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使い魔と共に

「これが僕の……。僕たちと一緒に戦って!」

 レンの願いを聞き、炎の鳥はクイーンアラーネアへと体を向ける。


 奴もまた炎の鳥に向けて威嚇を行いつつ、攻撃を仕掛けようとしていた。


「お前の相手はこっちにもいるぞ! 喰らえ、ニードルショット!」

 魔法弾を細く圧縮し、クイーンアラーネアの体に向けて発射する。


 魔法弾は弾丸のごとく高速で直進し、装甲を貫く。

 巨体は痛みに揺れるものの、大地へ崩れ落ちることはなかった。


 貫通力が上がったぶん、爆発力は落ちてしまったようだ。


「サラマンダー! 私に炎を!」

 モミジさんは弓に矢をつがえ、サラマンダーを呼び出す。


 矢尻に炎を纏わせ、それをクイーンアラーネアの体に撃ち込んでいく。


「お願い、アイツを倒して!」

 レンの命令を受け、炎の鳥が突進していく。


 クイーンアラーネアに衝突するのと同時に、炎の鳥は形を崩して流れる炎となり、突き刺さった矢を伝って奴の傷に滑り込む。

 体内から炎が吹き上がり、口を、多数の足を、装甲を包みだす。


 全身火だるまとなり、クモの女王は地に伏すのだった。


「倒せた……。レンのお手柄だね」

「え? そ、そうなのかな……」

「そうだよ! レン君がいなかったら、私はアラーネアたちに食べられてた。助けてくれてありがとう!」

 呆けた様子のレンに近寄り、その小さな肩に触れる。


 モミジさんも彼の手を握ると、嬉しそうに上下に振っていた。


「でも、どうして急に使い魔を? 事前に誰かから教えてもらっていたってわけじゃないんだよね?」

「うん……。ソラ兄たちを助けたいって思いながら、闇雲に魔法を使ったら炎の球ができて……」

 その後にモミジさんから形の変え方を教えてもらっただけであり、使い魔の生み出し方は学んでいないとのこと。


 一体何が、レンの身に起きたのだろうか。


「その話もいいですが、まずはこの場を離れましょう。アラーネアのボスを倒せたとはいえ、まだ危険が――」

 モミジさんが僕たちに避難を促そうとするのと同時に、背後からもぞもぞと音が聞こえてくる。


 振り返ると、そこには――


「な!? コイツ、まだ動くか!」

 倒したはずのクイーンアラーネアが起き上がり、僕たちめがけて突進してきていた。


 体内を焼けば動けなくなると思っていたが、やはりそこは虫のモンスター。

 しぶとさは並のモンスターを遥かに上回るようだ。


「二人とも、僕の背後に!」

 二人に指示を出しつつ、剣を地面に突き刺して防御魔法を展開する。


 邪魔が出現しても奴は諦めず、防御壁ごと僕たちを喰らおうと暴れだす。

 ピシピシとヒビが入りだし、もう間もなく破壊されそうになったその時。


「そのまま堪えていろ!」

「この声……イチョウさん!?」

 上空に視線を向けると、空中に浮かぶイチョウさんが槍を投げつける体勢を取っていた。


 強力な攻撃が来ると判断し、持てる魔力を防御壁に使用し続ける。


「大地もろとも、刺し貫く!」

 イチョウさんの手から放たれた槍は、落下による加速を受け、とてつもない速度でクイーンアラーネアの胴体に落着する。


 激しい轟音と共に装甲を貫き、大地にまで大きな穴を開けるのだった。


「地面がこんなにえぐれちゃうなんて……。すごい威力だ……」

 目の前の出来事に驚きつつ、防御魔法を解除する。


 同時にイチョウさんが大地に着陸し、僕たちに声をかけてくれた。


「すまない、遅くなった。モミジも問題はなさそうだな?」

「ええ、お二人が助けてくれたので、何ともありません。ていうか、なんてタイミングで来るんですか! いいとこ取りじゃないですか!」

 僕たちの無事を確認したイチョウさんは、モミジさんの不満に耳を傾けることなく自身の槍の回収を始めた。


 念のため、クイーンアラーネアの様子を見ておくとしよう。


