「空中に浮かぶ大陸……。本当にそんなものがあるんでしょうか?」
「その真相を確かめるための飛空艇なんだってさ。空に浮かぶ何かを確認するために、空を飛ぶ機械を作って空に挑もうとしている。ロマンがあるよね」
帝都ドワーブン内にある巨大図書館にて。僕たち家族は調べ物をしていた。
空中に浮かぶ何かについての情報や、前時代の歴史を知ることが目的だ。
「私たちには、まだまだ知る機会が数多く存在しているんですね。まだ三つも、大陸があるかもしれないなんて……」
「大陸の数が『聖獣』たちと一致するのなら、だけどね。仮に正しいとするのなら、詳細が全く分からない大陸が二つあるってことになる。例え空を調査し終わったとしても、行ける場所がまだある。心弾んでしょうがないよ」
全ての大陸を見て周れたら、次はどこに行けるようになるのだろう。
海の底、地の底、空の果て。
届きそうで届かない場所は、まだ無尽にある。
「飛空艇が完成しても、すぐには空へ向かえないんだって。まずは岩山地帯に向かって、異常や不備が出ないか調べるみたい」
「確か、『ビースト族』が住んでいるんですよね? 私は会えなかったのに、ソラさんたちは会えたの、ちょっとずるいなぁ……」
会ったと言っても、帝都に戻る間の短い時間だったため、交流ができたとは少々言い難い。
聞こうと思っていたことも聞きそびれてしまったので、次の出会いこそが本当の出会いと言えるだろう。
「ソラ兄。面白い記述が書かれてる本を見つけた」
「本当かい? どれどれ、見せて、見せて」
本を選びに行っていたレンが戻ってきて、見つけた本を差し出してくれる。
表紙には、各地に残る石碑に思いを馳せてと記されていた。
「『アディア大陸』各地に、古代の文字で書かれた石碑が複数あるのは知っているだろうか? 今回はそれらが残されている土地をいくつか紹介し、うち一つの文章を記していこうと思う。レン、お手柄だよ!」
褒めると、レンは得意そうな笑みを浮かべながら空いている席に座った。
内容を精読しようとしていると、残念そうな表情を浮かべながらレイカも戻ってくる。
「空についての記載がある本は見つけられなかったよ……。負けたみたいでちょっと悔しいなぁ……」
「行ける場所にある物と、行けない場所とでは、書籍の数は段違いになっちゃうから気にしないで。それより、みんなで内容を読んでみようよ」
僕たち家族は、一冊の本を食い入るように読み始めた。
前書きに書かれていた通り、石碑が存在する場所、古代文字で書かれた文章が記載されている。
だが、現代訳はできていないらしく、翻訳の仕方等は書かれていなかった。
「この文字ってあの時の物と同じだよね?」
「ええ、間違いないと思います。アマロ村近くの洞窟奥で見つけた石碑。レン君が模写してくれたあの文字です」
そろって視線をレンに向けると、彼はカバンからスケッチブックを取り出してくれた。
石碑の文字が書かれたページを見てみると、そこには本に書かれていた文字と同じ種類の文字が記されている。
つまり、両者は同じ年代に使われていたものということだ。
「古代文字が書かれてるページを印刷して、いつでも読めるようにしておこうか。『アヴァル大陸』で見つけた物と照らし合わせれば、なんとなく翻訳ができるかもだし。えっと、司書さんは……」
「あそこにいるよ! 私、お願いしてくるね!」
本を手に持ち、レイカは蔵書の片づけをしているゴブリンの女性の元へ近づいていった。
やり取りを始めた二人を見つめながら、深くため息を吐く。
「悔しいなぁ……。もう少し早く、古代文字が各地で使われていたかもしれないと考えられていれば……」
「石碑を調べに行って、文字を写してくることができたかもしれませんね。でも、これ以上の滞在は不可能です。渡航期限、二カ月にしちゃいましたからね……」
ナナの言う通り、『アディア大陸』への渡航は最長二カ月と設定してある。
こうした理由には、どうしても避けたくない出来事が直近に訪れるからだ。
「モンスター大発生事件の日、だったよね?」
レンの質問に、ナナと共にうなずく。
もう間もなく、あの忌まわしき日から六年経つ。
彼の地へと赴き、亡くなった人々の弔いをしてこなければならない。
「あれからモンスターが大発生したという話は聞かないけど……。ニーズヘッグ様から聞いた話が本当なら、また同じことが起きる……か」
「しかも、世界規模であれが起きる可能性があるんですよね……? けれど、強力なモンスターを退治しておけば防げるかもしれない……。対処法が分かっただけ、救われましたけど……」
逆に言えば、どれだけ防備を固めていても件のモンスターを倒さない限り、モンスターたちは大群をもって襲い掛かってくるということになる。
例え対処法が広まったとて、強力かつ凶暴なモンスターが相手では、手出しできないことも多々あるはずだ。
「もう起こらないで欲しいなんて考えてたけど、なんて甘かったんだろうな……。次の発生時期も分からないし、何より要のモンスターの居場所が分からないんじゃ……」
「調査をしなければならないんでしょうけど、範囲があまりにも広大ですよね……。人がほとんど寄り付かない場所に限ったとしても、危険地帯の探索ということになりますし……」
そもそもなぜ、要のモンスターとやらが事件の引き金になるのかすら分かっていない。
行動次第で、被害を抑えられるかもしれない程度に考えていた方が良いのだろう。
「『アヴァル大陸』に帰還するまでに、調べられることは調べておこう。折角ヒントをもらったんだ。答えにたどり着かずとも前に進んでおかなきゃ」
「そうですね。少しでも、あの悲劇を抑えるために」
「僕も手伝う」
コピーを持って戻って来たレイカも併せ、家族全員で資料を読み進めていく。
そんな日々を繰り返しているうちに、あっという間に帰還の日が訪れるのだった。