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第十六章 『アイラル大陸』の調査

調査任務へ

「それじゃ、行ってきまーす!」

「はーい、行ってらっしゃい!」

「『アイラル大陸』出身者として、しっかり案内してやるんだぞー」

 防寒具をまとい、剣と魔導書を装備し、両親に声をかけてから外に出る。


 今日の天気は快晴。雲一つない空に太陽が浮かび、白銀の大地を明るく照らしていた。

 これから始まる『アイラル大陸』調査を、祝福してくれているようだ。


「お、ナナも準備ができたみたいだね。寒さは大丈夫かい?」

「ええ。ソラさんのお義父様から譲っていただいた防寒具、とってもあったかいです!」

 靴を履いて玄関から出てきたナナは、白い毛皮でできた防寒具をまとっていた。


 この大陸で最高の防寒能力を持つ希少な毛皮で作られており、雪の中で転がり続けても全く寒くならない優れもの。

 耐久性にも秀でているため、冬場かつ雪の中の行軍には適した装備だ。


「もこもこしてて可愛いよね。似合ってるよ」

「ありがとうございます。大切に使わせていただきますね!」

 嬉しそうな笑みを浮かべるナナを連れ、村の広場に向かう。


 その場には、魔法剣士と冒険者たちが集まっていた。


「おはようございます!」

「おう! おはよう!」

「おはようございまーす!」

 挨拶をすると、冒険者組も魔法剣士組もこちらに振り向いて挨拶を返してくれた。


 和やかに会話をしている様子を見るに、問題は何も起きていないようだ。


「ソラさん! ナナさん! おはようございます!」

 声に振り返ると、レイカが元気よく駆け寄って来た。


 彼女は、僕と共に買った剣を腰に差し、僕が与えた魔導書が入っているであろうカバンを肩にかけている。

 彼女もまた、今回の調査メンバーの一員だ。


「もう来てたんだね、おはよう」

「おはよう、レイカちゃん。昨日はよく眠れた?」

 レイカと色々会話をしたが、体調が悪そうな雰囲気は出ていない。


 万全の状態で、今回の調査に望もうとしているようだ。


「さて、そろそろ集合時間なんですけど、まだ集まっていないのはウォル君たちだけですかね?」

 懐中時計を見てみると、針が集合時間を指そうとしていた。


 調査を最も楽しみにしていたであろうウォル君が、この時間になっても姿を現していないとは、何か問題でも起きたのだろうか。

 しっかり者のアニサさんがいるので、遅刻することはないと思うのだが。


「彼は昨晩、楽しみのあまり寝付けなかったようで……。幾人かと盛り上がっているところを見かけましたね」

「広間からどんちゃん騒いでいる音が聞こえたが、あれウォルだったのか……」

 調査団の会話の中から、アイツなら仕方ないかという声が聞こえてきた。


 寝れないというのに、なぜ人を集めて騒ごうとするのだろうか。

 そんなことをすれば余計に眠れなくなるだけだろうに。


 いまごろ、爆睡しているウォル君をアニサさんが懸命に起こそうとしているのだろう。

 集合時間にはまだ余裕があるので、皆で談笑しながら彼らを待つことにした。


「す、すみません! 遅れました!」

 集合時間に差し掛かろうとした頃、件の人物たちがやって来る。


 ウォル君は地面に倒れており、そんな彼をアニサさんが引きずる形で。

 二人が通ってきた道の雪は、他の部分より多めに除けられていた。


「初めての合同調査なのに、このバカが目を覚まさなくて……。頭に来て叩き起こそうとしたら、今度は気絶しちゃったんです……」

 地面に倒れるウォル君に視線を向けると、彼の髪の毛は若干焦げ付いていた。


 どうやら、魔力を込められた目覚ましを受けていたようだ。


「ま、まあ、いずれ目を覚ますよ、多分。それより、全員集合したようなので、出発しましょうか」

 僕の合図を聞き、調査団の皆が空に向けてこぶしを突き上げる。


 冒険者、魔法剣士合同の『アイラル大陸』調査の旅が始まった。



「いよーっし! 冒険の始まりだーっ!」

 村の入り口から外に出て数分が経過した頃。目を覚ましたウォル君が、元気よく皆を先導していた。


 先頭をどしどし歩きつつも、彼の視点はあちこちに飛んでいく。

 いまは、雪の中で動き回るモンスターに視線が向いているようだ。


「おおーっ! 向こうに見たことないモンスターがいるぞ!」

