「これで――終了!」
木槌を振り下ろすと、ずれていた木材同士がピタリとはまり、強固に結びつく。
僕の足元にある建物は、プルイナ村の名物である温泉だ。
村の復興には一カ月と少しかかってしまったが、他の民家と併せてこれで全ての修復が完了となる。
「おお~! 見違えたな!」
「傷んでいるところもあったからね~。綺麗に修理できてよかったわ!」
最後の修復ということもあり、建物の周囲には多くの人たちが集まってきていた。
この村の住人であるホワイトドラゴンに加え、共に海を渡ったヒューマンたち。
建物を見上げる彼らの表情は、希望に満ち溢れていた。
「今日までの辛い日々を耐え忍び、我々はここまで戻ってくることができた! それもこれも、尽力していただいた調査隊の皆様のおかげです!」
プルイナ村の村長さんが、調査隊に向けてお礼を言う。
それに併せ、この村の人々も頭を下げていた。
「いえ。我々はあなた方の願いを支えただけです。ここまで復興できたのは、あなた方のお力ですよ」
村長さんの言葉に対し、船長さんはそう返してくれた。
人々が動き出さないことには、復興の手伝いをすることはできない。
ここで暮らし続けたいと思ってくれたからこそ、僕たちはその思いを押し続けることができたのだ。
「新たな村の門出として、おもいっきり騒ぐとしよう! いつまでも落ち込んだ気分を引きずっていたら、犠牲になった者たちの心も晴れんからな!」
村長さんの言葉で、この場にいる皆が歓喜の声をあげた。
全ての復興が終わったので、僕たちは近いうちに『アヴァル大陸』へと帰還することになる。
落ち込んだ気分のまま、あの海を渡ることなどできやしない。
「食事を作れ! 酒を用意しろ! 一晩中語り明かすぞ!」
「「「オオーッ!!」」」
意気揚々と、皆が各々の場所に帰っていく。
僕はすぐに帰ることはせず、そばで共に作業をしていたお父さんに声をかけることにした。
「手、平気だった?」
「ああ、これくらいなら問題ないさ。だが、痺れはやはりあるな……」
お父さんは、震える自分の右手を見つめる。
ナナやお母さんの治療のおかげで傷の大部分は塞がったのだが、その手だけは後遺症が残ってしまっていた。
当然、狩人の仕事などできるはずがなく、リハビリを兼ねながら新たな仕事を探している途中なのだ。
「やっぱり無理はしない方がいいんじゃ――」
「心配すんな。右手は動かなくとも、他の部分はちゃんと動くんだ。じっとしてんのは性に合わんさ」
言いながらも、お父さんの表情は悔しそうに見える。
できていたことができなくなる。想像を絶するほどの苦痛のはずだ。
「ほれ、お前も母さんの料理を手伝ってこい。美味いもん、食わせろよな?」
「……分かった。向こうの料理を食べさせてあげるよ」
そう言ってから、僕はお父さんのそばから離れることにした。
仮に自分の力を失ってしまったとして、僕は彼のように、ナナのように歩けるだろうか。
●
「うおおお!! オイラの一発芸! 行くぞおおお!!」
「アッハッハ!」
「向こうで覚えた技術! お見せしますよ~!」
「わぁ~! すごい、すごい!」
村の広場に置かれた大きな火種を取り囲み、ヒューマンとホワイトドラゴンが大騒ぎをしている。
かつての調査隊が訪れた時も、宴会はしたのかもしれない。
されどここまでの規模で、これほどまでに心が通い合ったのは初のことだろう。
僕は、この美しい光景を二つの瞳に焼き付けていた。
「私たちもホワイトドラゴンも、本質は変わらないんですね。楽しければ騒ぎ、悲しければ涙を流す……。それなのに、なぜ差異が出てくるんでしょうね……」
騒ぐ人々の姿を見つめながら、隣に座るナナが呟いた。
心も想いも、遥か昔からの流れを続け、積み重ねたことで現在がある。
それぞれの種族が現在の暮らし方になったことには、それぞれ異なる理由があるのだろう。
もしもこれらが一つに結び付く日が来るのだとしたら、世界はどのように変わっていくのだろうか。
「旅をすれば、そういうことも分かるんでしょうか?」
「かもね。僕たちが知っているのは、『アヴァル大陸』と『アイラル大陸』のことと、いくつかの大陸にいくつかの種族が住んでいるという話くらい。僕たちはあまりにも世界のことを知らなかった」
いままでにも知る機会はあったのかもしれない。
だが、僕たちのこの有様から察するに、チャンスをものにできなかったのだろう。
知識を求めるホワイトドラゴンでさえ、それは不可能だった。
「モンスターを知って、異種族を知る。大陸を知って、世界を知る。もしかしたら、いまが最大級のチャンスなのかもしれない」
カバンを開き、この大陸で出会ったモンスターの情報を記した資料を取り出す。
これまでに得た情報をモンスター図鑑に張り付けたとしても、白紙のページの方がずっと多い。
けれども、少しずつ情報は集まっている。
「私ももっともっと、たくさんの事を知ってみたくなりました」
「それは良かった。じゃあ、みんなで一緒に続けようよ。探究の旅を」
「そうですね……。みんなで一緒に……」
世界は、僕たちが来るのを待っているのだ。
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『ホワイトドラゴン族』
体長 1.4メール ~ 1.9メール
体重 40キロム ~ 70キロム
生息地 『アイラル大陸』北部地方
知識という力を求める種族。
白い角と白い髪を持ち、『ブラックドラゴン族』と共に、『ヒューマン族』に近い容姿をしている。
十二歳となったホワイトドラゴンの子どもたちは、知識を深めるための旅に出るという文化を持つ。
元々は大陸内で完結する旅ではあったが、最近では他の大陸に旅立つ者も数多く存在する。
筋力等の力には優れていないが、魔道具と魔法の知識に優れており、彼らが作る魔道具は非常に強力。
また、これまでに得てきた知識、技術を用いて、様々な困難を突破していこうとする強い意思を持つ。
好奇心が強く、興味を持った事象にはどんどんのめり込んでいくので、質問攻めにされることも時にはあるかもしれない。
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