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戦いの決着

「白い髪に白い角……! あれが、『ホワイトドラゴン族』の……!」

 ナナはレイカの容姿に驚き、大きく口を開けていた。


 彼女は、『ホワイトドラゴン族』と呼ばれる種族の子ども。

 白い髪と白い角を持つことが、ホワイトドラゴンたち最大の特徴だ。


「ダメだよレイカ……! 早くここから……!」

 レイカに対し、逃げるよう促す。


 だが、彼女は僕の言葉に逆らうように短剣を抜き取り、森の主に向けていた。


「お二人は私たちのことを助けてくれた……! それなのに、お二人を助けちゃダメだなんて、嫌です……!」

 レイカに向かって主の拳が落ちてくる。


 彼女はそれをかわして短剣で斬りかかろうとするのだが、主は薙ぎ払うように腕を振ってその攻撃を妨害してしまう。


「ぐ……! くそ……! 動け……! 動けってば……!」

「ダメです! 先ほど潰されかけたせいで、骨にかなりのダメージを受けてます! あなたはもう戦えません!」

 だからと言って、レイカだけを戦わせるなんてことができるわけがない。


 いまの僕にできることがないか、周囲を見渡すと。


「魔導書と剣……! ナナ、お願い……! 取って来て……!」

 森の主から振り落とされた時に、取り落としてしまった魔導書と剣。


 あれさえあれば、レイカの援護ができるはず。

 かなり分の悪い賭けだがやるしかない。


「で、でも、ソラさんの傷も治さないと……!」

「僕のことは後でいい……! 既に拘束魔法は解けちゃっているんだ……! レイカがやられちゃうのは時間の問題だよ……!」

 時間をかけすぎれば、レイカも次第に疲れて攻撃を受けてしまうはず。


 ナナが僕の傷を癒すことに時間を消費するよりかは、森の主を止めることに注力してもらった方が良いだろう。


「……分かりました! 絶対に動かないでくださいよ!」

 僕にきつく注意をしつつ、ナナは落ちている魔導書と剣を回収しに向かってくれる。


 その間、レイカは森の主の攻撃を回避し続け、反撃のチャンスをうかがっていた。


「主を傷つける必要は無い……! 彼を操っている魔力の渦が首の後ろ辺りにあるから、そこに魔力がこもった攻撃を……!」

「分かりました……! でも、なかなかチャンスが……! あ、危ない!」

 レイカが回避行動を取った先には、剣と魔導書を回収しているナナの姿があった。


 森の主はレイカに向かって攻撃を続けているため、ナナは攻撃に巻き込まれてしまう。


「きゃあ!?」

 大きく振るわれた腕がナナの体に当たり、彼女は僕がいる方向へと吹き飛ばされてきた。


 あの速度のまま木にでもぶつかれば、彼女の命に関わる。

 無理やり体を動かし、吹き飛ばされてきた彼女を抱き止めることに成功したのだが。


「が……! あぐ……!」

 その衝撃で体は大きく悲鳴をあげ、痛みに耐えられずに地面に倒れ伏してしまう。


 痛みにもだえる中、焦るナナの声が聞こえてくる。


「ご、ごめんなさい! すぐに治します!」

 回復魔法のおかげで痛みが和らいでいく。


 だが、完全に動けるようになるまでには時間がかかりすぎる。


「れ、レイカに……剣を……! 強化魔法を……!」

 ナナと共に飛ばされてきた剣と魔導書に手を伸ばす。


 レイカはいまだ攻撃を受けずに済んでいるが、かなり呼吸が荒れてきている。

 もう、これ以上時間をかけられない。だが、痛みのせいでそれらを掴むことすら――


「え……? 痛くない……!?」

 手を開くだけでも激しい痛みが襲ってきたというのに、僕の手は魔導書を掴んでいた。


 それどころか、体中の痛みが大きく減少している。

 理由は分からなかったが、このチャンスを逃すわけにはいかない。


「レイカ! これから君に強化魔法をかける! チャンスを見計らって大きく飛び上がるんだ! ナナ! 君は拘束魔法を主に掛ける準備を!」

 魔導書を繰りつつレイカとナナに指示を出す。


 目的のページを開き、そこに記されている魔法を詠唱する。


「コンフォルト!」

 使った魔法は筋力強化魔法。筋肉の動きを補助し、より強力な力を引き出す強化魔法だ。


 魔法はレイカに向かって飛んでいき、彼女の脚部は赤い光に包まれた。


「わわわわ!?」

 突如筋力が強化された影響か、レイカは前に転びそうになる。


 だが、何とか体勢を整えることに成功し、その場にしゃがみ込んで大きく飛び上がる準備を始めていた。


「ソラさん、魔法の準備ができました!」

「了解! エンチャント・ファイア!」

 落ちていた剣を拾い上げ、それに炎を纏わせる。


 森の主はレイカがしゃがみ込むのを見て、両腕を大きく振り上げていた。

 どうやら、とどめを刺そうとしているようだ。


「いまだ、飛べぇ!!」

 レイカに指示を出すのと同時に、炎を纏わせた剣を空に向けて大きく放り上げる。


 それは森の主の背丈を遥かに超える高さまで飛んでいくも、次第に上昇速度が落ちていく。