「ちょっと、ウォル! 自分勝手な行動をとっちゃダメでしょ!?」

 ウォル君は、モンスターを間近で見ようと駆け出していく。


 だが、肝心のモンスターはその行動に驚いたらしく、一目散に逃げてしまった。


「行っちまったか……。集団行動中だし、無理に追いかけるのもなぁ……」

「集団行動関係なしに、モンスターに近寄ろうとすんじゃないわよ! する必要のない危険を冒して、ケガをしたらどうすんの!?」

 頭の裏で手を組みながら、つまらなそうにウォル君は戻って来た。


 アニサさんに叱られるも、まったく気にしていないようだ。


「なあ、ソラ。今日はどこまで冒険するんだっけ?」

「行軍の練習もかねて、近隣の村まで行くつもりだよ。いきなり遠距離の行動をするのは無理があるからね」

 調子に乗って遠くまで移動したら、危機に陥ってしまった。


 そのようなことにならないよう、皆の能力等を確認するのが今日の目的だ。


「ちょっと地味だなぁ……。どうせなら、強いモンスターと一戦交えるとかよぉ」

「一人でやってくればいいじゃない。私はやーよ」

 呆れた様子を見せながら、アニサさんがウォル君にツッコミを入れる。


 戦闘能力の確認のためにモンスターと戦うのは良いかもしれないが、強力な個体とはさすがにやり合いたくはない。


「そうだ、ソラ。お前の戦い方をいっぺん試させてくれよ。強化魔法こそ、戦闘に入る前に理解しとかないと危険だろ?」

「それもそうだね。村からもそれなりに離れたし、ここでお互いの戦い方を再確認しましょうか」

 調査隊員に散開するよう指示を出しつつ、ここにある戦力を確認する。


 魔法剣士は僕を含めて四名。見習い魔法剣士であるレイカを含めると五名だ。

 冒険者はウォル君とアニサさんを入れて四名で、内二名は剣士、もう二名が魔導士。


 最後にナナを含めた、十名が今回の戦力となる。


「基本的には僕が皆さんの能力を強化し、戦闘の補助をします。いまから皆さんに強化魔法をかけますので、動きの確認をお願いしますね」

 魔導書を開き、主に冒険者たちに強化魔法をかけていく。


 ウォル君ともう一人の剣士は大きくジャンプをしたり、剣を握って軽く打ち合いを行ったりしていた。


「ジャンプとダッシュが結構変わってくんな……。だが、うまく行動すれば面白い戦い方ができるかもな!」

 ウォル君は好奇心に満ち溢れた笑みを浮かべていた。


 いくら強化をしても、肝心の本人が有効活用できなければ意味がない。

 彼は体を動かしながら思考をしているようなので、問題はなさそうだ。


「魔法剣士たちは自身の強化等が終わり次第、それぞれの得意分野で戦闘に参加することになると思います。前衛同士、後衛同士で協力するようお願いしますね」

 簡単な話し合いと、確認が終わった調査団が僕のそばに戻ってくる。


 ものすごい速度で周囲を駆け回っていたウォル君も戻って来たので、僕たちは行軍を再開することにした。


「こういう強化をして魔法剣士たちは戦い続けてたんだな……。剣の鍛錬に加えて魔法の習得もするんだろ? オイラには想像もできないぜ……」

「もしよかったら、君にも魔法の一つを教えてあげよっか? その方ができることは増えると思うけど」

「いや、オイラはてんで勉強なんてできねぇし、有効に使えるとも思えねぇ。いまのままで十分さ」

 提案をしてみるも、ウォル君は首を横に振ってそれを断った。


 魔法は直感が重要な所もあるので、その点、彼には適性があると思うのだが。


「あったとしても必要ねぇ。オイラが魔法を使えなくても、アニサが使えるからな。アイツがそばにいるから大丈夫だ」

「……そっか。アニサさんのこと、信頼してるんだね」

 僕にニヤリと笑みを浮かべてから、ウォル君はアニサさんへと視線を向ける。


 向けられた本人は首を傾げ、不思議そうな表情を浮かべていた。


「さあ、どんどん行こうぜ! オイラたちに冒険されるのを、この大陸はずっと待ち続けていたんだからよ!」

 変わった発破のかけ方をしながら、ウォル君は雪路を先導していく。


 やがて僕たちの視線には人工物が映りこむ。

 最初の目的地である集落――ステリア村にやって来た僕たちは、住民たちに様々な質問をされながら歓迎されるのであった。

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