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守護者との戦い

「こんなところにゴーレムなんて、一体いつの時代の防衛機構よ!? 良くもまあ、ここまで持ったわね!」

 目の前で動き始めたゴーレムを見て、アニサさんが驚愕の声を出す。


 ゴーレム自体を作り出すことは、現代でも十分可能だが、その稼働時間は与えられた魔力が尽き果てるまで。

 魔力を保存するための方法は、僕たちが編み出したミスリル容器に保存するという方法しか分からない上に、いまだ完全には確立されていない。


 大昔の石碑を守り続けられるようなゴーレムは、現代ではとても作れないのだ。


「やっぱり、昔の技術はすごいんだなぁ……」

「感心してる場合か? ボーッとしてると、オイラが倒しちまうぞ!」

 仕組みについて思考を巡らせていると、ウォル君がゴーレムに素早く駆け寄り、握っている剣でその胴体へと斬りかかった。


 だが、その攻撃は鈍い音をたてながら硬い体に阻まれてしまう。


「くあ~、かってぇ! 剣じゃ通りが悪いか! アニサ、頼む!」

「まっかせなさい! それ!」

 アニサさんが唱えた魔法は、緑色の魔弾となってゴーレムの体へ直進する。


 だが、この攻撃も有効打にならずに弾かれてしまった。


「嘘!? 魔法も効かないの!?」

 魔法が効かなかったことに驚愕するアニサさん。


 驚いたのは彼女だけでなく、ここにいる全員だった。


「武器がダメなら魔法、魔法がダメなら武器じゃねぇのかよ! どうなってんだ、コイツの体は!?」

「多分、魔法の効果を和らげる結界が張ってあるんだ。それしか考えられない!」

 モンスターは武器による攻撃か、魔法による攻撃のどちらかに弱い。


 魔法攻撃に強ければ武器攻撃に弱く、その逆もまた然りだ。

 だが、このゴーレムは両方の攻撃に耐性を持っている。


 これでは攻めていくことが難しい。


「まずい攻撃が……! みんな、僕の後ろに!」

 ゴーレムが攻撃態勢を取ったのを見て、慌てて防御魔法を使用する。


 防御壁が展開されると同時に、奴は自身の腕をバラバラに分解し、僕たちにぶつけてきた。


「ひゅう、あっぶね~……。助かったぜ!」

「どういたしまして! さあ、こっちの番だよ! エンチャント・ウインド!」

 ウォル君とレイカに強化魔法を使用すると、二人の武器の周囲に風が吹き荒れだす。


 武器による攻撃自体はゴーレムの胴体に届いていた。

 ならば魔力を帯びた状態で攻撃をすると、どうなるだろうか。


「てぇぇぇい!!」

「だりゃああ!!」

 二人が同時にゴーレムの体に斬りかかる。


 やはり大したダメージにならなかったが、わずかに奴の周囲が歪んだ。


「て、手がしびれて……! でも、結界が揺らいだみたい!」

 武器と魔力を同時にぶつければ、結界にダメージを与えられるようだ。


 魔力を帯びた武器で結界を破壊し、強力な魔法を奴の胴体にぶつけることができれば倒せるだろう。


「厄介な相手ですが、決して勝てないわけではないようですね。ソラさん、援護をお願いできますか?」

「もちろん。任せておいて」

 ナナと共に一歩踏み出し、圧縮魔を使用して魔法の出力を上げていく。


 ゴーレムは両腕を振り上げ、力を貯めている。

 どうやら地面を殴りつけ、衝撃と揺れによる攻撃を仕掛けるつもりのようだ。


「プロテクション!」

 ゴーレムが腕を振り下ろすよりも早く防御魔法を使用する。


 防御壁を展開した場所は僕たちの周囲ではなく、奴が殴りつけようとした地面。

 普段以上に強固となった防御壁は、奴の攻撃を容易にはじき返し、バランスを崩させた。


「行くよ、ナナ! エンチャント・ウインド!」

「合わせます! ウインドシュート!」

 素早く懐に潜り込み、斬り上げるように結界を裂く。


 発生したほころびにナナの魔法が滑り込み、ゴーレムの体が砕かれていった。


「やったぜ! 大きなダメージを与えられたみたいだな!」

 足や腕といった可動部分を中心に破壊され、ゴーレムは動けなくなっている。


 攻め切ることはできなかったが、この状態になれば勝ったも同然だ。


「よし、みんな! 一斉に攻撃を――」

「ソラさん、待って!」

 ナナの声を聞き、振り下ろそうとした剣を止める。


「魔力が増大しています! このまま破壊してしまうと、きっと……!」

「……! まさか、爆発を!?」

 コクリとうなずいたのを見て、素早く距離を取る。


 このまま放っておいても魔力は暴走し、いずれ爆発してしまうだろう。

