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三兄妹の修行

「もっと素早く! 相手の隙を正確に!」

「えい! それ!」

 レイカの攻撃が、多種多様な方向から襲い掛かってくる。


 それら全てを捌きつつ、反撃として何発かをお見舞いする。

 彼女も僕の攻撃を防ごうとするのだが、全ては返しきれず、いくつかの攻撃が直撃していく。


「うう……。やっぱり、攻撃が全然当たんない……」

「魔法剣士として、君は始まったばかりだよ。焦らないで、基本を大事にするんだ」

 僕とレイカは、鍛錬用の剣を用いて打ち込みの訓練をしていた。


 彼女がこれまでに得てきた力を、確認することが目的だ。


「さあ、まだまだ続けるよ。こい!」

「うん、行くよ!」

 レイカは僕との距離を一気に詰め、突くように攻撃を仕掛けてくる。


 その攻撃を横から弾くように剣をぶつけ、最小限の力で攻撃を防ぐ。


「はあああ!」

 横なぎの攻撃には剣を正面から当て、袈裟切りはいなし、足元を狙った攻撃は素早く飛びのいて回避する。


 距離を開けると、レイカは素早く走り寄りつつ大きく飛び上がった。


「せええい!」

 剣に左手を伸ばし、全体重をかけた攻撃を受け止めるための防御姿勢を取る。


 お互いの力がぶつかり合い、いままでで一番の衝撃が僕の体に襲い掛かって来た。


「良い攻撃……! だけど――それ!」

「きゃあ!?」

 衝撃を押し返すように両腕を大きく振る。


 すると攻撃を仕掛けてきたレイカは吹き飛ばされてしまい、背中から地面に倒れてしまった。


「いたた……! うう~……!」

「さっきの攻撃は強力ではあるんだけどね。でも、どんな攻撃が来るのか分かりやすいし、吹き飛ばされやすくもなる」

 起き上がろうとしているレイカに、注意点を伝える。


 飛び掛かりながらの攻撃は奇襲には向くが、相対しての戦闘では少々分が悪い。

 より大きな力を加えられるので、相手の体勢を崩しやすくはあるのだが、いまの彼女では難しいだろう。


「レイカはまだまだ成長途中だし、力も弱い方。極力使わないほうが良いと思うよ」

 流れをつかむためにする攻撃では決してない。


 速度を生かして何度も剣を叩きつける方が、レイカには合っているだろう。


「さて、君は一旦休憩しておいで。僕はレンの方を見てくるから」

「分かった。休憩が終わったら素振りしてるね」

 家の中に入っていくレイカを見送りつつ、家の裏手に移動する。


 そこでは、レンが剣を手に取って木の人形に向けて振り下ろす姿があった。


「えい! えい!」

「頑張ってるね、レン」

 声をかけると、レンは剣を振るのをやめて僕に顔を向けた。


 どことなく悲しそうに見えるが、何か思い詰めているのだろうか。


「ぜんぜんうまく剣が振れない……。重いわけじゃないんだけど、ブレちゃうんだ……」

 剣を握り直し、木の人形に向けて振り下ろす。


 だが、その攻撃が直撃することはなく、空を切ってしまった。


「……な、何言ってるのさ。まだ君の修行は始まったばかりじゃないか。最初からうまくいくことなんて――」

「姉さんは、初めて戦った時からそれなりに戦えたと言っていた。ある程度は剣を正しく振れていたってことでしょ? なのに、僕は動かない的に当てることすら――わっわ!?」

