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巨大スライムとの戦い

「見上げるほどに大きくなるなんて……。アマロ村どころか、王都だってこんなのに襲われたらどうしようもないな……」

 巨大スライムに走り寄りつつ、どう動きだすか観察する。


 まずは敵の全貌を把握したいところだが、こうも巨大だとどう調べたらよいものやら。

 巨大スライムも僕の接近に気付いたらしく、仲間の吸収を止めてゆっくりとにじり寄ってきた。


「動きの速度はそれほどでもないみたいだね。次は、防御力を見させてもらうよ! アクセラ!」

 魔導書を開き、目的のページに記された魔法を発動する。


 使った魔法は加速魔法。

 その名の通り、素早い移動が可能になる魔法だ。


 巨大スライムの直下まで一気に移動し、持っている剣を横に振って奴の巨体に攻撃を加えてみる。

 ダメージは与えられたらしく、奴はその巨体を揺らして怯んだのだが。


「わ!? うぐ……!?」

 反撃として、巨大スライムは自身の体を突き出してきた。


 回避できずに大きく吹き飛ばされてしまったが、なんとか体勢を整えて地面に着地する。


「結構威力がある……! 剣での攻撃はあまり意味をなさないみたいだし、接近しない方が良いか……?」

 スライムたちはその柔らかい体を動かし、ある程度の傷ならば瞬時に塞ぐことができる。


 通常のサイズなら両断すれば再生させずに倒すことができるのだが、さすがにこのサイズとなると両断は不可能だ。

 表面を斬ったところで再生されるのであれば、斬撃は意味をなさないだろう。


「ナナ! 魔法を試してみてくれるかい!?」

「分かりました! ファイアショット!」

 ナナの頭上に出現した火の玉が、巨大スライムに向かって飛んでいく。


 普通のスライムであれば、容易に吹き飛ばすことができるほどの威力があるのだが。


「ダメです……。威力が足りません……」

 魔法は巨大スライムに直撃して火の粉を散らすも、少し衝撃を与えるくらいで大きなダメージになっているとは思えなかった。


 巨体相手には魔法も斬撃もあまり意味をなさない。

 移動速度は遅いが、それをカバーするかの如く突き飛ばし攻撃を行ってくる。


 柔らかくも堅牢なその体を、どう攻略したものか。


「ん? なんだ?」

 考え込んでいると、巨大スライムはゆっくりと体を揺らしだした。


 未知の攻撃が来ると判断し、回避する準備を行う。

 すると、弾けるような音と共に僕の周囲から月の光が消える。


 大きなスライム塊が僕の頭上に飛んできたのだ。


「おわっと!」

「きゃあ!?」

 警戒していたために回避には問題なく成功するも、ナナの悲鳴が聞こえてきた。


 どうやら彼女の方にも攻撃が行われたようだ。


「ナナ!? 大丈夫かい!?」

「大丈夫です……! 何とか避けられました……」

 問題ないという声に安心し、ほっと胸をなでおろす。


 されど敵がいる以上、安心している暇はほとんどない。

 目の前にあるスライム塊を調べてみるとしよう。


「動いてる……? とすると、これは……」

 それはもにょもにょと奇妙な動きを続けており、形が変化していく。


 少しずつ、知っている形へと変わっていき――


「ナナ! スライム塊から離れるんだ! 攻撃してくるよ!」

「は、はい! 分かりました!」

 ナナにスライム塊から距離を取るように指示を出す。


 彼女が動きだすのとほぼ同時にそれも変形を完了し、大スライムとして行動を開始する。

 奴は逃げる彼女を押しつぶそうと大きく飛び上がるのだが。


「ライトニング!」

 スライムの落着よりも早く魔法の詠唱を終えたナナは、空中に小さな暗雲を呼び出した。


 轟きと共に雷の刃が降り注ぎ、大スライムの体を切り裂いていく。


「やるね! じゃあ、こっちも!」

 目の前にいる大スライムは体を大きく震わせ、体当たりを仕掛けてくる。


 攻撃を回避しつつ素早く横なぎに剣を振り、真横に斬り裂く。

 真っ二つになった大スライムは、それっきり動かなくなってしまった。


「このサイズなら問題なく倒せるけど……。巨大スライムに注意を払いながら戦うのは難しいな……」

 ちらりと頭上を見上げ、巨大スライムの様子をうかがう。


 大スライムが増えることはもうないと考えたいが、さすがにそれは甘すぎるか。


「ああ、もう! さっそくか!」

 再び弾けるような音が響くとともに、草原のあちこちに影が落ちる。


 大スライムを飛ばす攻撃を再度行ったようだが、先ほどよりも飛んでくる数が多い。

 何も準備をしていなければ、回避に苦心する攻撃だろう。


「速度は遅いんだ。動き回っていればあたりはしない!」

 加速魔法をかけなおし、落ちてきたスライム塊に接近する。


 動き出す前に両断し、変化を終えようとする次の塊へと素早く移動し斬り倒す。