 下手をすればこの部屋だけでなく、洞窟が崩落してしまう可能性がある。


「どうすればいい!?」

「魔力を消費させてあげれば大丈夫です! 結界を張る機能は残っているようなので、それを利用してあげればきっと……!」

 とはいえ、遥か過去から残り続ける魔力を消費しきるには、ここにいる全員が魔法を使っても骨が折れるだろう。


 ここは圧縮魔を使用し、一気に魔力を消費させるほうが良さそうだ。


「よし、みんなは念のため部屋の入り口に退避して。少しでも異変があったら逃げられるようにね」

 皆が部屋の入り口に退避したのを確認しつつ、魔法の圧縮を開始する。


 人の頭部以上の大きさを誇っていた炎の玉は、指先サイズになっても縮小が止まることはなく、さらに小さく縮んでいく。


「もっと……もっとだ……! もっと圧縮しないと、この魔力は消費しきれない……!」

 もう一つ炎の玉を出現させ、それにも圧縮魔を使用し、融合させるかのように圧縮を続ける。


 魔法ははちきれんばかりに振動し、強い輝きを発しだす。


「よし、これだけ圧縮すれば――うあ……!?」

「ソラ!? どうかしたのか!?」

 突然、僕の体が異常を訴えだす。


 自身に存在する魔力が、ありえない速度で減少し始めたのだ。

 それこそ、ものの数秒で枯渇しかねないほどに。


「ま、まずい……! 手放さないと……!」

 圧縮した魔法をゴーレムに向かって発射する。


 その魔法弾は、不吉と思えるほどにどす黒く輝いていた。


「うあ!? ぐ……! あう……!」

「だ、大丈夫ですか!? 一体、なにが……!?」

 魔法を発射するのと同時に強い反動が僕の体を襲い、皆がいる部屋の入り口まで吹き飛ばされてしまう。


 体を強く打った痛みもそうだが、それ以上の苦しみが僕に襲い掛かってくる。


「あ、頭が……! き、気持ち悪い……!」

「ソラさんの魔力がほとんどない……!? 一瞬でこんな状態になってしまうなんて……!」

 視界がぼやけ、体に力が入らないために起き上がることすらできない。


 地面でのたうち回っていると、更なる異常が発生する。


「お、おい! ゴーレムを見ろ! なんかやばそうだぞ!」

 かすむ目を見開き、不調を堪えてそちらに視線を向けると。


「黒い魔法が……ゴーレムを飲み込んでいく……?」

 結界と衝突したどす黒い魔法弾は、ゴーレムを圧し縮めるように飲み込んでいく。


 それどころか、部屋全体に散らばる小石や探索に使用していたランタンすら引き寄せられ、それらもまた小さく圧し縮められていった。


「これ、逃げないとまずいよ……!」

 レンが皆に避難を呼びかける。


 だが、僕の体は起き上がるどころか寝返りをうつことすらできず、逃げることは困難な状態だった。


「ソラはオイラが連れて行く! ナナとアニサは照明を作れ! 走るぞ!」

 ウォル君が僕の体を起こし、肩に手をかけさせてくれる。


「ご、ごめん……。こんな時に……」

「そういうことは後にしろ! 急ぐぞ!」

 ウォル君に引きずられる形で、僕は洞窟の外へと逃げ出すのだった。



「ハァ……。ハァ……。お前ら、無事か……?」

「大丈夫……。ソラ君もナナちゃんも、レン君もレイカちゃんも全員いるわ……」

 走って洞窟を脱出したことで、皆の息が上がっている。


 僕はいまだに症状が治まらず、地面に転がっていた。


「とりあえず、これで一安心だよね……? でも、さっきの魔法は一体――」

「う、嘘!? 洞窟が……!」

 安堵の声が聞こえるのと同時に、再び悲鳴が上がる。


 洞窟へと視線を向けると、そこでは――


「洞窟……潰れてく……」

 先ほど洞窟の小部屋で起きていたことが、今度は洞窟全体に起きていた。


 どんどん洞窟は縮んでいき、地面もまたえぐれていく。

 事象の中心点には、僕が放ったどす黒い魔法が残り続けていた。


 やがてそれも縮んで消滅してしまい、最終的に洞窟があった場所には大きな窪地が生まれる。

 草木も物質も生命すら存在しない、命無き大地が広がっていた。


「これを僕が……。あなたが呼び戻そうとしていた魔法なんですか……?」

 目の前の現実を認められず、顔を地面に擦り付ける。


 危険性がある可能性は理解していた。

 初めての魔法なのだから、制御できずに暴走してしまう可能性も考えていた。


 だが、だからといって――


「いくら何でも、あんまりだよ……!」

 圧縮魔は世界を滅ぼしうる魔法である。


 それを理解するための代償は、僕には重かった。

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