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第二十九章 エルフの祭り

祭りへの誘い

「ソラ様! お戻りになられたのですね!」

「プラナムさんじゃないですか! もしかして、迎えに来てくださったのですか?」

 ニーズヘッグ様と出会い、英雄の剣を握ってから数日が過ぎた頃。プラナムさんがケラスの里にやって来た。


 丁度大森林の調査を終え、里の入り口に戻ってきたところに彼女の姿があったのだ。


「いえ、様子を見に来ただけですわ。そのご様子ですと、モンスターたちの情報を取りに行っていたようですわね。ご苦労様でございますわ」

「プラナムさんも、お忙しい中ここまで来ていただき、ありがとうございます」

 お互いに頭を下げ合っていると、背後からイチョウさんが姿を現す。


 彼の表情は、不満そうなものになっている。


「挨拶をするのはいいが、里の入り口で頭を下げ合うのは止めてくれ。会話をしたいのなら、広場なり家に行ってからすればいいだろう」

 人口が多い里ではないとはいえ、出入り口で会話をしていれば邪魔でしかないだろう。


 プラナムさんと苦笑を浮かべ合いつつ、その場から移動を始める。


「イチョウさん、森の案内をしていただき、ありがとうございました」

「こちらこそ、お前の調査に同行したおかげで色々と知見を得られた。感謝する」

 イチョウさんに別れの挨拶をすると、彼は家の屋根を飛び去っていった。


 普通に歩いていく方が楽に思えるが、あの移動法の方が時間短縮になるそうだ。


「別行動をしてからそれなりに経ちましたが、問題はありませんでしたか?」

「大丈夫です。むしろ良いことがありまして、レンが新しい能力に目覚めたんですよ」

 大森林を訪れてから起きたことを、プラナムさんに伝える。


 さすがに『世界樹』での出来事を伝えることはできなかったが、それでも彼女は楽しそうに話を聞いてくれた。


「非常に良い経験をなされたようですね。ですが、少々気になることがあるのですが」

「気になること……ですか?」

 何か違和感を与えるようなことを話してしまっただろうか。


「ああ、いえ。お話の内容ではないのです。わたくしの気のせいかもしれませんが、ソラ様の白髪、以前より増えているように思えまして……」

「僕の白髪……? 全く気にしてませんでしたが……」

 洗顔の時などに鏡を見ているが、違和感を抱いたことはなく、ナナたちもこれといった反応を見せていない。


 よほど注意してみなければ分からないほど、微細な変化なのだろう。


「常に共におられる方たちが気付かないのであれば、わたくしの気のせいかもしれませんね。変なことを言ってしまい、申し訳ありません」

「いえ、謝るようなことではありませんよ。後で、家族たちにも――」

「すまん、ソラ。言い忘れていたことがあったんだが、いいか?」

 イチョウさんの声が聞こえるのと同時に、僕たちの行く先に彼が落ちてきた。


 視界の上方から唐突に現れることが多い彼だが、好みなのだろうか。


「近い内に、この森全体を挙げての祭りを行う予定があるんだが……。お前たちも参加しないか?」

「お祭り……。文化を知るうえで最適な催し物ですけど、よそ者が参加しても大丈夫なんですか? 知らない種族がいるとなると、警戒心を抱く人もいるでしょうし……」

 この里ではすでに受け入れられているが、他の集落ではそうもいかないだろう。


 僕たちが参加したことで、祭りの雰囲気を台無しにしたくはないのだが。


「俺や里長が説明するから心配するな。のんびりと気楽に、俺たちの祭りを楽しんでくれ」

「そうですか……。それなら参加してみようかな」

「折角ですし、わたくしも参加させていただいてもよろしいでしょうか?」

「もちろんだ。では、ソラたちとプラナム嬢は客人としてもてなさせてもらう、もし他に呼びたい者がいるのであれば、連れてきても構わないぞ」

 僕たちからは呼べる人たちはいないが、プラナムさんなら大勢いそうだ。


「どうせダイアは興味ないとか言い出すでしょうし、護衛にシルバルを伴う程度ですかね……。いえ、どうせならば、我が家の使用人たちを連れてくるのもいいかもしれませんわね」

「連れてきても構わないとは言ったが、あまり大人数にはしないでくれよ? 異種族が一度に大勢やってくれば、面食らう者が出てくるだろうからな」

 大昔に争い合ったという歴史がこの大陸にはあるので、急な変化は避けたいと言ったところか。


 いつかはそのような軋轢も解消されることを望むが、いますぐそれを望むのはさすがに不可能だろう。


「話は伝えたことだし、俺は戻るとしよう。プラナム嬢が帰る時間になるまでには詳細を記した資料を持ってくる。すまないが、それまではソラたちと共に居てくれるか?」

「承知いたしました。ではソラ様、家に向かいましょうか」

 会話が終わると同時に、イチョウさんはいずこかへ飛び去っていった。


 忙しない様子だが、祭りの準備で忙しいのだろうか。


「それにしても、たったの数日でエルフの方々の心を開かせるとは……。一体、何があったのですか?」

「いくつかの問題を解決しただけですよ。後は、腹を割っての会話もしましたね」

 力を持ちすぎたアラーネアを退治し、ニーズヘッグからの依頼を完遂した。


 イチョウさんともしっかり会話を行っているので、少なくとも僕たち家族に対する忌避感はないはずだ。


「そういえば、シルバルさんはどうされたのですか?」

「里長様のお宅に。彼女から我々の冶金技術を知りたいと打診されたので、話し合いを行っているのですわ」

 話を聞くに、エルフたちは装備類の強化をするつもりのようだ。


 アラーネアたちのことがあったからか、それとも別の理由があるのか。


「そろそろ話し合いも終わっているかもしれませんわね。様子見がてら向かいましょうか」

「分かりました。では家に戻る前にスイレンさんの家へ」

 泉へとのんびり歩き、ウンディーネに橋を作ってもらい、スイレンさんに挨拶をする。


 話し合いもちょうど終わったようで、プラナムさん、シルバルさんと共に借りている家へ帰るのだった。

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