 それを幾度も繰り返し、数体の討伐に成功する。


「アイスロック!」

 こちらの戦闘は一段落したため、別の場所で戦うナナの様子を観察する。


 彼女の周囲には地面に伏す大スライムたちと、いままさに凍り付いていく個体の姿が。

 スライムは身体のほぼ全てが水分で出来ているため、極度に冷気に弱い。


 彼女の魔法がより強く効果を発揮したことで、大スライムは氷の彫像へと変わっていく。


「巨大なスライムに氷の魔法が効けば一番良いんだけど、さすがに無理が――あれ?」

 対策を考えようと巨大スライムを見上げると、奴の体の大きさが縮んでいるような気がした。


 大スライムは奴の身体の一部なので、分裂攻撃をすれば次第に縮んでいくのは当然と言えば当然か。


「そういえば、大スライムが動いている時は巨大スライムが攻撃してこないな……。ちょっとやってみるか」

 素早く巨大スライムのそばに近寄り、剣を振るう。


 やはりこちらからの攻撃はあまり意味がなかったが、反撃をされることはなかった。

 大スライムと巨大スライムは意識がつながっており、大スライムの行動中は何も行動ができないという予想は当たっていそうだ。


「これで、最後!」

 ナナが大スライムを倒す声が聞こえてきた。


 周囲に動いている個体はもういない。

 第二波はこれで終了のようだ。


「そっちも終わったみたいだね。お疲れさま」

 ナナのそばに駆け寄りつつ戦いを労うも、彼女は厳しい目を向けてきた。


「巨大スライムを倒さない限り、終わりじゃありません! その言葉はまだ早いですよ!」

「確かにそうだね。でも、一連の戦いで作戦を思いついたんだ。それが上手くいけば戦いは終わりになるはずだよ」

 先ほどの厳しい目から一転、丸い目が僕に向けられた。


 その瞳を見つめ返すことはせず、動き始めた巨大スライムに視線を向ける。


「まだ確証はないんだけどね。でも、奴が僕の思った通りの行動を取ったら、その作戦で決着がつくはずなんだ」

 巨大スライムが再度分裂攻撃をしてくるのであれば、スライムたちを全滅させるだけ。


 だが、とあるものに近づいていこうとするのであれば――


「おっと、ここにいるのはまずそうだ。ナナ、離れるよ!」

「は、はい!」

 ナナの手を取り、巨大スライムから距離を取る。


 逃げながら僕たちがいた場所に目を向けると、その場所はいままさに奴の巨体に飲み込まれようとしていた。


「あのままだったら押しつぶされてお終いでしたね……。巨大スライムの行動、良く分かりましたね」

「まあ、アイツの行動が理解できてきたってことさ。それより、あそこを見て」

 地面に倒れている大スライムを指さす。


 巨大スライムは、僕が指さした場所へとにじり寄っていく。


「あっ! 倒された大スライムたちが巨大スライムに飲み込まれて……! でも、もう動けないはずなのに、どうして……?」

「大スライムは巨大スライムの一部。言ってしまえば、巨大スライムの巨体を維持するのに必要な存在なんだ。僕が斬り倒したものや、君の雷の魔法で倒したものは飲み込まれてしまうはずだけど、例外があるみたいでね」

 飲み込まれていく大スライムから別の場所へと指を向ける。


 そこには、凍り付いたスライムの像が置かれていた。


「凍ったスライムには目もくれない……? なるほど、凍り付いたスライムは再吸収できないんですね」

「そういうこと。再吸収ができなければ、その巨体を維持することができなくなる。ある程度のサイズにまで縮んだところを叩けば倒せるはずさ」

 大スライム程度の大きさにまで縮めば退治できるはずだが、そのサイズにまで縮ませられるかどうかが問題だ。


 分裂攻撃を繰り返してくれれば、少しずつ削っていくことができるのだが。


「二回目の分裂の際、最初より多くの分裂体が飛んできました。もし三回目も同じであれば、さらに多くの分裂体を生み出すのでは?」

「その可能性はありそうだね。でもその分、落下してくる分裂体の回避が難しくなるわけだし、君も走り回れるように準備しておかないといけないね」

 魔導書を開き、加速魔法を発動する準備を行う。


 移動や回避ができても、攻撃ができなければ意味が無い。

 速度の強化をする前に、もう一つ、魔法を使っておいた方が良いだろう。


「ナナ、君の杖を僕に向けてくれるかい?」

「分かりました。お願いしますね」

 ナナの杖に向かって、加速魔法とは別の魔法を発動する。


 彼女の杖には冷気が宿り、美しい氷の槍へと変化した。


「よし、僕の物にも……。エンチャント・アイス!」

 同じように自身の剣に冷気を纏わせたことで、鋼の剣は氷の剣へと変化する。


 大スライムを凍らせ、巨大スライムの吸収を阻止する準備は整った。


「あとはアイツが目的の行動をするのを待つだけ。分裂体を飛ばしてきたら、アイツの周囲を挟み込むように走ろう。そうすれば、僕たちの後を追いかけるように分裂体が移動してくるはずさ」

