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第3章

第21話 えっ、入奈先輩って自分で作ってるんですか?

 ゴールデンウィークの五連休が終わり今日から学校再開となったわけだが教室内の空気は普段より少しだけ重かった。勿論ゴールデンウィーク明けという理由もあるがそれ以上に今日が考査発表という事が大きい。


「今日の放課後からテスト期間か、休み明け早々これだから辛いんだけど」


「だよね、僕も島崎君と同じ気分だよ」


 昼休みにいつものメンバーで集まって座っていると島崎と天瀬がそんな話をし始めた。すると同じく憂鬱そうな表情をした須藤が声を上げる。


「別に大智と春樹は別に心配いらないだろ、やばいのは俺とか有翔みたいなやつだから」


「いやいや、別に俺はそんなにヤバくないぞ」


「えっ、でも有翔は復習テストの結果が悪かったって言ってなかったか?」


「個人的には悪かったと思ってるけどそれでも順位は真ん中くらいだったから」


「うわ、マジかよ。お前だけは仲間だと思ってたのに裏切られた」


 俺の言葉を聞いた須藤はそう落胆の声をあげた。ちなみに入学式翌日にあった復習テストの結果は島崎が二十位、天瀬が五十位、俺が百五十位、須藤が二百九十位くらいという結果となっている。

 だから下から数えた方が圧倒的に早い須藤に仲間と思われるのは正直心外だ。暗記科目が足を引っ張っただけで国語と英語、数学だけの三科目だけならむしろ真ん中よりもだいぶ上な訳だし。

 そんな事を考えながら昼食を机の上に並べていると突然教室内がどよめき始める。一体何事かと思って顔をあげるとそこには手に何かを持った入奈の姿があった。

 恐らくだが俺に用事があってやって来たのだろう。コミュ障な入奈がわざわざ俺の教室に来る理由なんて他に考えられない。キョロキョロしている入奈に俺は声をかける。


「入奈先輩、急にやって来てどうしたんですか?」


「良かった、もう既に教室にはいないのではないかと思って心配したぞ。実はお弁当を作り過ぎてしまってだな」


「えっ、入奈先輩って自分で作ってるんですか?」


「ああ、そうだ」


 その言葉は完全に予想外だったためかなり意外だった。というのも前世の入奈は俺と同棲するまでまともに料理をした事がなかったのだ。

 そのためお互い料理が出来ず同棲し始めたばかりの頃は二人で悪戦苦闘した事はよく覚えている。だから今の時期の入奈が料理できる事に驚いたのだ。やはり前世の入奈とは少し違うらしい。


「というわけで捨てるのも勿体無いから食べて欲しいんだがどうだろうか?」


「そういう事なら有り難く貰いますよ、昼ごはんとして食べようと思ってた菓子パンは賞味期限がまだ先ですし」


「ありがとう、 お弁当箱は放課後に返してくれたら大丈夫だから」


 入奈はお弁当箱を俺に手渡すとそのまま教室から去って行った。そんな様子をクラスメイト達に見られまくっていたためちょっと恥ずかしい。ひとまず席に戻ると興味津々な様子の三人が話しかけてくる。


「なあ、さっきのって最近佐久間がたまに一緒にいる先輩だよな?」


「もしかして佐久間君はあの先輩からお弁当を作って貰うような関係なの?」


「てっきり有翔は俺や大智みたいにこっち側の人間だと思ってたんだけど裏切り者だったのか?」


「三人同時に話しかけてくるな、マジで訳がわからないから」


 俺は聖徳太子のように複数人から同じタイミングで話しかけられても全て聞き分けられるような特殊能力は持っていない。

 距離が離れていて先程の俺と入奈の会話が聞こえなかった事も変な誤解をされている原因だと思うのでひとまず説明をする。


「……って訳で作り過ぎたお弁当を貰っただけだからな」


「でも作り過ぎたお弁当をわざわざ有翔に渡しに来なくても良くないか?」


「だよね、渡す相手は佐久間君じゃなくても友達でも良さそうだけど」


「入奈先輩はあの見た目だから友達が少ないんだよ」


「本当かよ、佐久間は高校生になってからたまに変な事があるし何か怪しいな」


 説明をしても三人は半信半疑な様子だった。だがそれ以上の説明はしようがなかったため何も言わずお弁当箱を開く。中身は白米とおかずというシンプルな構成だったが非常に美味しそうだった。

 実際に味も普通に美味しかったわけだがある疑念が頭の中に浮かんできて複雑な気持ちになる。それは今世の入奈が以前話していた彼氏のために練習して料理が上手くなったのではないかというものだ。

 恐らくそれはあながち間違いでは無い気がする。今の俺達は恋人ではないため口を挟む権利はないが、顔も知らない誰かに対する嫉妬を抑えられずにはいられなかった。

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