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第14話 それならお言葉に甘えて私もお邪魔させてもらおうかな

 今日参加のクラスメイト達が全員集まった後、俺達は駅前のカラオケ店に移動した。三部屋に別れて部屋のメンバーはローテーションしながらカラオケをするため色々なクラスメイトと交流できるようになっている。

 しばらくクラスメイト達とカラオケを楽しむ俺だったが集合場所に到着してから感じていた視線が相変わらず消えない。

 そろそろ正体不明の視線が本格的に不気味に感じてきた。そんな中トイレへ行くため部屋の外に出たタイミングで視線の主が発覚する。


「……氷室先輩、こんなところで何をしてるんですか?」


「人違いじゃないですか……?」


「いや、もう完全に氷室先輩だって気付いてるんで」


 声色と口調を変えて誤魔化そうとする入奈だったが俺の言葉を聞いて諦めたらしい。


「た、たまたまカラオケに来ただけだが」


「わざわざ変装してですか?」


 俺がそう尋ねると入奈は黙り込んだ。帽子と伊達メガネ、マスクを装着して変装をしていたが俺は一瞬で入奈だと気付いた。

 特殊メイクでもしていれば気付けなかったかもしれないがほんのちょっとの変装くらいではすぐに分かってしまう。五年以上付き合って同棲までしていたのだから当然だろう。


「それでどうして氷室先輩はここにいるんですか? 一人でカラオケに来るようなキャラではないと思いますけど」


「有翔がクラスメイトと上手くやれてるか心配だったのだ」


「子供が心配で学校までついてくる過保護な親みたいなまさかの理由で驚きなんですが」


 そう言えば前世の入奈も心配性なところや思い込みが激しい部分は確かにあったな。流石にここまで強くは無かった気がするが。


「てか俺が今日ここで遊ぶって事は確か話してなかったと思うんですけど何で場所が分かったんですか?」


「それは朝早くから有翔の家の前を張り込んでいたからだ」


「……ああ、なるほど」


 さらっと衝撃の事実を告げられた俺は呆れながらそう答えた。どうやら集合場所に着く以前から監視されていたらしい。果たして入奈は自分のやっている行動が完全にストーカーだという自覚はあるのだろうか。

 いや、多分初めてのおつかいに行く子供を陰から見守る保護者のような行為だと思っているはずなのでそんな事は夢にも思っていないに違いない。そんな事を考えていると後ろから話しかけられる。


「佐久間君、こんなところで立ち止まってどうしたの?」


 後ろを振り返るとそこにはジュースの入ったコップを手に持った天瀬が立っていた。


「たまたま知り合いに会ったから話してたんだよ」


「そうだったんだ、ちょうど佐久間君に隠れてて見えなかったよ」


 なるほど、俺の方が入奈よりもほんの少し身長が高いため重なって見えなかったらしい。そして天瀬の反応的に俺がよく学校で一緒にいる先輩と目の前にいる入奈が同一人物である事は気付いていないようだ。


「せっかく佐久間君と話してたのに邪魔しちゃってごめんね」


「べ、別に私は大丈夫だ」


 天瀬に話しかけられた入奈は少しビクッとしながらそう答えた。やはり入奈のコミュ障は前世と同様に今世でも健在らしい。


「あっ、もし良かったらその子も部屋に誘ったら?」


「えっ、それってありなのか?」


「さっき他のメンバーもたまたま来てた友達を誘ってそのまま部屋に合流してたから別に大丈夫じゃないかな、佐渡さんも普通にウェルカムムードだったし」


 一応クラスメイトと遊びに来ているので部外者が混ざるのはまずいのではないかと思ったが、幹事である佐渡さんがオッケーを出しているのであれば問題はないだろう。だが入奈を合流させるのは色々と問題が起こりそうな気がするので正直乗り気にはなれない。

 ただ入奈の性格的に初対面の相手とカラオケする気にはならないと思うため多分断るはずだ。そう思っていた俺だったが入奈の口から予想外の言葉が飛び出す。


「それならお言葉に甘えて私もお邪魔させてもらおうかな」


 何と入奈は合流したいと言い始めてしまった。おいおい、こんな展開になるなんて聞いてないんだけど。

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