 このままでは、ただただ落下してしまうだけだが。


「それ!」

 レイカは攻撃を回避しつつ、大空に向かって飛び上がる。


 彼女が飛び上がったそばには僕の剣が浮かんでいた。


「ナナ! 拘束魔法を!」

「分かりました! バインド!」

 ナナの魔法は森の主の足へと飛んでいき、再度動きを封じる。


 主は地面を殴りつけていたため、空に背を向けた状態で動けなくなった。

 無防備となった背中めがけ、僕の剣を握りしめたレイカが落下してくる。


「いっけえええ!!」

「はあああ!!」

 レイカは空中で器用に体勢を整えると、大きく剣を振りかぶり、森の主に宿っていた魔力の渦を斬り裂く。


 主は大きな悲鳴をあげ、地面に倒れこんだ。


「止まった……のでしょうか……?」

「分からない……。多分、大丈夫なはずだけど……」

 森の主が動き出す様子はない。


 レイカの攻撃で傷を負ったわけではなさそうだが、洗脳魔法が解けた影響で、意識が飛ばされてしまったのだろうか。


「レイカ」

 倒れる森の主のそばで茫然としていたレイカに声をかける。


 すると彼女は、おずおずとした様子でこちらに歩み寄ってきた。


「ケガはないかい? とっさに強化魔法を掛けたから、体に異変とか出ていなければいいんだけど……」

「え……?」

 かけられた言葉に驚いたらしく、レイカはぽかりと口を開けて僕を見つめた。


 なんだろう、その表情は。


「ありがとう、レイカちゃん。私たちを助けてくれて」

 心配をしていた僕とは異なり、ナナは笑顔でお礼をする。


 そんな僕たちに対し、レイカは悲しげな表情を浮かべながら自身の髪に触れていた。


「怒ったり、怖がったりしないんですか……? 私、お二人に隠し事をしていたのに……」

 僕とナナは顔を見合わせてしまう。


 正体がバレることに、レイカは深刻なまでに恐れを抱いている。

 僕たちが伝えられそうな言葉は――


「……怒ることも、怖がることもするわけがないじゃない。あなたは私たちを助けてくれた。恩は感じているけど、そんな感情は微塵も抱いていないよ」

「僕もナナと同じ気持ちさ、怒ってなんかいない。むしろ、僕こそ君に謝らなくちゃいけないんだ」

「ソラさんが謝る……?」

 レイカは顔をあげ、僕の顔をじっと見つめた。


 そんな彼女の頭に右手を乗せ、こう伝える。


「君たちの正体に気付いていたのに、僕は気付いていないふりをしていた。それを言及しちゃったら、君が壊れちゃいそうで……。でも、言うべきだったかもしれない。ごめんね……」

 僕に謝られ、レイカは困惑した様子を見せる。


 叱られたり、恐れられたりする想像はしていたようだが、このようなことになるとは微塵も思っていなかったようだ。


「家に帰ったら、ちゃんと話そう。みんなで一緒にね」

「はい、分かりました……」

 レイカの肩を優しく叩きつつ、周囲を見渡す。


 気絶している男たちを捕縛し直すのに加え、主の治療も行わなくてはならない。

 やるべきことは盛りだくさんだ。


「あ、そういえばレンはどうしたの? 森の外にいるのかな?」

「あ、いえ……。そこの木に隠れて様子を見てます」

 レイカはとある木を指さした。


 その木はガサガサと揺れだし、枝葉の間から何かが落下してくる。


「教えちゃうなんてひどい。驚かせたかったのに」

 木から落下してきたのはレンだった。


 彼は小さな杖を手のひらの上で回しながらこちらにやってくる。


「ソラさんのケガ、レンが治したんです」

「「え!? そうなの!?」」

 レイカから衝撃の事実を聞き、僕とナナは驚いてしまう。


 そんな僕たちの様子を見て、レンは得意げな顔をしていた。


「縁の下の力持ち。この方が森の主にもバレにくいし、何よりカッコイイ」

 自分で言うのでは世話が無いが、レンのおかげで動けるようになったのは確かだ。


 彼もまた、この戦いの功労者。ちゃんとお礼を言わなければ。


「ありがとう、レン。君のおかげでケガは――あいたた……」

 突然、右腕の一部が痛みを発する。


 袖をまくって確認してみると、その部分には青いあざができていた。


「あれ? 治りきってなかった?」

 レンが回復魔法をかけてくれたのだが、いつまで経っても元通りの色には変化しなかった。


 そうそうない現象だが、もしやこれは。


「治癒力が低下しているみたいですね……。かなりケガが酷かったですし、これ以上の魔法での治療は負担になるだけです。家に帰ったら、まずはお薬での治療からですね」

 骨にもダメージが入っていたわけなので、むしろここまで回復させることができるレンの魔法に感心するべきなのだろう。


 他の部位に痛みや違和感はない。

 この地での作業をするには問題なさそうだ。


「それじゃあ帰る前に、ここの後片付けをしちゃおう!」

「「おー!」」

「おー……」

 騒ぎの後始末をするために、僕たちは倒れている存在たちへと近づくのだった。

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