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シルバルとの会話

「宿の手配までしていただけるとは……。誠に感謝いたします」

 アマロ村の宿屋にて。僕はシルバルさんと二人きりで会話をしていた。


 僕の家族たちには先に家へと帰ってもらっており、ちょうど帰り着いた頃だろう。

 プラナムさんは食後のせいか気疲れのせいか分からないが、眠気を覚えたらしく、割り振られた部屋へと入って休んでいる。


「いえ、気になさらないでください。本当は、僕の家の方が安全だとは思うのですが、空いている部屋が無くて……」

「我々は旅をしてきた側。野宿もあり得る話ですので、宿屋で休めるのは最大の幸福ですよ。警戒をする必要はありますが、ご心配には及びません」

 僕の家に宿泊させられない分、せめてこの宿で一番の部屋を取ろうとしたものの、それはシルバルさんに止められた。


 安く済むのはありがたいが、案内をした側としてのメンツもあるにはあるので、少しだけ複雑な気分だ。


「しばらくはこの村に滞在し、許可が下り次第オーラム鉱山へ。という形でよろしかったでしょうか」

「ええ、それでお願いします」

 僕もオーラム鉱山に鉱石を買い付けに行くことがあるので、許可は問題なく下りるはず。


 すぐさま下りるかどうかは別の話だが、エイミーさんに手助けを願うのもいいかもしれない。


「この村は異種族に対しての知識が少しとはいえありますので、あまり無茶な行動を取らない限り、奇異な目で見られることはないはずです。何か困ったことがありましたら、僕の家を訪ねてくださいね」

 頭を下げ、宿屋から出て行こうとすると。


「申し訳ありません。もう少々、お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」

 シルバルさんに呼び止められてしまった。


 彼に向き直り、うなずいて承諾の意思を見せる。


「では、改めまして……。本日はお嬢様に多大なお力添えを頂き、誠にありがとうございました。そして……」

 シルバルさんは自分の胸元に手を当て、僕に向けて大きく頭を下げると。


「あなた方を疑ってしまい、申し訳ありませんでした。不快な思いをさせてしまったこと、ここに謝罪いたします」

 そう言葉をつづけた。


 確かにシルバルさんは、出会ってからしばらくの間は僕たちのことを疑っていたように思える。

 金属容器の実験を始めた辺りから、警戒等をしなくなっていたはずだ。


「顔をあげてくださいシルバルさん。僕たちは誰もそんなことを思っていませんよ」

 僕の言葉を聞き、シルバルさんは少しだけ頭をあげた。


「僕もナナも、あなた方に協力することを選びました。レイカもレンも、あなた方に色々なことを質問していた。不快な思いをしていたら、そんなことをしようとすら思いません」

 嫌だと思った相手に興味を抱くことや、力を貸そうなどとは考えないだろう。


 シルバルさんは、プラナムさんのことを守ろうとしていただけ。

 その一生懸命な姿に、負の感情を抱くわけがない。


 初めて会う相手に警戒心を抱くのは当然であり、僕も彼と同じ立場に立っていたとしたら、必ず疑いから入るだろう。

 守るべき存在がすぐ横にいるのだとしたら、なおさらだ。


「このような方々を、我々は……」

「……シルバルさん?」

 一瞬、シルバルさんが苦悶に満ちた表情を浮かべた気がした。


 だが彼はすぐに首を横に振り、再度僕に顔を向けてくれる。

 その表情には、強い決意が抱かれていた。


「当日、何か問題が起きた時は、私があなた方の盾となりましょう。体格はあなた方に劣るものの、これでも兵の端くれ。武芸は心得ております」

 シルバルさんは宣言をしながら、右腕を自身の胸の前に差し出し、強く握りしめる。


「私の名はシルバル。プラナムお嬢様を守る者。ソラ殿、よろしくお願いいたします!」

 その姿は、僕にはとてもまぶしく見えるのだった。

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