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帰り道

「買い忘れもないし、これで冬になっても問題はなさそうかな?」

「あまりにもひどい大雪にならない限りは……ですけどね。多分、大丈夫ですよ」

 王都での用事を全て終わらせた僕たちは、アマロ村へと向かう客車に揺られていた。


 各地へと向かう客車が王都から出ており、人々はそれに乗って帰宅をするわけだが、現在の乗客は僕たち以外いない。

 アマロ村は他の集落から離れた方角にあるので、こうなることはよくあるのだ。


「まさか、守衛隊長さんと話をすることになるとは思わなかったよ。そっちは何か変わったことはなかったかい?」

「これといったことはありませんでしたよ。ただ、お城を正面で見たレン君が素描を始めちゃって……。楽しそうだったので、止めるに止められませんでしたよ」

 僕たちが座っている側と反対側の席で、レイカたちは静かに寝息を立てていた。


 先ほどまで興奮しながらお喋りをしていたというのに、現在は姉弟仲良く眠っている。


「レンが描いてくれた絵を見せてもらったけど、本当にすごかったよ。色がついたらもっとすごいんだろうなぁ」

 眠るレンのそばに置かれているスケッチブックを開き、描かれた絵を再度見る。


 天守を守るかのように、周囲に建てられた四つの尖塔。

 色がなくとも荘厳さを感じられるバルコニー。


 そして何よりも、美しい天守が目を引く素晴らしい絵だ。


「これをあっという間に素描しちゃうんだもんな……。よっぽど、好奇心がそそられたんだろうね」

「本当に、すごいスピードで描いてましたよ。おかげでお買い物にそれほど影響が出なかったので、合流に遅れることもありませんでした」

 ナナたちが荷物を持って待ち合わせ場所にやって来たのは、僕たちが到着してから少し経った頃。


 丁度やって来ていた客車に飛び乗れたので、帰宅する時間が遅くなることはなさそうだ。


「こちらとしては、レイカちゃんが選んだ剣に驚きましたよ。もう少し細身の剣を選ぶと思っていました」

「レイカの体格なら、細剣の方が良いはずなんだけどね。でも、あの子自身が気に入った剣なら、それが一番なはずさ」

 ある程度戦いに慣れている僕が選ぶべきだったかもしれないが、最初は自身が選んだものを使いたくなるもの。


 どうしても合わない、扱いにくいということがあれば、選び直せばいいだけだ。


「剣のお手入れは、やっぱりシャプナーさんがしてくれるんですか?」

「うん、お願いしてきた。一緒に手入れをしてもらった方が安く済むし、僕以外の魔法剣士の交流先として良いはずだしね」

 シャプナーさんはかなりの情報通なので、この大陸に明るくないレイカにとって有用な情報源となってくれるだろう。


 いずれ一人で旅をしたいなどと言い出しても、きっと力になってくれるはずだ。


「久しぶりにお会いできたわけなんですから、色々お話もされたんでしょう? どうでしたか?」

「相変わらずだよ。実はレイカに色々教えることに難色を示されちゃってさぁ……。ひどいと思わない?」

 シャプナーさんとの会話内容をナナに伝えると、彼女は笑いながらこう言ってくれた。


「魔法剣士の先輩として、頑張れって言ってくれているんですよ。でなければ、もっと反対しているはずですから」

「んまあ、そういうことなんだろうけど……。頑張るしかないか」

 レイカを正しく導くことができなければ、それこそ幻滅されてしまう。


 シャプナーさんの恩に報いるためにも、努力していかなければ。


「そういえば、帰ったらレイカと話そうと思っていたことがあったんだけど……。なんだっけ……」

「大切なことなんですか?」

「う~ん……? 大切だった気もするし、それ程でもない気もする……」

「なんですかそれ。でも、思い出せないってことは、実のところあまり気にしていないってことじゃないですか?」

 ナナの言う通り、あまり気にならないことだったようにも思える。


 無理に思い出そうとして、疲れる必要もないか。


「村に着いたら村長さんにお礼を言いに行って……。村の人からお願いされていたものを渡しに行って……。ふああぁ……。なんか眠くなっちゃったなぁ……」

「朝早く出てきましたし、やるべきことも一段落したわけですからね……。私も、眠くなってきちゃいました……」

 ナナもまた小さくあくびをし、まぶたを擦りだす。


 まだ客車に揺られている時間は長いので、ひと眠りするのも良いかもしれない。


「他にお客さんもいませんしね……。肩、貸してくださいね……」

 ナナは瞳を閉じ、僕の肩に側頭部を寄せてきた。


 すぐに呼吸は規則的な寝息となり、口元には小さな笑みが浮かびだす。


「お休み……。ふあ……僕も……」

 穏やかな眠気に寄り添うよう、ゆっくりと瞳を閉じる。


 この時見た夢は、家族勢ぞろいでピクニックをしている夢だった。

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