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二人の正体

「お嬢様。差し出がましいことを申しますが、私は反対いたします。彼らの素性がまだ分からぬのですし……」

 アマロ村への帰宅道中。僕たちの列の中には、プラナムさんとシルバルさんという二人組が追加されていた。


 彼女たちは最後列を歩きながら、言い争いをしている。


「初対面でいきなり押し掛けたというのに、何も疑うことなくわたくしの後を追いかけてくださった方々ですよ。助けられたというのに、よくもまあそんなことを言えますわね」

「そ、それを言われてしまうと辛いのですが……」

 プラナムさんの指摘を受け、言葉を詰まらせるシルバルさん。


 こちらにまで届く声量で話をしているが、聞いてしまってもよい話題なのだろうか。


「きっと大丈夫。わたくしの見る目をお忘れ?」

「む……」

 プラナムさんが発した言葉により、シルバルさんは何も言わなくなってしまった。


 見る目という言葉だけで言いくるめるとは、一体どういうことなのだろうか。


「何よりもわたくし、ソラ様の魔法に惹かれましたの! 自らだけでなく、レイカ様を強化する魔法の持ち主である彼こそ、最適ですわ!」

 僕の魔法は、どういった目的のために使われてしまうのだろうか。


 不安が顔に出ないように努めつつ、お二人に声をかける。


「まだ完全に状況を飲み込めていないので再確認したいんですけど、お二人はヒューマンではないというのは確かなんでしょうか?」

「どこで誰が聞き耳を立てているか分かりませんから、詳細は安全な場所に移動してからお話いたします。いまはヒューマンの皆様より体の小さい種族と思ってくださいまし」

 プラナムさんの言葉にうなずきつつ、視線を道行く先へと戻す。


 彼女が一人で助けを求めに来たときは驚いたが、いま思えば納得できる部分は多々ある。

 言葉遣いがしっかりしていること、小柄な体格ながら素早く走ることができること、僕たちのことを大人ではなくヒューマンと呼んだこと。


 彼女たちがヒューマン以外の種族でなければ、あり得ないことだらけだ。


「私たちと同じ……。は、あり得ませんよね……。とても十二歳前後には見えませんし……」

「僕たちより小さいのに、年上のように感じる」

 レイカたちの言う通り、プラナムさんたちはホワイトドラゴンではないだろう。


 僕の知識に存在している種族は、ヒューマンとホワイトドラゴン、それともう一つの種族をほんの少し知っているだけなので、それ以外の種族となると見当もつかない。

 種族も気になるが、彼女たちはどこから来たのだろうか。


「それにしても綺麗な土地ですわね……。このような土地が、もう少しわたくしたちの国にあったら……。更なる奪い合いとなっただけでしょうか……」

「……私には、何も言うことはできません」

 プラナムさんたちの言葉には、どこか羨望に似た思いが込められているように感じた。


 彼女たちが住んでいる土地は、荒廃していたりするのだろうか。


「……いまは目的の物を持ち帰ることを考えましょう。強すぎる羨望は、妬みへと変わってしまいます」

「ええ、そうですわね……。同じことを繰り返すことは許されませんわ」

 二人が何を言っているのか、僕には分からなかった。


 だが、何か重い使命を抱えてここまで来たということだけは理解できる。

 ただの同情心なのかもしれないが、力になりたいという気持ちが心の奥から湧き出てくるのを感じた。


「もうすぐ到着です。あそこにあるのが、僕たちが住んでいる家ですよ」

 日が地平線の彼方に隠れ始めた頃、僕たちは自宅そばに帰り着いた。


 体が小さなプラナムさんたちの歩く速度に合わせて移動していたため、予定時間よりも帰宅が遅くなっている。

 ナナたちは、一向に帰ってこない僕たちを心配していないだろうか。


「皆さま。わたくしたちをここまで案内していただき、誠にありがとうございます。勝手な申し出ですが、屋内に入れて頂くことは……」

「もちろん、大丈夫ですよ。驚くこともあると思いますが、危険なことはないはずなので」

 玄関前まで移動し、カギを取り出して家の扉を開ける。


「ただいまー」

「あ、お帰りなさーい! ちょっと遅かったですけど、何かありました?」

 リビングからナナの声が響くのと同時に、こちらに向かって跳ねるような音が近づいてくる。


 やはり、心配させてしまったようだ。


「ちょっとね。お客様がいるから出てきてくれないかな?」

「お客様? 分かりました、すぐに行きます」

 言い終えた一瞬後に、ナナがリビングから顔を出した。


 足元には、彼女と同じようにこちらを覗き見るスラランの姿がある。


「あなたがナナ様ですね? 突如押しかけてしまい、誠に申し訳ございません。わたくしはプラナムと申します。お初にお目にかかりますわ」

「シルバルと申します。以後お見知りおきを……」

「え? こ、こちらこそお会いできて光栄で……。って、ソラさん。この子たちは一体……?」

