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協力者

「ただいま戻りました~」

「ただいま」

 玄関先からレイカとレンの元気な声が聞こえてくる。


 アマロ村の図書館に二人で出かけていたのだが、どうやら気分よく本を読んでくることができたようだ。


「お帰り。楽しかったみたいだね?」

「はい! 色んな本があって、目移りしちゃいました!」

「伝記や歴史書が意外と多くて勉強になった」

 リビングに入ってきた姉弟に声をかけると、二人とも満足げな表情を浮かべてくれる。


 ホワイトドラゴンの知識欲を満たすには、十分だったようだ。


「二人とも、お話するのは良いけど、まずは手を洗ってこないと。ソラさんも、いつまでも引き止めるようなことをしちゃダメですよ?」

「ほーい。さあ、ナナの言う通り、手を洗っておいで」

 ナナの注意を受け、レイカたちは洗面台へと向かって行った。


 姉弟が戻ってくるまでの間にキッチンへと移動し、彼女とこそこそと会話をする。


「エイミーさんから許可を貰ったとはいえ、いざ話をするとなるとドキドキするよ」

「あの子たちがうなずくかどうかは別の話ですしね。でも、好奇心が旺盛な二人なら、きっと喜んでくれると思いますよ?」

 エイミーさんとモンスター図鑑の話し合いをした際に、彼女にとあることをお願いしていた。


 許可は問題なく下りたのだが、レイカたちに相談していないことなので少し心配だ。


「戻りましたー」

「落ち着いたらお腹すいた。甘い香りがするけど?」

 緩んだ表情を浮かべながら、レイカたちが戻ってきた。


 レンは鼻をヒクヒクと動かし、部屋に満ちている香りに反応を示す。

 彼の反応通り、いまこの場ではナナがお菓子を作っているのだ。


「いま、ビスケットを焼いてるの。焼き上がるまでもう少しかかるから、ソラさんとお話をしながら待っててね」

 ナナの返事を聞き、レイカたちは期待に満ちた表情を浮かべながら席に着く。


 僕も姉弟のいるリビングへと移動し、椅子に座りながら二人と会話をすることにした。


「どんな本を読んできたのか聞いてみたくもあるけど……。その前に、僕の話を聞いてもらっても良いかい?」

「はい、大丈夫です」

「どんなお話?」

 姉弟は僕に顔を向け、話を聞く準備を整えた。


 そんな二人に、小さく息を吸ってから話を始める。


「実はね……。君たちに、モンスター図鑑の作成を正式に手伝ってもらいたいんだ」

「正式にってことは、いままでは違ったの?」

 レンの言葉にうなずきつつ、言葉を続ける。


「君たちの存在を隠す必要があった以上、エイミーさんにも黙って行動してたんだ。けど、アマロ村の人々が君たちを受け入れてくれたでしょ? いつまでもこそこそしている必要はないからね」

 基本的に秘密の作業となってはいるが、協力者を増やしてはいけないとは言われていない。


 ギルドに申請さえすれば、許可が下りる可能性は元々あったのだ。


「君たちの正体は決して広めないと約束までしてくれたから、あくまで君たちはアマロ村に住むヒューマンという形で、僕の作業を手伝ってもらいたいんだ」

 異なる大陸からの来訪者なので、種族の公表と申請はしておくべきことではある。


 だが、冒険者ギルドという公的機関に所属しているエイミーさんが、それは避けた方が良いと言っていたので、彼女の助言に倣うことにしたのだ。


「もちろん、ソラさんたちからのお願いであれば協力しますけど……。良いんですか? 私たちみたいな若輩が参加して……」

「逆、逆。僕としては、君たちぐらいの年齢の子たちの意見を欲してたんだ。大人だけで作ってると、どうしても視野が狭まっちゃうからね」

 レイカたちが正式に協力してくれれば、新たな視点から図鑑を作っていけるだろう。


 調査にしても製作作業にしても、人手が多いに越したことはないのだ。


「なら僕、やってみたい」

「私も、興味があります。お邪魔になっちゃうかもしれませんが、お手伝いさせていただいてもよろしいでしょうか?」

 姉弟は明るい表情を見せながら、僕の提案を受け入れてくれた。


 そんな二人の意志に喜びを抱きつつ、僕は改めてこう口にする。


「ありがとう。モンスター図鑑を作る仲間として、改めてよろしくね!」

「はい、よろしくお願いします!」

「よろしく」

 家族であるのと同時に、モンスター図鑑を作る同士。


 新たな関係となった僕たちは、ナナが焼いてくれたお菓子を食べながら話し合いを始めることに。

 提出予定の資料製作速度は、二人が加入したことでさらに加速していくのだった。

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