「だ、大丈夫だよね……? もう、動かないよね……?」

「うん。僕たちの攻撃でギリギリだった上に、イチョウさんの攻撃が入ったからね。これで動きだせるのなら、逆に感心するくらいだよ」

 これだけのダメージを受ければ、さすがのクイーンアラーネアも動けないだろう。


 周囲に配下のアラーネアたちもいない。

 この群れは瓦解したと言ってよさそうだ。


「とどめは俺になったとはいえ、三人だけでここまで追い込むとはな。聞きたいことは多々あるが、まずはあれか」

 槍を手に戻って来たイチョウさんは、空中で羽ばたく炎の鳥を見つめだす。


 クイーンに体当たりをした際に形が崩れていたが、いつの間にか姿が戻っているようだ。


「モミジのサラマンダーではないようだが……? 細部も異なるし、何より大きすぎる。あの炎の鳥は……?」

「レン君が生み出して、私たちを助けてくれたんですよ! 毒や体の傷も、あの子の炎を受けるとあっという間に治っちゃうんです!」

 モミジさんが、興奮した様子で話を始める。


 イチョウさんは冷静に話を聞いていたのだが、さすがに理解できない部分が多かったようで。


「アラーネアの毒をあっという間に除去する力を持つと……? そんな使い魔など、聞いたことがないぞ……」

 腕を組み、ブツブツと呟きながら考え出してしまう。


 目の前にいる使い魔は、イチョウさんの知識にもない存在のようだ。


「レン君は回復魔法が得意なんだよね? 私たちから言わせてもらうと、それは壊れ、傷ついた存在を元通りにする創造魔法。最初から、使い魔を作る能力が備わっていたんだよ!」

「回復魔法が創造魔法……。僕に使い魔を作る能力が……?」

 レンの質問に、モミジさんは大きくうなずく。


 彼の類まれなる回復魔法――創造魔法のセンスが、強く影響したということか。


「詳しいことは里長に聞いた方が良いだろう。彼女は使い魔の第一人者な上に、この森全体の歴史に詳しい。レンが使役できるようになった理由をより詳しく教えてくれるはずだ」

「それはありがたいのですが、よろしいのですか? 色々と問題を抱えていらっしゃるというのに……」

 僕の質問に、イチョウさんは首を横に振る。


 そして、いつもの仏頂面を崩した優しい笑み浮かべてこう言ってくれた。


「この森全体の危機を、何より仲間を助けてくれたんだ。話をしてもらえるよう、取り計らせてもらうさ」

 その言葉に、どのように返せばいいのか分からなくなる。


 元はと言えば、レンが勝手な行動を取ってしまったのが原因。

 そして、その行動を取らせてしまった僕に責任があるというのに。


「お前たちはモミジを助けに行ってくれた。赤の他人だからと言って、無視をすることは可能だというのに。ならば、俺たちもお前たちのことを仲間として見なければな」

「そうです! 一緒にモンスターの調査をしたことも、アラーネアたちと協力して戦ったことも、助けてくれたことを含め、色々ありがとうございました!」

 ここまで言われてしまえば、遠慮する方が失礼だろう。


 知るを中心に行動している僕たちにとって、新たな情報を得られることは、願ってもないことなのだから。


「戻ったら、使い魔を呼び出す練習に付き合ってあげるね! いつでも呼び出せるようにしとかないとダメだし、できることも確認しておかないとだよ!」

「う、うん……。それは嬉しいけど、こんなにくっつかなくても……」

 モミジさんはレンにべったりと絡みつき、里へと続く道を歩いていく。


 彼が彼女を助けたおかげか、距離感が一気に縮まったようだ。


「さあ、里に戻ろう。里長から話を聞くにも、まずは体を休めなければな」

「ええ、そうですね」

 僕たちの前を歩く少年と少女を見て、笑みがこぼれる。


 レンは新たな力を手に入れた。

 敵だけでなく、命を蝕む毒をも焼き尽くす聖なる火炎を。

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