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間話2 それにもう私は前の世界には未練なんて何も無いからな

 過去の世界に戻ってきてから一ヶ月以上が経過したわけだが色々な事が割と上手く行っていると思う。前回の高校時代は有翔と関わりすらなかったが今回はもう既にかなり仲良くなれたわけだし。

 コミュ障な上に人見知りなせいで初対面の相手とは上手く話せない事がほとんどだがな有翔とは問題なく話せたわけだし私達の相性は良いのだろう。


「……だが今の有翔はやはり明らかに何かがおかしい気がする」


 何というか今の有翔は雰囲気が不自然と感じるほどには大人びている。私のクラスメイトの男子達なんかとは比べ物にならない。例えるなら小学生と大学生くらいには精神年齢が違う気がする。


「今日も飲食店街で絡まれていた知り合いを助けていたが、普通の男子高校生があんなふうな立ち回りを出来るとは思えないんだよな」


 社会人になってから数年が経過した有翔は職場で数々の無理難題と戦って強くなっていたので可能だったと思うが、少なくても私が出会った大学生の頃の彼では間違いなく無理だったと思う。だから今の有翔を見ているとたまに違和感を覚える。


「やはり私が過去に戻ってきて前とは違う行動を取ったせいで有翔の何かが変わってしまったのだろうか?」


 昔見たSF映画では過去に逆行した主人公が前回とは違う選択肢を選んだせいで歴史が大きく変わっていた。だが私の行動が変わったくらいで有翔があそこまで変わるとは思えない。私がこの世界に逆行してきた一カ月とちょっとの間で有翔が急速に大人びるのは流石に無理がある。

 となるとここが過去によく似た別の世界であるパラレルワールドという可能性が高い気がしてきた。それであれば有翔の変化や違和感などに対しても全て説明がつくためしっくりくる。


「まあ、もし仮にここがパラレルワールドだったとしても私は全然構わない。やはり有翔は有翔だったから」


 確かに今の有翔に対して違和感は色々とあるが根本的な部分については変わっていない。もし本質的な部分が全く違っていれば多分受け入れる事は出来なかったと思うがその辺りは私の知っている有翔と一緒だった。だから私は今度こそ今の有翔と幸せになるつもりだ。


「それにもう私は前の世界には未練なんて何も無いからな」


 有翔がいない世界であれ以上生きていても仕方がなかったと思う。それに恐らくだが私は多分あの世界で一度死んでいるはずだ。

 ショックのあまり塞ぎ込んでしばらくの間完全に飲まず食わずの状態だったのだからそうなっている可能性が極めて高いだろう。

 そうでなければ何の脈絡もなく突然過去に逆行するとはとても思えない。そのためあの世界にはもう既に私の居場所なんてないのだ。そもそも戻りたいとすら思っていないが。


「ともかくどうやって有翔を私のものにするか考えないと」


 有翔が私以外の女の子と仲良くしていると嫉妬で気が狂いそうになってしまう。付き合っていた頃ですらここまで独占欲は強くなかったはずなのでやはり有翔の死は私の価値観にとてつもなく大きな影響を与えたのだろう。

 本音を言えば有翔に近付く女は一人残らず殲滅したいが流石にそんな事は出来ない。それに有翔の交友関係を制限するのも現実的ではないだろう。

 今の世の中で私以外の女の子と関わるなと言ったところで無理に決まっている。だからこそ有翔を私だけのものにして安心をしたい。


「とりあえず有翔のお母さんとは少し仲良くなれたしそっち方面から攻めてみるか、ついでに有翔の従姉妹についてもそろそろ探っておかないとな、脅威になりそうなら対処を考えないといけないし」


 私は机に向かって教科書や問題集を開いているというのに中間テストの勉強なんて完全にそっちのけでそんな事ばかり考えていた。

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