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制服と思い出

「やっと終わった……。でもまだ、冒険者ギルドあての物が残ってるのか……」

 『アヴァル大陸』に帰還して一週間後。僕は数多くの報告や、それに伴う書類の製作に追われていた。


 僕が提出する分に、共に調査に赴いた魔法剣士たちが書き上げた報告書の確認。

 それらを提出した上で、口頭による報告。


 他にも細々とやるべきことがあったので、この一週間は目が回るかと思ったほどだ。


「えっと、冒険者ギルド用の報告書は……」

 机を開き、目的の用紙を探していると、とある紙が目に入った。


 それを手に取り、欄に書かれている文字たちを見つめる。


「一緒に帰りたかったな……」

 書かれているのは、調査の過程で犠牲となった調査隊員の名前だ。


 プルイナ村がホワイトベアーに襲撃された際、村を守るために命を散らした人たち。

 彼らの遺族には既に報告を済ませ、謝罪も終えている。


「ただ、みんなを引っ張ればいいだけだと思っていた。けど、みんなが向こうでやってきたことを正しく伝えることも、リーダーの役目なんだね……」

 ひたすらに涙を流された。激しい口調で問い詰められもした。


 伝えなければ、苦しい思いをさせずに済んだかもしれない。

 だが、そのような逃げの手段は、亡くなった人にも遺族にもただただ失礼だ。


「白雲君。少しいいかな?」

「ルペス先輩? はい、大丈夫ですよ。少々お待ちください」

 部屋の外からルペス先輩の声が聞こえてきたので、資料を机の中にしまってから扉に向かう。


 ゆっくりと押し開くと、そこには封筒を持つ彼の姿があった。


「すまないね。白角ちゃんのことで話がしたいんだ」

「レイカのことですか……。とりあえず、中へどうぞ」

 先輩を部屋の中に通し、椅子に座ってもらう。


 僕は彼の向かい側の椅子に座って話を聞くことにした。


「白角ちゃんも魔法剣士見習いとなり、いくつかの任務を完遂したわけだ。なので、急ではあるが三週間後の魔法剣士叙任式に出席してもらい、正式に魔法剣士になってもらいたいと思っているんだ」

「あの子が、もう……? よろしいのですか?」

 先輩は僕の質問にうなずき、理由を話してくれる。


 前提となる任務は終わらせてあること、日々の訓練で良い成績が出せていること、何より、『アイラル大陸』での経験が大きいとのことだ。


「惨敗したらしいが、人との戦いも経験済み。強力なモンスター相手に皆と共に戦い、それに勝利した経験。何より、あの海を渡って戻ってこれたわけだからね。これほどの経験を一度に積んだ魔法剣士は、そういないよ」

「先輩のお墨付きがあるのであれば、何も反対する理由はありません。僕もあの子が正式に魔法剣士になる日を望んでいましたからね。となると、制服等の準備が必要になりますか。もしかして、僕にその役目を?」

 先輩はこくりとうなずくと、贔屓にしている衣服店の詳細が記された資料を取り出した。


 向かうべき場所の確認をした後、早速出かける準備を始める。

 先輩と共に自室から外へと出ようとしたとき、とある問題に気付いた。


「あっ! 女の子が求める衣服の情報が僕にはないので、できればもう一人くらい女性を連れて行きたいのですが……」

「ああ、ならば子狐ちゃんを連れて行くといい。あの子も次の叙任式で正式に魔法剣士になる。既に採寸も終わり、勝手が分かっているので力になってくれるはずだ」

 先輩が言う子狐ちゃんというのは、レイカと同じ魔法剣士見習いであると同時に、彼女の友達であるミタマさんだ。


 きっと、良い提案をしてくれるだろう。


「専属の店とは話がついているから、すぐにでも製作を始めてくれるはずさ。そこについては問題がないんだが……。君も青薔薇ちゃんと暮らしているのだったら、センスも鍛えた方がいいぞ? いざ贈り物をする時など、困りたくはないだろう?」

「うえ!? そ、それは……! ど、努力します! では、失礼します!」

 苦笑を浮かべ続ける先輩から離れ、レイカとミタマさんの元へ向かう。


 道中、先輩が女性たちと高頻度で交流していたことを思い出し、彼のセンスはそういった時に磨かれたのだろうと、納得するのだった。



「レイカちゃんと一緒に叙任式を受けられるとは思わなかったよ~! 素敵な制服を作ってもらおうね!」

「うん! どんなのがいいかなぁ……」

 レイカとミタマさんが、会話をしながら僕の後をついてくる。


 僕がレイカの制服を選ぶとしたら、どんな色を勧めるだろうか。


「白髪だからねぇ……。どんな色でも映えて見えると思うけど、やっぱり赤とかの明るい色が良いんじゃないかな?」

「赤かぁ……。お兄ちゃんが考えてくれた色だから嬉しくはあるけど、ちょっと派手すぎ……かな?」

 僕の提案は、やんわりと断られてしまう。


 妹の好みにそぐわなかったことにうなだれていると。


「ソラさんって、そう言うことには疎いんですね。ナナさんっていう素敵な人がいるのに」

「ぐふっ……」

 ミタマさんの追撃が僕に突き刺さる。


 早速、ルペス先輩の懸念が当たってしまったようだ。


「あははは……。そういえば、お兄ちゃんの制服って青色だったよね? お兄ちゃんが自分で選んだの?」

「ううん。あれは僕が選んだんじゃないんだ。ケイルムさん、僕の師匠が選んでくれた」

 君の名の通り、どこまでも広がって行けるように。


 そんな願いを僕の制服にかけてくれたのだ。


「素敵なお願いですね。ウチは彼のお名前くらいしか聞いたことがないんですけど、どんなお方だったんですか?」

「人の力を見抜くのが得意な人でね、僕の力を見出してくれたんだ。彼が力の使い方を教えてくれなければ、いまの自分はなかったかな……」

 一人で苦しんでいた時に、ケイルムさんはやって来た。


 剣技・魔法・体力などを再度調べ直してくれた彼は、僕に他者の強化という道を勧めてくれたのだ。


「それからの僕は、みんなの支援をする能力を鍛えてきたんだ。直接戦う機会は減ってしまったけど、僕の力がみんなの役に立てると分かって、嬉しかったな……」

「お兄ちゃんの恩人……。私も、会ってみたかったな……」

 ケイルムさんであれば、きっとレイカのことも気に入ってくれただろう。


 良き師匠として、僕以上に彼女を導いてくれたかもしれない。


「ケイルムさんの思い出はここまで。さあ、贔屓にしてもらっているお店に着いたよ。素敵な制服、作ってもらおう!」

「「はーい!!」」

 衣服店の扉を開くと、来客用の鐘が嬉しそうに踊りだす。


 ケイルムさんと共に服を作りに来た時のように、僕も新たな魔法剣士たちと共に服を作りに来た。

 少しは成長できていますと、心の中で彼に報告をするのだった。

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