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第15話 そうか、有翔は私をそんなふうに思ってくれてたのか

 飛び込みで部屋に入ってきた入奈をクラスメイト達、特に男子は普通に歓迎していた。やはり男子は美少女にはかなり弱いという事だろう。

 綺麗系の美人で周りから怖いと思われがちな入奈だが伊達メガネや帽子などによってそういう要素が普段より緩和された事が今回の結果に繋がったのだと思う。

 ちなみに同じ学校の先輩だとクラスメイト達に知られると入奈に気を遣って空気が重くなりそうな気しかしなかったので他の高校に通う同い年の友達という設定で上手く誤魔化している。

 幸い入奈の事を知っている人間はこの部屋の中には誰もいなかったため皆んな普通にその設定を何の疑いもなく信じてくれた。

 そして俺は設定を守るために部屋に入ってからは入奈とはずっとタメ口で会話をしている。前世では付き合い始めてからずっとタメ口で会話していたためむしろ普段の敬語で会話している状態よりも今の方が違和感がない。


「おっ、次は入奈の番か」


「……ついに私なんだな」


「ほら、マイクだぞ」


「あ、ありがとう」


 俺が手渡したマイクを受け取った入奈の声は明らかに震えていた。意気揚々部屋についてきた入奈だったが知らない人の前で歌う事には間違いなく抵抗があるはずなので緊張しているのだろう。

 この感じ的にまともに歌えるかすら分からない。部屋に入ってからもコミュ障を発動させていた入奈を俺はだいぶフォローした訳だし、恥をかかせるのも可哀想なので今回も手助けする事にしよう。


「この曲は俺も後で歌おうと思ってたから一緒に歌わせてくれ」


「よろしく頼む」


 俺は余っていたマイクを手に取ると入奈と一緒に歌い始める。女性ボーカルの曲だったが比較的低めだったおかげで原曲キーでも意外と歌えた。

 入奈は緊張してところどころうまく歌えていなかったりもしたが俺が上手くフォローしたおかげで何とか最後まで歌えきれて安堵の表情を浮かべている。それから俺は引き続き入奈のフォローをしつつクラスメイト達と雑談をして盛り上がったりしていた。

 今回のカラオケのおかげであまり話した事がなかったクラスメイトとも結構交流が出来ているので中々楽しい。それに人脈を広げておけば何かしらの形で役立つ可能性もあるため一石二鳥だ。


「ちなみになんだけど佐久間君と氷室さんってもしかして付き合ってたりする?」


「いや、俺と入奈は友達だぞ。どうしてそう思ったんだ?」


「だってめちゃくちゃ仲が良さそうだし」


「なるほど、でも残念ながら想像してるような関係ではないから」


 雑談中に俺と入奈の関係が気になったらしい女子達が興味津々な表情でそんな話を振ってきたため俺はそう答えておいた。やはり女子高生は恋愛関係に話を持っていくのが好きらしい。

 まあ、男子が女子の友達を連れてくるというのは珍しい気がするので関係が気になるのも当然と言えば当然か。そんな事を考えていると入奈が隣で面白くなさそうな表情を浮かべていた。

 多分さっきから他のクラスメイト達とばかり話していて入奈にあまり構っていなかったから不満なのだろう。入奈は前世でもこういう一面があった。そんな時の対処はいたって簡単だ。


「でも今まで入奈には色々と助けられてきたから普通の友達以上には思ってるな」


「そうか、有翔は私をそんなふうに思ってくれてたのか」


「そういう関係も素敵だよね」


 俺の言葉を聞いた入奈はさっきまでとは打って変わって一瞬で上機嫌になった。さっきみたいに構ってちゃんモードになった入奈は褒めれば大体機嫌が直ってくれる。

 五年以上付き合ったおかげで入奈の取り扱いはほぼマスターしていると言っても過言ではない。前世とは色々と違う部分のある入奈だがこういう本質的な部分は変わっていないおかげで助かった。

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