 巨大スライムの動きを観察し、目的の行動を起こすのをじっと待つ。


 奴との距離はかなり開いている。

 体を伸ばす攻撃が届かない以上、分裂体を作り出そうと考えるはずだ。


「来た! アクセラ!」

 巨大スライムが左右に揺れ出すのと同時に、加速魔法を僕とナナに使用する。


 僕の行動の一瞬の後に、連続で弾けるような音が聞こえてきた。

 どうやらいままで以上のスライム塊が草原に降り注ぎそうだ。


「作戦通り、向こう側でね!」

「了解です!」

 スライム塊の影が僕たちの足元に届くのと同時に、二人そろって走り出す。


 影を回避しつつ巨大スライムに接近し、一気に両翼へと展開する。

 背後ではスライム塊が大スライムへと変化している気配が。


 巨大スライムも、いまだスライム塊を吐き出し続けているようだ。


「それでいい。全部吐き出すんだ!」

 巨大スライムのサイズが、戦闘開始前と比べるまでも無く小さくなっている。


 あとは動き出した大スライムたち全てを凍結させれば、元のサイズに戻ることはない。


「ナナ! 一気にやるよ!」

「はい! 行きましょう!」

 巨大スライムの背部へと移動を終えるのと同時に、ナナが正面から走ってきた。


 僕たちはすれ違いざまに武器を構え、お互いを追いかけていた大スライムに向かって突撃する。


「はあああ!」

 大スライムを氷の剣で縦に斬り裂きつつ、速度を落とさずに次の標的へと接近する。


 反対側でもナナが同じことを繰り返し、氷漬けにしているはず。

 ならば僕は戦い抜く。彼女が戦っているという事実が僕を勇気づけてくれる。


「これで、最後だ!」

 体当たりをしてくる大スライムを回避しつつ、素早く突きを繰り出す。


 剣で刺し貫かれた部分から冷気が広がり、柔らかな体を凍結させていく。

 また一つ、スライムの氷像ができあがった。


「ソラさん危ない! アイスロック!」

 ナナの魔法で周囲の空気が一気に低下する。


 反射行動で体を震わせていると、目の前にスライムの氷像が落下してきた。


「うわ!? あっぶな……! 下敷きになるところだったよ……」

 空中から氷像が落下してきたところを見るに、大スライムが僕のことを押し潰そうと飛び上がっていたのだろう。


 氷像となった大スライムにしろ、正常な大スライムにしろ、圧し潰されかけていたことを考えるとぞっとする。


「す、すみません! 氷魔法を使おうとしたらギリギリになっちゃって……」

「君のおかげで命拾いしたのは確かだし、気を抜いた僕が悪いんだから気にしなくていいさ。それよりほら、アレを見て」

 巨大スライムがいたはずの場所を指さす。


 そこには――


「……随分と縮んじゃいましたね」

「うん、もうこれで暴れることはできないさ」

 大スライムより少し大きいくらいのサイズにまで縮んでしまった、巨大スライムの姿があった。


 もう巨大スライムとは呼べないそれは、スライムたちの氷像を飲み込もうともがき続けている。


「……どうされますか?」

「退治するよ。どんな理由があれ、アイツは村のそばで暴れてしまった。このまま見過ごせば、再びスライムたちを集めて同じことをするかもしれない」

 再吸収しようとしている姿を見ていると可哀想に思えてくるが、それはそれ、これはこれ。


 僕は魔法剣士。アマロ村を襲う可能性があるモンスターは、この手で退治する。

 剣を握り直し、警戒を解くことなくスライムに近寄っていく。


 僕が近寄ってくるのを見た奴は、氷像を飲み込もうとするのをやめて逃げ出した。


「……向かってこないのか。でも――悪いね!」

 慈悲の心が浮かんでくるのをこらえ、一気にスライムのそばへと移動し――


「はあああ!」

 青いゼリー状の身体は二つに分かれ、大地へと崩れ落ちた。


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 巨大スライム エレメント系 スライム族 危険モンスター

 体長  測定不可 王都城壁と同等だと思われる

 体重  測定不可

 生息地 情報なし


 多くのスライムたちが融合することにより、一体の強力かつ巨大なスライムとなった姿。


 体の一部を伸縮させて外敵を突き飛ばす攻撃や、分裂体を生み出す攻撃を行う。

 素早さは激減したものの、代わりに膨大な体力と力を獲得し、その巨体から放たれる突き飛ばし攻撃は、大人であろうとかなりの距離を吹き飛ばしてしまうほど。


 守備力は元々がスライムなのでたいしたことはないが、その巨体故に弱点に攻撃が届かず、武器による直接攻撃はたいして意味をなさない。

 近付きすぎれば、押しつぶされたり吹き飛ばされたりする可能性が高まるので、離れた場所に位置をとることを心がけよう。


 こちらに自分の体を飛ばす攻撃をしてくるが、これは巨大スライムの一部であり、巨体を維持するために必要な存在でもある。

 分裂体を凍らせるなどして、再吸収を防ぐことができれば大きなチャンス。


 小さくなったところを攻撃しよう。

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