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第十九章 魔法剣士叙任式

帰還

「よーし! 順番に積み荷を降ろせ!」

 『アイラル大陸』の岸辺を離れてから十日後。海都ポルトの港に、レジナ・ウェントゥス号は錨を下ろしていた。


 自分の荷物を持って大地へと降り立つと、そこには知人の姿が。


「お帰り! 白雲君に青薔薇ちゃん! 白角ちゃんに弟君も元気そうだ! 皆、大きなケガもなさそうで何より!」

 ルペス先輩が、船から降りてくる僕たちのことを出迎えてくれた。


 彼に変わった様子はないようだ。


「僕たちは問題ありません。ですが、色々と被害は受けてしまいました……」

 船から降りてくる調査員たちに視線を向ける。


 約二カ月前にこの港を離れた時より、人数が減ってしまった。


「話は後で聞くさ。長い船旅で疲れているだろう? まずは体をしっかり休めておいで」

「分かりました。それではまた後程……」

 荷物を持ち直し、家族と共に魔法剣士ギルドの建物内に入る。


 室内のテーブルには誰一人ついておらず、とても静かだ。


「みんなは席についてて。飲み物を注文してくるから」

 飲食料を扱うカウンターに向かい、置かれているメニューに目を通す。


 僕とナナはお茶で、レイカたちはジュースでいいだろう。

 注文を終わらせ、品物が出てくるのを待っていると。


「おー! 二カ月程度振りとはいえ懐かしいぜ!」

 扉を勢いよく開き、ウォル君が元気よく入ってきた。


 皆を労うためにも、彼らの分も注文するとしよう。


「ウォル君! こっち、こっち!」

「お、ソラか! なんか用か?」

 呼び声に気付いたウォル君が近づいてくる。


 彼にメニューを見せながら、飲み物の相談をすることにした。


「みんなにご馳走したいんだけど、何がいいかな?」

「そりゃあ当然、酒だろ! 一仕事終えた後の一杯は格別だからな!」

 ウォル君の言葉を聞き、頭に疑問符が浮かぶ。


 飲んだことなどないはずなのに、なぜそのようなことを知っているのだろうか。


「なんだその顔。オイラが酒を飲んじゃおかしいのか?」

「いやだって、向こうでの宴会中にも――」

 ウォル君がお酒を飲んでいる姿は、思い出の中に存在していない。


 しかし記憶を探り続けているうちに、彼から年齢を聞いていないことに気付く。

 もしや、彼の本当の年齢は――


「まさか、ウォル君って成人済み……?」

「ああ、そうだぞ?」

 さも当然のように返答をされ、絶句してしまう。


 僕より背が低い上に、言動も子どもっぽいので完全に年下だと思っていた。

 同い年どころか、年上だったとは。


「んだよ、お前も勘違いをしてたのか? 見た目で判断すんなよなー」

 確かに見た目でも判断したが、最終的には中身で判断していたのだが。


 と言っても、ウォル君の言葉を聞く限り、未成年だと勘違いされたことは多そうだ。


「ご、ごめんなさい……。それで、飲み物は何が良いんでしたっけ……?」

「あ! 話をそらした上に、オイラを年上扱いし始めやがったな! オイラとお前は友達なんだから、んなこと気にすんなよな!」

 相も変わらず、僕のことを友と言ってくれる。


 ならば、これからもこれまで通り接するべきだろう。

 ナナたちの飲み物を運んだ後、僕とウォル君は適当なテーブルへと移動する。


 調査隊の皆が室内に入ってくるまで、彼とのんびり話をすることにしたのだ。


「そっか。二、三日の間に冒険を再開するんだ。寂しくなるなぁ……」

「オイラも一応は調査隊のリーダーだからな。報告しねぇとうるせぇんだよ……」

 不満を口にしているが、ウォル君が報告をしている様子が想像できない。


 恐らく、ほとんどの部分がアニサさんに丸投げされるのだろう。


「それが終わったら、本格的に冒険の再開だ! お前が住むアマロ村にも、そのうち行ってみようと思ってるぞ! アニサからも聞いたが、穏やかでいい村なんだってな!」

 ならば、二人がいつ来ても良いように準備しておかなければ。


 汚れた自宅を見て幻滅するような人柄ではないことは理解しているが、それでも快適に過ごしてもらいたい。


「ソラはどうするんだ? 報告は当然あるんだろうけどよ」

「ここでやるべきことが終わり次第、アマロ村に帰ることになるかな。それがいつになるかは分からないけどね」

 『アイラル大陸』の調査報告に、亡くなった調査隊メンバーの遺族にも会いに行かなければならない。


 このギルドに寄せられている依頼も確認しておきたいので、自宅に帰るのはしばらく先になりそうだ。


「何もないってんなら、オイラたちと一緒に冒険しようぜって言えたんだけどなぁ……。まあ、それは落ち着いてからでもいいよな!」

「確かに、君たちの冒険に参加できるのは楽しそうではあるけど……。あ、そういえば、君が求める魔法剣士は見つかったのかい?」

 ウォル君が調査隊に加わった理由の一つに、魔法剣士の勧誘があったはず。


 様々な魔法剣士と交流し、短いながら共に旅もしてきたので、目を引く人物を見つけられていると良いのだが。


「あん? そんなのお前以外いねぇよ。オイラが一番連れて行きたい魔法剣士は、お前だ!」

「え!? ぼ、僕なの!?」

 誘われるのはとても嬉しいが、僕にも立場がある。


 いきなり魔法剣士を辞め、冒険者になるなど言えるわけがないのだが。


「アハハ。そんな身構える必要はねぇよ。オイラはバカだが、お前が大切な役目を担ってることくらいは分かってる。無理矢理連れまわすようなことはしねぇよ」

 大きく息を吐きつつ胸をなでおろす。


 そんな僕の様子に笑いながら、ウォル君は話を続けた。


「再会した時にでも、冒険についてきてくれよ。そん時は、ナナたちも連れて来いよ? 人数が多い方が冒険は楽しいからな!」

「うん、ぜひそうさせてもらうよ。よろしくね!」

 ウォル君と固めた拳をぶつけ合う。


 なぜかは分からなかったが、握手をするよりも心が沸き立つ気がした。


「お、調査隊の奴らが入って来たな! よし、みんなを呼んで騒ごうぜ!」

「他所の人も入ってくる場所だから、あまり騒がないでよね?」

 皆がテーブルに座ると同時に、注文していた飲み物たちが配られていく。


 大騒ぎしないように注意をしていたつもりなのだが、魔法剣士ギルドには数多くの苦情が寄せられたのだった。

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