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間章5

『ビースト族』

「ひゅう……。見た目以上に手ごわかった……」

 額に噴きだした汗をぬぐいつつ、オレンジ色の砂の上に伏す生物に視線を向ける。


 ネズミ系のモンスターに似た顔立ちをしているが、少し背の低い大人と同等の体格を誇る点も驚きだが、何よりも目を引くのが背に大量に生えている鋭い針たちだ。


「直接喰らってたら穴だらけか……。防御魔法も結構損耗してるな……」

 防御壁を解除すると、バラバラと針たちが砂の上に落下していく。


 これら全てが僕に突き刺さっていた可能性を考えるとゾッとする。

 ある意味で言えば、剣を修理に出していて正解だったかもしれない。


「大丈夫ですか? おケガは――うわ!?」

 振り返ろうとした矢先に何かに飛びつかれ、砂の上をゴロゴロと転がされる。


 何回転かした後に仰向けの状態で止まったので、頭を大きく振ってから瞼を開くと、青い空と太陽が見えた。


「おにーさん、強いんだね。ボク、驚いちゃった」

 青空の中に、丸い大きな耳を持った人の頭部が入り込む。


 だがその顔は、ヒューマンやホワイトドラゴンのような肌ではなく、茶色い毛に覆われていた。


「二回も助けてくれてありがとー。おにーさんは命の恩人だよ!」

 声の主の顔がじわじわと近づいてくる。


 何となく恐怖を覚え起き上がろうとするのだが、両腕を抑え込まれてしまい動かせない。

 訳が分からなくなった僕は、少し前の思い出へと思考を巡らせることにした。


「だいぶ砂漠のモンスターの情報が集まったね。過酷な環境がら、強力かつ危険な能力を持つ個体が多かったけど……。その分、優秀な素材を取れるのも魅力的かな」

「凶暴な個体も多いよね……。調査中にこんなに襲われるとは思わなかった……」

「魔力も結構使っちゃった」

 メモに情報を書き終えてからレイカたちに視線を向けると、二人は砂の上に敷かれたシートに座り、大きくため息を吐いていた。


 日差しが強く、気温が高いことに加え、ちょくちょくモンスターが襲い掛かってくるのでは疲れも出てくるだろう。


「日もだいぶ昇って来たし、そろそろ帝都に帰ろうか。入り口の待機所に行って、シルバルさんを呼ばないとね」

 調査を終わらせ、拠点の片づけを始めようとしたその時。


「うわわわ! やっばーい!!」

 どこからともなく悲鳴が聞こえてくる。


 だが周囲には悲鳴をあげるような人物の姿は見当たらず、困惑していると。


「どいて、どいてー! ぶつかっちゃうよー!!」

「ソラ兄、上!」

「上!? 二人とも、顔を覆って!」

 レイカとレンを両脇に抱え、砂を蹴って後方に飛びのく。


 一瞬の後、何かが落下する音ともに僕たちめがけて砂埃が襲い掛かって来た。


「ぺっぺ……。二人とも、大丈夫かい……?」

「うん、大丈夫……。う、目が痛い……」

「砂、口に入った……」

 顔に着いた砂を払い、姉弟たちの心配をしながら、何かが落下してきた地点へと視線を向ける。


 そこには翼の生えた大型の生物と、人が一人倒れていた。


「だ、大丈夫ですか!? レン、回復を!」

「うん!」

 レンが慌てながら回復魔法を使ってくれる。


 だが、目の前の存在たちが欲するのは治療ではなかったらしく。


「お、お水を~……。のど、乾いた~……」

 暑さにやられたのか、水分を欲していた。


 僕たちは慌てて水筒を取り出し、中に入った水を飲ませようとするのだが。


「顔が、毛に覆われてる……? それに耳が丸くて大きい……?」

 よくよく見ると、腕や足までもが毛に覆われ、尻尾まで生えている。


 まるで、ヒューマンの全身に毛が生えたような姿だ。

 謎の人物に頭を悩ませつつも、やろうとしていたことを再開する。


 口元に水筒を近づけると、その人物は勢いよくそれをつかみ取り、大きな音をたてながら中身を飲み始めた。


「んくっ、んくっ……。ぷは! 美味しかった~! ねね、もっとない?」

「え……。レイカ、水筒を開けてくれるかい?」

「う、うん……。はい、どうぞ」

 水筒を受け取った謎の人物は、傍らにいる翼が生えた生物の口元へ移動する。


 生物は大きく口を開け、謎の人物はそこに水筒の中身を流し込みだした。


「美味しい? 良かったね~。水筒持ってくるのを忘れちゃったうえに、無理させてごめんね?」

 水を飲んでにわかに元気を取り戻したのか、生物は体を起こして毛繕いを始めた。


 顔は白い毛に覆われ、鳥のようなくちばしが存在している。

 胴体から四つのかぎ爪状の足が伸び、背には二対の純白の翼が生えていた。


 見たことのないモンスターだが、謎の人物が救助をしたということは使役されているのだろうか。


「お水、飲ませてくれてありがとう! ボクの名前はクウ、こっちはグリフォンのウィルドだよ。おにーさんたちは?」

「僕はソラ、女の子がレイカで、男の子がレンです」

「よろしくお願いします!」

「よろしく」

 簡単な自己紹介が終わると同時に、クウさんが僕たちの顔をじろじろと見つめてくる。


 黄色に光る瞳がぎょろぎょろと動き続けており、少々落ち着かない。


「おにーさんたち、何者? ゴブリンたちとは身長が全然違うし、耳も長くない。かといって、ボクたちみたいに毛に覆われてるわけでもない。ちっちゃい子たちは耳みたいに角が生えてるけど……」

「あー……。僕はヒューマンという種族で、レイカたちはホワイトドラゴンという種族なんです。『アディア大陸』とは別の大陸から来ています」

「別の大陸から……。じゃあ、ボクたちのこともよく分からないよね? ボクは『ビースト族』で、モキー部族に所属してるの。モンスターと共に暮らし、モンスターと共に生きる種族だよ」

 プラナムさんたちから聞いた、この大陸には三つの種族が住んでいるという話。


 そのうちの一つが、『ビースト族』という種族のようだ。

 岩山地帯に住んでいると聞いていたが、まさか砂漠で出会うことになるとは。


「ウィルドと一緒にお買い物に来たんだけど、飲み水を忘れちゃって……。そのせいでこの子が調子を崩して墜落しちゃったんだ。まさか落下地点に君たちがいるとは思わなかったけど、おかげで助かったよ!」

「なるほど、帝都に……。僕たちも帝都に戻ろうとしていたところなんです。まだ体調が戻り切っていないはずですし、一緒に行きませんか?」

「いいの? じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな! ウィルド共々よろしくね!」

 こうして僕たちは、共に帝都へと向かい出した。


 その道中にとげの生えた巨大ネズミ、スパインラットと遭遇し、戦闘となったのだ。

 体調不良で満足に動けないクウさんとウィルドを僕が守りつつ、レイカたちには援軍を呼ぶよう頼んでいたのだが。


「お兄ちゃんたち、何してるの……?」

「クウさんにのしかかられてる?」

 とんでもないタイミングで二人に戻ってこられてしまい、誤解されてしまう。


 帝都に到着したところで体調を取り戻したクウさんとウィルドは、僕たちに別れを告げ、散策へと向かうのだった。


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