ゴールデンウィーク二日目の今日、俺は入奈と駅前で待ち合わせしていた。今日の行き先はアクアランドという名前の水族館だ。
「……それにしてもアクアランドか」
俺と入奈にとってアクアランドは思い出の場所だったりする。付き合って初めてのデートで行った場所がそこだったのだ。
まあ、あくまで前世の話であって今の俺達には何の関係もない場所だが。今回は入奈からだが
恋愛経験の無かった俺はデートと言えば水族館だろという安直な理由でそこを選んだ訳だが、入奈も普通に喜んでくれたので安心した記憶がある。
そう言えば付き合ったばかりの頃は子供の恋愛のようなデートをしてたっけ。そんな事を思っているとまだ集合時間よりかなり前だというのに入奈が現れた。
「あれっ、もう来てたのか」
「俺は時間に余裕を持って行動する主義なので、入奈先輩こそかなり早いですね」
「私は思ったよりも早く目が覚めて準備が済んだからそのまま家を出たんだ」
「もしかして入奈先輩って遠足とかの日は早く目が覚めるタイプだったりします?」
「そ、そんな事はないぞ」
俺の言葉を聞いた入奈はそう誤魔化そうとしていたが、前世でも旅行の日にめちゃくちゃ早く目覚めていたため聞く前から知っていた事は言うまでもない。
「まだ早いですけど行きますか?」
「そうだな、早い電車もあるはずだし」
「そうと決まれば早速行きましょう」
俺と入奈ICカードをタッチして改札を通り抜け、ちょうどホームにやってきた電車で移動を開始する。アクアランドは隣接する県にある訳だが、そこに辿り着くまでには何度か乗り換えをしなければならない。
「直通で行ければ楽なんですけどね」
「だな、乗り換えが地味に面倒だ」
ちなみに十年後の未来でも直通は残念な事に実現していなかった。構想自体はあったらしいがコストがかかり過ぎるため実現しなかったのだとか。
「有翔はアクアランドは今回が初めてか?」
「一応子供の頃には行った事があるらしいですけど覚えていないので実質初めてですね」
「そうか、私もだいぶ前に一回行ったきりだからかなり久々だ」
そう口にした入奈は懐かしそうな、それでいてどこか悲しげな表情を浮かべていた。もしかしたら大切な思い出なのかもしれない。気になりはしたがあまり触れない方が良さそうな気がしたのでそれ以上は聞かないでおこう。
それから電車に揺られながら何度か乗り換えをしてついに目的地であるアクアランドの入り口前に到着した。ゴールデンウィークの中日という事で大勢の人が訪れている。
「やはり家族連れが多いな」
「そうですね、子供は水族館とか好きそうですし。それにカップルも結構いる感じですね」
「デートの定番スポットだからな、私の人生で初めてのデートも水族館だったし」
「えっ……」
入奈の言葉を聞いた俺は頭に冷水を浴びせられたような衝撃を受けてしまう。以前入奈から彼氏がいた事があるという話を聞いていたが、まさか初デートの場所が水族館とは思ってすらいなかった。
そして俺はまた顔も知らない誰かに激しく嫉妬をしてしまう。入奈と付き合うとまた不幸になってしまう可能性が高いというのに俺はいまだに彼女を忘れられないらしい。
たまに
「急に黙り込んでどうしたんだ?」
「……何でもありません、ちょっとトイレに行ってきます」
俺は入奈に顔を見せないようにしながらそう答えてそのままトイレに向かう。多分今の俺は情けない顔をしているに違いなかったのでそれを入奈に見られたくなかったのだ。ひとまず俺はトイレで顔を洗って気持ちを切り替える事にした。