられている視線がとにかく気になってしまう。
てっきり佐渡さんからだと思っていたが、どう考えても目の前にいる彼女から向けられているものではない。むしろ佐渡さんと合流してからさっきよりも明らかに視線が強くなったような気がする。
「てか、佐久間君って私服はそんな感じなんだ」
「ああ、割と無難なファッションだとは思うけどそれなりに気に入っているからさ」
「確かに無難かもしれないけど大人っぽくてよく似合ってるなら私的には良いと思う」
「そう言われるとなんか嬉しい、ありがとう。佐渡さんの格好も今どきの女子って感じで似合ってるぞ」
俺はそう言葉を返した。前世の高校一年生の頃の俺では多分緊張し過ぎて全く会話が弾まなかったと思うので我ながら本当によく成長したと思う。
それよりもどこかの誰かから向けられている視線がどんどん強くなっている気がして落ち着かない。この視線の主は一体どこの誰なんだ?