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友の来訪

「圧縮……。よし、ブラスト!」

 積み上げた石の山に圧縮魔を使用した魔法をぶつけると、炸裂と同時に衝撃が僕の方にまで向かってきた。


 石の山は以前よりも大きく積み上げた物だが、問題なく吹き飛ばすことができたようだ。


「よし、だいぶ慣れてきたぞ」

 圧縮魔を何度か練習したことにより、若干ながら理解が進んできている。


 一つ目、物体の大小は問わず、圧縮が可能。

 だが、物体が大きければ大きいほど魔力はより大きく消費する。


 二つ目、圧縮された物体の重さは変化しないこと。

 試しに圧縮した小瓶を箱に詰めて持ち運ぼうとしたのだが、全く持ち上がらずに体を痛めてしまった。


 三つ目、魔法にも圧縮が可能だが、難度が高くなればなるほど消費する魔力が大きくなる。

 いまのところ、理解できたのはこの三点だ。


「後はどこまで圧縮できるか、かな……。限界を知っておかないと、いざという時に困るだろうし」

 現在は初級魔法を利用して練習をしているため、身体への影響はほとんどない。


 だが、戦闘中に魔力切れなんてことになれば笑い話にもならないので、限界点は確認しておくべきだろう。


「とりあえず、魔法を圧縮し続けてみようかな」

 中級の魔法を詠唱し、出現した魔法に圧縮魔をかけ続ける。


 手のひら大になり、指先大になり、点の大きさにまで縮んでいく。


 もっと、もっと圧縮を――

 さらに魔力を込めようとしていると。


「お、あそこにいる奴は、もしかして……! おーい、ソラー!」

 突然、僕の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。


 圧縮魔を維持する程度で止めて、声が聞こえた方向に視線を向けると。


「やっぱりそうだ! ソラ! 元気そうだな!」

 大きく手を振りながら駆け寄ってくる人物は、少し前まで共に旅をしていたウォル君だった。


 駆けてくる彼の後ろの方には、呆れつつも笑みを浮かべるアニサさんの姿もある。

 どうやら遊びに来てくれたようだ。


「ウォル君! アニサさんも! 久しぶり……なのかな?」

 ほんの数週間しか経っていないというのに、なぜか数年ぶりに会う気がする。


 『アイラル大陸』の調査中は毎日のように顔を合わせていたので、急に会わなくなったことで寂しさを感じていたのかもしれない。


「私も、不思議と久しぶりに会うような感覚があるわ。ウォルがソラ君に会いたい、会いたいって言いまくってたのを聞かされ続けてたかしらね?」

「未知の大陸の冒険っていう、とんでもないことをしてきたわけだからなー。ことあるごとに思いだしちまうんだよ~」

 二人も僕と同じような感覚を抱いてくれていた様子。


 別れた後の冒険の話を聞きたいところだが、『アイラル大陸』の思い出話で場が盛り上がることになりそうだ。


「んで、お前は何をしてたんだ? 変な石の山に向き合ってたみたいだが。指先に浮かんでる光もなんだよ?」

 ウォル君に尋ねられたことで、魔法の練習をしていたことを思い出す。


 とりあえず、この魔法は石の山にぶつけて消しておくとしよう。

 目的であった限界までの圧縮には全く達していないが、練習は練習だ。


 魔法を石の山にぶつけると、これまでに行ってきた練習の中で最大と思われるほどの爆発が起きた。


「ほえー。すっげー威力の魔法だな! アニサのより強力なんじゃねぇか?」

「ちょっと! なんで私の魔法と比較してんのよ!」

 言い争いを始めるウォル君とアニサさん。


 相変わらず仲良しのようだ。


「立ち話もなんだし、家の中に入らない? いまならみんなもいるよ」

「お、いいね。お言葉に甘えさせてもらうぜ!」

 玄関へと近寄り、扉へ手を伸ばす。


 ウォル君たちは僕たちの家を見上げているようだ。


「いい家だなー。オイラも金を貯めて、一軒家を建てるのもいいかもな!」

「あんたがお金を貯める? 本気で言ってるの?」

 相も変わらず、手に入ったお金はすぐに使う生活を行っているようだ。


 冒険者という職業柄、家を建てる必要性は薄そうだが、安心できる場所を作っておくのは良いことだと思う。

 僕もこの家があることで、どれだけ救われたことか。


「みんなー! お客さんだよ!」

 玄関の扉を開き、中にいる家族たちに声をかける。


 最初に顔を見せてくれたのはナナだった。


