「作った服、とっても似合ってるよ。汚れたら大変そうだけど」
「む~……。褒めてくれるだけでいいのに……」
叙任式も終わり、僕とレイカは魔法剣士ギルド内にある食堂で話をしていた。
現在の話題は、彼女が着ていた白い制服について。
白には純粋や清潔といった意味がある通り、それを見た者に好意的な印象を与えやすい。
一方で色が混じりやすいという欠点もあり、泥汚れ等がついてしまえば即座に台無しとなってしまう。
鮮やかな色が入り込み、互いの色を引き立て合えば、より美しくなる可能性もあるわけだが。
「汚さなければ良いんだもん。それに、この色が一番良いと思ったから」
そう言って、レイカは自分が着ている服を触り始めた。
あまり言いすぎて、否定の形にしてしまうのは良くないか。
「はふぅ……。緊張したなぁ、叙任式……。無意識的に、変なことしてなかったかなぁ……」
レイカはテーブルに頬をつけ、大きく息を吐く。
心配そうな言葉に対し、表情はとても楽しそうに思える。
自分が魔法剣士になったことを喜んでいるようだ。
「今日から君も魔法剣士。一緒に頑張って行こうね」
「うん! 改めてよろしくね、お兄ちゃん!」
レイカは体を起こし、胸の前で握りこぶしを作りながらうなずいた。
と言っても、これからは僕と彼女とで分かれて依頼を受けることもあるだろう。
チームを組んでいるわけではないので、毎回必ず、共に活動することはあり得ない。
むしろ僕だけでなく、ミタマさんを始めとした数多くの魔法剣士たちと共に任務に向かい、経験を積んで行って欲しいところだ。
「そう、そう。同時期に魔法剣士になった……。えっと、イデイアさんか。彼女とは話をしてみたのかい?」
「ミタマちゃんが声をかけてたけど……。あまり言葉を返してくれなかったみたい」
叙任式の様子を頭に思い浮かべつつ、腕を組む。
少し前のレイカのように、イデイアさんは他者との交流に積極的ではないように思える。
もちろん、物静かな性格で、言葉数が少ないだけの可能性もあるだろうが。
「ちょっと怖いけど、私も今度話してみようかな。どことなく、寂しそうだったんだよね」
「レイカがそう思ったのなら、そうするのが一番さ。ミタマさんが良くしてくれたように、君からしてあげられることがあるはずだから」
レイカはコクリとうなずき、テーブルに置かれていたコップを口に運んだ。
必ずしもうまくいくとは限らない。
けれど、行動してみなければ変わることも変わらないのだ。
「それにしても、あの子はどこ出身なんだろう……。灰色の髪を持っている人なんて、見たことがないんだけど……」
「あの髪には驚いたけど、私たちみたいなヒューマンとは別の種族……ではないよね?」
イデイアさんには灰色の髪という特徴があるものの、ホワイトドラゴンや、ゴブリンのような身体的な特徴は見受けられなかった。
レイカが言う通り、恐らくはヒューマンだろう。
「髪の変色は珍しいけど、あり得ないことじゃない。きっと、彼女にも何かあったんだろうね……。五年前の件に関係しているのか、それとも……?」
「お兄ちゃん、イデイアさんにばっかり興味を示さないでよ……。気になるのは分かるけどさ……」
レイカは口を尖らせ、僕に嫉妬をぶつけてきた。
いままでに見せたことがない珍しい感情だが、僕を完全に兄と認識したことで、甘えたい気持ちが強まっているのだろうか。
七年間も離れて暮らしていた上に、気付いた後もしばらく我慢させていたわけなので、こうなることも理解できないわけではないが。
「ごめん、ごめん。せっかくのお祝いなのに、他の人のことばっかり話してたらつまんないよね。もっと君の未来のことを話したいところだけど……。そろそろ食事会が始まりそうかな」
食堂にある厨房に視線を向けると、様々な料理が大皿に盛りつけられていく様子が見えた。
叙任式の後は歓迎パーティが行われる。
僕たちが座るこの席以外のテーブルにも、お腹を空かせた多くの魔法剣士たちが着いていた。
「ナナさん。ソラ兄たちはあそこにいる」
「よく見つけたね、レン君。魔法剣士の皆さんがいっぱいいて、見つけにくいのに」
視線を向けているのとは別の方向から、ナナとレンの声が聞こえてくる。
二人は僕たちが座っているテーブルに近づくと、まずレイカに声をかけた。
「魔法剣士就任おめでとう。白い制服、とっても似合ってるよ。可愛いな~」
「魔法剣士として頑張って」
お祝いの言葉を聞き、レイカは嬉しそうに表情をほころばせる。
同時に、料理ができあがったことを知らせる声が食堂内に広がっていく。
複数の大皿や様々な飲み物が入ったビンが各テーブルに運ばれ、早速料理を小皿に取り分ける人の姿もあるようだ。
「形式ばった式辞はありません! 皆様ご自由に、お食事をお楽しみください!」
どこからともなく聞こえてきた声で、食事が開始されていく。
僕たちも料理を取り分け、新しく魔法剣士となったレイカのことを祝いながら食事を始めるのだった。