「ただいまー」
「ただいま戻りましたー!」
アマロ村へと帰還した僕とレイカは、道草を喰わずに自宅へと戻って来た。
玄関の扉を開き、先に帰ってきているはずの家族たちに声をかけると。
「お帰り! ソラさん、レイカちゃーん!」
リビングから真っ先に飛び出してきたのは、なんとミタマさんだった。
彼女はこちらへと向かってくると、勢いよくレイカを抱きしめる。
「え!? 何でミタマちゃんがここに!?」
「ウチがアマロ村に来てちゃダメなの~? っていう冗談は置いといて、偶然ナナさんとレン君を見かけてね、お邪魔させてもらってたんだ~」
僕としても、ミタマさんがここにいるのは驚きだった。
休暇か何かで訪れたのだろうか。
「むぅ……。未熟とはいえ、ウチだって魔法剣士なんですよ? そこまで言えば、どうしてここにいるか分かりますよね?」
「もしかして、守護任務かい? 確かに、僕たちがいない間はアマロ村の防備が手薄になっちゃうから、代わりの魔法剣士の手配をお願いしてたけど……」
まさかミタマさんが守護任務の依頼を受け、ここにやって来ているとは考えもしなかった。
危険がほぼ無く、穏やかな土地ではあるが、巨大スライムが出現した時のように突発的に問題が起きる可能性が無いとは言えない。
そう言った事情から、単独での守護任務は経験を積んだ魔法剣士しか受けられないのだが、他にも魔法剣士が来ているのだろうか。
「来てますよ~。リビングでもじもじしてるはずなので、顔見せに行きましょ~!」
レイカの体に抱き着いたまま、ミタマさんはリビングに向かって行く。
彼女たちの後に追従し、リビングを覗き込むと。
「……邪魔をしている」
「なるほど、君が来てたんだ」
灰色の髪を持つ魔法剣士の少女――イデイアさんが、椅子に座ってコップに口をつけていた。
もう一人の友人が来てくれていたことに笑顔を浮かべるレイカに対し、彼女はそっぽを向いてしまう。
面と向かって喜ばれ、気恥ずかしくなってしまったのだろう。
交友関係は築けてきているので、素直になり切れていないと言ったところか。
「ソラさんもレイカちゃんも、久しぶりの再会で色々話したいことはあると思いますけど……。とりあえず、うがいと手洗いをしてきてくださいな」
「っと、そうだね。行こう、レイカ」
「うん! お話はちょっと待っててね、ミタマちゃん! イデイアちゃん!」
洗面所でやるべきことを済ませた後、僕たちはお互いの近況を報告することにした。
ミタマさんたちからは、アマロ村での出来事を話してくれるようだ。
「村の危機や問題は全く起こりませんでした! ただ、変わったことを村の皆さんに相談されまして……。どう対処すべきか悩んでいたことがあるんです」
「問題がなかったことは良いことだけど、要望があるのなら何とかしないとね。聞かせてもらえるかい?」
ミタマさんとイデイアさんはコクリとうなずき合い、村人からの要望を口から出していく。
湖に遊びに出かけた村の子どもたちが、野生のスライムと触れ合っていることがある。
大きな危険が無いことは分かるが、不安でしょうがないとのことだ。
「私たちが普段から受けている依頼内容とは真逆の相談でな。どう対処すればいいのか、全く想像がつかなかったんだ」
魔法剣士ギルドに送られてくる依頼は、その大半がモンスターからの悪影響を対処してほしいというもの。
小麦の村、グラノ村の時もウィートバードからの被害を減らしてほしいというものだったので、今回の相談内容には面食らってしまったのだろう。
「モンスターへの恐怖心が失われることで、人が無暗に近づいてしまう。スライムだからまだましだけど、これが凶暴なモンスターだった場合は……」
「私たちが最初に抱いた懸念の一つ……ですね」
ナナの発言に、無言でうなずく。
モンスター図鑑を作るうえで、抱いた懸念は二つあった。
モンスターをいままで以上に危険視することと、モンスターとの距離が縮まりすぎることだ。
今回の件は後者に当たり、人とモンスターとの共存の上で、最も危険な状態になりかけている由々しき問題だ。
「とりあえず、その話は僕が預からせてもらうよ。他に報告や相談したいことはあるかい?」
「他には特に……。ないよね?」
「ああ、問題ない。平和すぎて、鈍ってしまうかと思ったほどだ」
ミタマさんたちの報告を聞き、心の奥底にまで安堵感が広がっていく。
やるべきことが多様にあるとはいえ、最初に課せられたアマロ村の守護任務をないがしろにするわけはいかない。
だが、こうして目の前の少女たちが力をつけ、一つの村を守り抜いたことが分かったので、これからの守護任務は他の誰かに託すのも悪くなさそうだ。
「そういえば、君たちの任務期間はどれくらいなんだい?」
「三カ月です。ソラさんたちに何か問題が起きても良いように、一カ月ほど余裕を持たせていたんですけど、何も問題はなかったみたいですね!」
これからの一カ月は、四人の魔法剣士が常駐することになる。
レイカも久しぶりの友人たちと、のんびりと交流及び修行ができそうだ。
「さて、今度はこちらからの報告をしないとね。まず『アディア大陸』に向かう手段についてなんだけど――」
新しい世代が活躍しだしていることを嬉しく思いつつ、僕たちに起きた二カ月間の報告をする。
ミタマさんもイデイアさんも、とても興味深そうに、好奇心をむき出しにして話を聞いてくれるのだった。