目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第22話 あ、あえて一人で行動してるだけだからな

 午後からの授業は特に何事もなく終わり、帰りのホームルームでいよいよ考査発表となった。ここからは職員室への入室が原則禁止となり、部活動も中間テストが終わるまで停止となる。

 クラスメイト達はやる気に燃えていたり、逆に怠そうな表情を浮かべていたりと様々な反応をしていたが俺はというと懐かしい気分になっていた。

 言うまでもなくテスト期間なんてものはサラリーマンになってからは無かったのだ。だから前世では学生生活で嫌いなもののトップ10には間違いなく入ったであろうテスト期間が今はそんなに嫌ではない。


「テスト期間は部活が無いから大智は先輩に会えなくて悲しいんじゃないか?」


「うるせぇ、須藤は人の心配をする前に自分の成績を心配してろよ」


 須藤に揶揄われた島崎はそう反撃していた。そう言えばこいつらは前世でもこんな感じだったっけ。そんな二人の様子を見つつ俺は須藤に対して耳を塞ぎたくなるような情報を伝える。


「そうそう、赤点を取ったらもれなく補習が待ってるから須藤はマジで頑張った方がいいぞ」


「げっ、マジかよ……」


「補習を受けてから再テストしてもまた赤点だったら補習が延長されるらしいしそれは面倒だよね。まあ、須藤君以外は大丈夫だと思うけど」


 俺と天瀬の言葉を聞いて須藤はかなり危機感を覚えたらしく帰ったら勉強しようと口にしていた。ちなみに前世の須藤は一応全教科で赤点は回避していた記憶がある。

 一年生のこの時期の比較的簡単な内容で赤点を取るのは逆に難しいのだ。もっともその後は赤点常連者になっていたが。それから少しして教室を出た俺は靴箱に向かう。そこには予想していた通り既に入奈の姿があった。


「お待たせしました」


「全然待ってないから安心してくれ」


「入奈先輩ってたまに男前な事を言いますね」


「女子に対して男前という言葉はどうかと思うが褒め言葉として受け取っておこう」


 そんな話をしながら俺と入奈は帰り始める。こうやって一緒に帰るのもだんだん慣れてきたな。相変わらず周りからの視線は凄まじいけど。


「……そう言えばお弁当はどうだった?」


「普通に美味しかったですよ」


「そうか、それは良かった」


 俺の言葉を聞いた入奈は安堵の表情を浮かべた。多分俺の口に合うかどうか心配だったのだろうがあのお弁当を食べて合わないというやつはまずいないと思う。


「もし良かったら明日からも作ってこようか?」


「えっ、それは悪いですよ。俺の分まで作ると入奈先輩も大変でしょうし」


「お弁当の中身は私と一緒だから量が増えるだけでそんなに手間は変わらないぞ」


「いや、でも……」


「……もしかして有翔は嫌か?」


 流石に申し訳ないと思って渋っていると入奈はそんな事を言い始めた。だからその表情でそんな事を言ってくるのは反則だろ。そこまでされると断われるはずがない。


「分かりました、有り難く頂く事にします。ただし、それだと俺が一方的に貰いっぱなしなので何かをしらの形でお返しをしたいんですけど」


「それなら昼休みは私と一緒に食べてくれないか? 実は恥ずかしい事にお昼はいつも一人で食べててな」


「そのくらいなら全然大丈夫です。てか、普段はぼっち飯だったんですね」


「あ、あえて一人で行動してるだけだからな」


 俺がそんなふうに揶揄うと入奈はそんな反応を返してきた。しかしそれにしても入奈がぼっち飯をしているのはちょっと意外だ。

 ぼっち気質だとは思っていたがそこまで拗らせているとは正直思ってすらいなかった。いや、俺と話している時は普通だがそれ以外の他人と接する時はかなりコミュ障気味なためそれも仕方がないか。

 美人で近寄りがたい雰囲気さえ出ていなければ多分こうなってはいなかったと思うので容姿が良過ぎるのも考えものかもしれない。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?