 こちらに寄ってくるナナに対し、プラナムさんとシルバルさんが挨拶をしてくれる。


 二人に挨拶を返しつつも、彼女は困惑した様子を見せていた。

 小さな子どもが丁寧に挨拶するように見えて驚いたのだろう。


「このお二人は、他所の大陸からやって来た異種族の方々。子どもではないらしいんだ」

「異種族!? しかも子どもじゃないって……!? そ、それは失礼しました!」

 ナナは慌てた様子で頭を下げていた。


 とりあえず、続きは家の中でするとしよう。


「どうぞ、中へとお進みください。左が客間となっているので」

「分かりました。では、お邪魔いたしますわね」

「失礼いたします。お嬢様、念のため私が先に――あれは、まさかモンスター……?」

 スララン関係でちょっとしたいざこざはあったものの、プラナムさんたちは席についてくれた。


 僕たち向けに作られた椅子とテーブルなので、座るのに一苦労の様子ではあったが。


「では、わたくしたちの目的――の前に、わたくしたちの正体をお伝えしなければなりませんね」

 プラナムさんの言葉に皆でうなずき、彼女の口が再度開かれるのを待つ。


 なぜ、こんなにも胸がドキドキするのだろう。

 知らないことを教えてもらえるという、ワクワクとした思いから来るのか。


 もしかしたら、未知の領域に足を踏み入れるという不安もあるのかもしれない。


「わたくし、プラナムは『ゴブリン族』。シルバルは『ドワーフ族』と呼ばれる種族の者。この大陸から南方にある、『アディア大陸』から参りました」

 プラナムさんとシルバルさんは、被っていたフードを取り払う。


 フードの中から現れた二人の頭髪は、茶色と特に変わったところはない。

 何よりも目を引くのは、僕たちの物と比べても非常に長く、鋭利な形をしている耳。


 それ以外には、ヒューマンの子どもと変わる点はなさそうだ。


「おや? あまり驚かれた様子がありませんね……。驚きのあまり、天井に頭をぶつけるくらい飛び上がるかと思いましたのに……」

「それはさすがに……。あなた方と同じで、うちにも他の大陸から来ている者がいるので。レイカ、レン。この人たちなら見せても大丈夫でしょ?」

 レイカとレンはうなずくと、被っていたフードを取り外してくれた。


 白い髪と白い角。それらを見たプラナムさんは、歓喜の表情を浮かべる。


「白い角!? まさか、ホワイトドラゴンの方々ですの!? ヒューマンだけでなく、ホワイトドラゴンのお姿まで見られるとは! 旅をしてきたかいがありますわー!!」

 嬉しそうに姉弟のことを見つめるプラナムさん。


 もしかすると、彼女も僕たち側の性格をしているのかもしれない。


「おっと、いけませんわ! わたくしとしたことがつい……。なるほど、既に他の種族がおそばにいたために、わたくしたちの姿を見ても驚かれなかったのですわね」

「そうなります。申し訳ありません、この子たちのことを黙っていて……」

 謝罪をすると、プラナムさんは笑顔を見せながら許してくれた。


 彼女自身、姿を隠しての行動をしていたので、僕たちの事情を汲み取ってくれたのかもしれない。


「さて、少しばかりですがお互いのことを知り合えたわけですし、そろそろご相談についてのお話を致しましょうか」

「ええ、分かりました」

 プラナムさんの言葉に同意し、耳を傾けようとする。


 するとナナが困った様子の表情を浮かべ――


「あの……。プラナムさんたちの正体は分かったんですけど、何がどうなってこうなっているのか説明していただけませんか? 私だけ何も知らないのはさすがに……」

 ここに至るまでの経緯についての説明を求めてきた。


 説明するのをすっかり忘れていたことを反省しつつ、ナナにこれまでの出来事を伝える。


「モンスターに襲われていたところを助け、気に入られてしまったと……。ソラさんって、意外と他者を惹きつけますよね……」

「意外とって酷いなぁ……。まあ、僕自身驚いているところではあるけど」

 いままではナナやアマロ村の人たちとの間柄だけだったというのに、ほんの数か月で様々な人と知り合った。


 モンスター図鑑関連で動き出したことで、何かが変わりだしたのだろうか。


「ナナ様もご理解が済んだようですし、ご相談の件について話をさせて頂きますわね」

「はい、お時間を頂きありがとうございました」

 椅子に座り直し、プラナムさんの言葉を待つ。


 相談というのは何だろう。

 帰宅道中に僕の魔法がどうのと話していたが、何か作ってほしいという話だったりするのだろうか。


「では、先に結論からお話させていただきます。ソラ様。実を言うと、あなた様の魔法を……。いえ、魔法を使うことができるあなた様が欲しいのです」

「「「「え……」」」」

 想像以上の言葉に、僕の家族たちは動きを止める。


 再び呼吸をしようと口を開くのと同時に、一気に声が漏れていく。


「「「「ええええ!?」」」」

 僕たち家族は、大声を出して驚いてしまうのだった。

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