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第十三章 魔法剣士のお仕事

調査任務の誘い

「どうしよ……。ルペスさんに断られちゃった……。他に頼れそうな先輩、まだほとんど知らないんだけどなぁ……」

 魔法剣士ギルドの受付にて。民間から持ち込まれた依頼を確認していると、ミタマさんが悩む素振りを見せながら近寄ってくる姿を見つけた。


 まだ、僕の姿に気づいていないようだ。


「やあ、ミタマさん。何か悩み事かい?」

「ひょえ!? あ、ソラさんでしたか……。びっくりしました……」

 悩んでいるところに声をかけられたことで驚いたのだろうが、少しばかりショックだ。


 だがそれは、周囲に気を配れないほどにミタマさんが悩んでいる裏返しでもあるわけで。


「僕でよければ話を聞くよ。これでも、ルペス先輩と共に活動していた魔法剣士でもあるからね」

「ルペスさんと……。そっか! ソラさんなら!」

 悩んでいた素振りもどこへやら。


 提案にうなずいたミタマさんは、期待に満ちた表情を僕に向けてきた。


「実は、調査任務を受注しようと思っているんです。けど、それを受けるには先輩魔法剣士の同行が必要じゃないですか。ルペスさんに同行してもらおうと思ったんですけど……」

「なるほど、だから断られてどうしようって言ってたのか……。よし、僕がその任務に同行させてもらうよ」

 僕の言葉に、ミタマさんは一層明るい表情を見せてくれた。


 調査任務はその名の通り、モンスターや土地の調査を行う任務。

 誰でも受けて良い任務となっているが、基本的には魔法剣士になって日が浅い人物が受ける任務となっており、正式な魔法剣士になる前に必ず受けるべき任務でもある。


 未熟な魔法剣士がそれを行う目的は、調査任務を通して知識の拡充を図ることと、調査の仕方を先輩の魔法剣士から学ぶこと。

 また、任務中にモンスターに襲われないとも限らないので、先輩が後輩を見守ることでお互いを理解し、結束を図るのも目的の一つ。


 魔法剣士という職業の性質上、知るという行為を強く求められるので、調査任務を通して身に着けていくというわけだ。


「ありがとうございます! お願いしてないのに受け入れてくれるなんて、さすがはルペスさんの後輩ですね!」

「そ、それはどういたしまして。じゃあ、受ける任務を決めようか」

 共に受付で依頼内容を確認する。


 大陸の様子が依頼内容から読み取れるので、討伐任務が多いと危険なモンスターの総数も多いことになるのだが。


「モンスターの調査任務が多めですね……。これから忙しくなるんでしょうか?」

「調査任務を行う人たちの判断によるところもあるけど……。討伐任務が増えてくる可能性はあるだろうね」

 調査任務は、討伐任務の前提任務となっている。


 モンスターの討伐を行うために知識が必要な上、本当にモンスターが存在しているのかを確認する必要があるからだ。

 討伐すべきとなれば作戦と必要な人数を決め、他の手段でモンスターを抑えられるのであれば、調査の過程からその方法を考える。


 何をするにも、調査は非常に重要な任務なのだ。


「あ、この任務はどうでしょう? ムーンベアの調査任務ってやつなんですけど」

「夜間の調査任務だから、君におすすめはできないなぁ……。危険性も高めだし、先輩魔法剣士に任せちゃえばいいよ」

 ムーンベアは夜間にしか行動しないモンスター。


 昼間は巣で休むためにほとんど人前に現れないのだが、いざ縄張りを犯す存在を見つけた際は過剰なまでに叩きのめす性質を持っているので、実力のない魔法剣士に任せるには少々荷が重い任務だ。


 ミタマさんにちょうど良さそうな依頼を探していると、一枚の依頼書が目に入った。


「ウィートバード調査任務……。これ、やっておいた方が良いな……」

「ウィートバードって、小型の鳥型モンスターですよね? 危険性は全くないモンスターって聞いてますし、率先して依頼を受けるほどではないのでは?」

 ミタマさんが言うように、ウィートバードは全く危険性がないモンスターだ。


 危険を発見したら自ら逃げ去るほどであり、何か被害を与えたという話は聞いたことはない。


「危険性がないからこそ、ここに依頼が来ることが異常なんだ。もしかしたら、のっぴきならない状態に陥ってるのかもしれない」

 言うなれば、スライム調査任務がここに張り出されるのとほぼ同義だ。


 もしかしたら、アマロ村のスライム事件に近い問題が起きている可能性がある。


「そういう風に考えていかないとダメなんですね……。強かったり、狂暴だったりするモンスターを優先して調べていくべきだと思っていました」

「一見、大したことなさそうな問題も大問題に繋がる可能性があるからね。でも、君が言うことも正しいよ。あくまでバランスが大切ってわけさ。さて、依頼を送ってきた理由は……」

 依頼書を手に取り、内容を読む。


 この依頼の発注元は、穀物生産が主産業となっている村。

 畑をウィートバードに荒らされてしまったため、数を減らしてほしいとのことだ。


「そうだ! ソラさん、この依頼にレイカちゃんを連れて行くことはできませんか!?」

「レイカを? あの子もいつかは受けることになるし、早いうちに終わらせちゃった方が良いか」

 まだ右も左も分からない状態なので、知人同士で任務を受けられるのは嬉しいはず。


 レイカからもミタマさんに教えられることはあるはずなので、お互いに良い影響を与えあってくれるだろう。


「やった! じゃあ、この依頼を受けましょう! 任務出発はいつにしましょうか?」

「三日後かな。事前調査や準備はそれくらいで済むだろうし」

 目的地の村はそう遠くはない。


 食料等の準備だけはしっかり行い、他に必要な物があれば現地で買い集める形で問題なさそうだ。


「レイカちゃんにも依頼のことを教えに行かないと! ソラさん、この依頼が誰かに持っていかれないように見ててもらえますか!?」

「りょーかい。いま、あの子は来客用の客室にいるはずだよ」

 ミタマさんは、僕に手を振りながら嬉しそうに駆け出していった。


 いまはまだ、子ども同士の触れ合いに近いのかもしれない。

 いつかは魔法剣士の仲間として、共に歩めるようになることを願うとしよう。

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