 再び剣を振り下ろそうとするも、木の人形に攻撃が当たるどころか、剣自体がレンの手から抜けてしまった。


 恐らく、彼には剣を扱う能力が無い。

 というよりも、武器や自身の体を使って戦う能力自体が無いようなのだ。


「そ、それなら、魔法を使って戦う方法だってあるじゃないか。ナナに教えてもらえば――」

「攻撃魔法の能力も、あまり高くはないみたい……。ナナさんが僕の魔力について調べてくれたんだけど……」

 話を聞くに、レンの魔力は回復魔法に特化した性質があるらしい。


 攻撃魔法とは相性が良くなく、強力な魔法を安定して発動することが難しいそうだ。


「僕には戦う才能がない……。回復魔法でみんなを補助することしかできないんだ……」

「そう、なんだ……」

 今回ばかりは、レンにかけるべき言葉が思い浮かばない。


 僕も自身の成長に悩み苦しんだが、彼はそれ以上の問題を抱えている。

 どう導いてあげれば、彼は自信を持つことができるのだろう。


「僕には何にもできないのかな……。癒すだけじゃ、ソラ兄たちが戦ってるのを見てるだけじゃ嫌なのに……」

 強力な回復の力があり、多くの勝利に貢献できていても、それでも共に戦う力があればと願ってしまう。


 僕も似たような願いを幾度となく抱いてきたので、レンの気持ちもよくわかる。


「一緒に、君の新たな力を探そう。剣でも攻撃魔法でもなく、僕たちと一緒に戦える力を」

「……あるのかな?」

 欲する力が存在するかは分からないが、僕たちにはそのチャンスがある。


 僕たちが知っている大陸は二つだけ。

 プラナムさんたちが暮らしていた大陸を含め、まだいくつもこの世界にはあるはずだ。


「世界を周って、知識をつけて……。手探りでも進んでいくしかないよ。歩き続ければ、何かは見つかるはずだから」

「うん……」

 レンの手から剣を受け取り、彼と共に玄関へと移動する。


 家から離れた場所ではレイカが素振りをしていた。

 そんな彼女の様子を、レンは羨ましそうに見つめだす。


「これからレイカと模擬戦をするよ。戦いの様子を見ていれば、いつか力を得た時に役立つかもしれない。まずは勉強することから始めよう」

「分かった」

 レンは日陰で腰を下ろし、戦いの準備を始める僕たちをじっと見つめてくれていた。


 熱くも、どこか冷めた視線を受けながら模擬戦を始める。

 ルールは、以前レイカとミタマさんが行った時と大体同じ。


 ただし、僕からはいつでも戦いを止められるというルールを追加してある。


「アクセラ!」

 自身に加速魔法をかけ、レイカは走り出す。


 今度は飛び掛かるつもりがないらしく、僕に一直線に突っ込んできた。

 彼女の剣に合わせて防御をするも、非常に重い衝撃に襲われる。


「ぐ……! せえい!」

 受けた剣を押し返すように武器を振る。


 レイカはその勢いを利用して距離を離し、再度突撃する姿勢を取った。


「行くよ! それ!」

 同じように突っ込んでくるが、今度は一撃で終わりではなく、連撃を加えてきた。


 それらの攻撃をいなしつつ、限界まで威力を押えた魔法を発動する。


「ウインドバースト!」

 重い物体を吹き飛ばすような力はなくとも、抜け落ちた葉が舞い散る程度の風が吹き荒れる。


 レイカは小さく怯み、剣の速度が若干鈍った。


「そう……れ!」

 レイカの持つ剣に向け、振り上げる形で打ち付ける。


 小気味よい金切り音を上げながら、彼女の剣が空に舞う。

 戦う手段が無くなったことで、敗北を認めるかと思いきや。


「コンフォルト! えい!」

「おわ!?」

 なんと、レイカは自身の両腕に強化魔法を使用し、強力なパンチを放ってきた。


 武器を奪われようとも諦めない。

 その根性に笑みを浮かべつつも、彼女の攻撃を抑えきれなくなっていく。


「ぐ……! いつの間に、こんな攻撃を身に着けてたなんて……!」

「お兄ちゃんだって、力で劣っていても諦めなかったでしょ! 私だって、負けないんだから!」

 僕の行動を見ることで、レイカは戦う力を上昇させている。


 レンも、彼女のように強くなってくれるだろうか。


「でも、まだまだまっすぐすぎるよ! そら!」

「きゃん!?」

 大人げなく、レイカに足払いを放つ。


 手による攻撃に集中しきっていた彼女は、抵抗することもできずに転んでしまう。

 慌てて起き上がろうとしていたので、剣を首元に当てて行動を停止させる。


 不服そうな表情を浮かべつつも、彼女は降参してくれた。


「あーあ、負けちゃった……。良い作戦だと思ったんだけどなぁ……」

「兄としても、先輩としても、そう簡単に勝ち星はあげられないさ。でも、動きとしては悪くない。確実に強くなってるよ」

 僕が褒めると、レイカは照れくさそうな笑みを浮かべた。


 地面に落ちていた剣を拾い上げ、彼女に手渡す。

 すると、戦いを見ていたレンが歩み寄って来た。


「戦える力があっても、あんな戦いはできる気がしない……。けど、やっぱりみんなと一緒に戦えるようにはなりたい」

「いろんな手段を考えてみればいいのさ。考え続けるだけでも、君は成長できるんだから」

 無力感に苛まれようとも、レンは歩こうとしている。


 その歩みを、僕はただ支援してあげるだけだ。


「よし、それじゃあ今日の仕上げとして、アマロ村とここを走りで往復しよう! 体力づくりだ!」

「う……! それも訓練の一環だもんね……!」

「……僕、休憩してていい?」

 青い顔をし始めたレンを引きずるようにしながら、僕たちはアマロ村へと走り出す。


 魔法剣士となった後、ルペス先輩やウェルテ先輩と共に訓練をした日々が、心の中で再生された。

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