「ウォルさんとアニサさんじゃないですか! お久しぶりです!」

 ナナがウォル君たちと挨拶を交わす中、スラランたちモンスターが顔を見せ、最後にレイカとレンがやってきてくれる。


 僕たちはリビングへと移動し、会話を始めることにした。


「本当に、モンスターと一緒に暮らしてるんだな……。噛み付かないのか?」

「嫌な思いをさせなければ噛み付かないよ。撫でるのなら首の下からやってあげて」

 お菓子や飲み物の準備をしていると、ウォル君がルトとコバの頭に手を伸ばそうとしていた。


 基本的には戦う間柄なので、ここまでモンスターに近寄ることに緊張しているようだ。


「よ、よし! 触ってみるぞ……! うおおお……! コボルトって、こんなに触り心地が良いのか……!」

 ウォル君は意を決した様子でルトに触れると、その毛の触り心地に感動をし始める。


 だが、ルトにとっては見慣れない人に撫でられているわけなので、不服そうな瞳を僕の方へと視線を向けていた。


「スライムのスラランか~! 可愛いねぇ~!」

 一方では、アニサさんがスラランと触れ合っていた。


 ボールを転がされ、スラランが追いかけていく。

 その姿を見て、彼女はニコニコと笑顔を浮かべている。


「こんなに人と仲が良いモンスター、初めて見たよ。冒険者をやっている身からすると、結構複雑だけどね」

「倒すべき存在として見ちゃいますもんね……。僕たちも、少し前までは倒すべき存在だと思ってましたよ」

 スラランたちの一件が無ければ、倒すことに主を置いた図鑑を作っていただろう。


 ルトとコバも、僕たちの家に連れてくることはなかったかもしれない。


「モンスターと共に過ごす生活ってのも悪くねぇかもな! 人と仲良くできるモンスターが増えれば、楽し――いや、そうなるとオイラたちがモンスターを倒す理由が無くなるのか……。ぐぬぬ……。そうなると、金が……!」

 コバを高い高いしながら、身をもだえさせるウォル君。


 微笑ましい行動をしながら、欲望が見えてくる話はしないでほしい。


「危険を冒さないで冒険できるんならいいじゃない」

「いや! 冒険は危険があってこそだ! 苦難が無かったら、そんなのは冒険じゃねぇ!」

 モンスターと戦わなくても、冒険には苦難がつきものだと思うのだが。


 森の探索にしても道に迷い、山を登れば滑落する可能性もある。

 人の手が入っていない場所を進むだけでも、とても危険なのだ。


 それに、全てのモンスターが人と仲良くできるわけではない。

 何か問題が起きた際には、冒険者の出番が必ずくるはずだ。


「おっと、忘れてた! ソラ! オイラたちの冒険についてくる気はねぇか?」

「冒険に? ずいぶんといきなりだね」

 以前ウォル君が言っていた、一緒に冒険しようという話だろう。


 確かに彼らと約束はしていたが、本当に良いのだろうか。


「冒険って言っても、明るいところじゃなくて洞窟の探索なんだけどね。未探索の洞窟らしいから、ソラ君の強化魔法があると嬉しいかなって!」

 必要としてくれていることも、誘ってくれたことも嬉しい。


 圧縮魔の練習にもなりそうなので、行ってみるとしよう。


「ソラがついてくるなら、ナナたちも来るだろ? 戦力は多いに越したことはないし、何より大人数で楽しそうだからな!」

 ナナの魔法は大きな戦力となり、レンの回復も重要な役目だ。


 レイカも魔法剣士の修行をしなければならないので、実戦ができてよいだろう。


「じゃあ、みんなで行ってみようか?」

 家族に声をかけると、一斉にうなずいてくれた。


 ならば、ウォル君たちの誘いを断る理由はない。


「僕たちも、君たちの冒険に参加させてもらうよ! よろしく!」

「おう! こっちこそよろしくな!」

 お互いの握りこぶしをぶつけながら、笑顔を見せ合う。


 ウォル君たちとの二回目の冒険。

 心の奥底からも、楽しみという感情が湧き上がってきていた。


「じゃあ早速出かけようぜ! 急がないと遅く――」

「時刻はとっくに夕暮れよ。ソラ君たちの準備もあるし、冒険は明日にしてからの方がいいわ」

 やる気満々で外に出ていこうとするウォル君に対し、窓の外を見ながら冷静に答えるアニサさん。


 一時的とはいえ、彼らの仲間になることに決めた僕たち。

 二人の冒険の目的を聞きながら、明日の準備を始めるのだった。

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