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ゴースト

「魔力結束点に住みつくゴースト……! 厄介な相手です! 気を付けてください!」

 ナナが警戒を示す声を出すのと同時に、半透明のモンスター――ゴーストが腕らしき部位を僕たちに向けてくる。


 そこからいくつもの炎の球が出現し、襲い掛かって来た。


「ご挨拶もなしに攻撃を仕掛けてくるとは、いいご身分だな!」

 マスターインベルは剣を抜き取ると、飛んできた炎の球を一息に叩き落としてしまう。


 おかげで僕たちは傷一つ付くことなく、攻撃をやり過ごすことができた。


「結束点から噴き出す魔力を喰らい続けていたか……。並のゴーストとは比較することすらおこがましいレベルだ! 最大級の警戒でかかれ!」

「通常のゴーストすらほとんどお目にかかれないってのに……! その強化個体に遭遇しちゃうとはね……! 白雲君、気を付けてくれよ!」

 ゴーストの体を構成するのは魔力なので、武器による攻撃は意味をなさない。


 魔力をぶつけ、霧散させることで退治ができるのだが、これほどまでに強力な個体ではそれも望み薄の可能性がある。

 防御を主体に魔力を削り取り、ナナの魔法で霧散させるのが良いだろうか。


「防御魔法を使います! プロテクション!」

 魔法を発動し、防御壁で全員の体を包み込む。


 ナナが張る防御壁の方が耐久力はあるだろうが、彼女にはゴーストの魔力を霧散させる役を担ってもらいたい。

 長期間防御魔法を主に扱ってきた経験があるので、易々と崩されることはないはずだ。


「よし! 私から早速行くぞ! はあああ!!」

 強化魔法をかけ終えたマスターは、真っすぐゴーストめがけて突っ込んでいく。


 手に持つ剣が炎を帯びているところを見るに、まずはセオリー通り霧散させようとしているようだ。


「せいや!」

 剣はゴーストの肩辺りに吸いこまれていき、腕と胴体とを分断することに成功する。


 だが、分かたれた腕が霧散することはなく、宙をふよふよと漂い続けていた。


「ち……。普通ならこれで魔力が霧散するというのに……。総員、防御態勢!」

 宙を舞う腕に、魔力が集っていく。


 マスターの指示で防御壁の強度をより高めた瞬間、紫色の雷が目にもとまらぬ速度で襲い掛かってきた。


「これはまた想像以上だね……。防御壁は壊れなかったみたいだが、何度も喰らっていられる威力じゃないぞ……」

 僕たちを守る防御壁は、崩壊間近の状態になっていた。


 しかも雷の一部が滞留しているらしく、削り壊そうと動き続けている。


「張り直さないと危険だけど、新しく作った物も帯電しているせいで削られちゃうかな……。いや、まずは耐えることが重要だ!」

 新たな防御壁を出現させ、崩壊寸前の物は消滅させる。


 予想通り帯電は続き、防御壁にダメージを与えだしたようだ。


「攻撃は俺とマスターに任せてもらうよ。君と青薔薇ちゃんは奴の弱点を探ることに重点を置いてくれ」

「分かりました。でも、強化と防御くらいはさせていただきます!」

 各種強化魔法を二人に付与し、少し離れた場所でナナと共に戦いの様子を観察する。


 マスターは変わらず剣による攻撃を、先輩は魔法を用いてゴーストを削っていく。

 斬り落とした部位に魔法を当てるなどして霧散を狙っているようだが、ほどなく再生してしまい、有効な攻撃にはならないようだ。


 反撃として様々な属性の攻撃が飛んでくるので、防御をするにも苦戦を強いられている。


「魔力があまりにも膨大だから、あっという間に再生できるんだね……。あれを直接消し飛ばすことはできるかい?」

「もちろん――と言いたいところだけど、それにはこの一帯を吹き飛ばさないと。当然、私たちは巻き込まれちゃうし、結束点そのものが傷ついて、とんでもない災害になると思う」

 結束点からあふれ出る魔力全てが暴走でも起こせば、それこそこの森全体が消滅する事態になる。


 散らばった魔力が生態系に悪影響を与える可能性もあるので、最後の手段とすることもできなさそうだ。


「うららら、らあ!」

「久しぶりの戦いとしては荷が重いな……。だが、俺だって遊んでたわけじゃないさ。スパークレイン!」

 マスターも先輩も、決して怯むことなく自身の力を振るい続けているが、いくらでも再生を行えるゴースト相手には無意味な攻撃として終わってしまう。


 まずはあの再生を止めないことにはどうしようもなさそうだ。


「危ない! インフェルノ!」

 ゴーストから発せられた冷気が、巨大な氷の槍となってマスターめがけて飛んでいく。


 その攻撃はナナが生み出した巨大な炎柱により、あっという間に水となり、白い湯気となって消滅してしまった。


「助かったぞ、ナナ!」

「お気になさらず! 次、来ます!」

 今度は大量の大岩が空中に出現し、それらが一斉に落ちてくる。


 防御魔法と風の魔法を駆使して何とか防ぐことができたが、多少なり痛手を負ってしまった。


「このままじゃジリ貧になる……! 早く弱点を見つけないと……!」

 常にゴーストから目を離さないようにしているが、いまのところ弱点に繋がるような行動を取ったようには思えない。


 周囲を漂う魔力が自動的に奴に集まってしまうので、攻撃も回復の手も止まる気配がない。

 せめてこの魔力が無くなれば回復が止まるはずだが、魔力結束点から噴き出し続けるせいで――


「ナナ、結束点から噴き出る魔力って、止まることはあるのかい?」

「……あれを塞ぐつもりなら無理だよ。他の場所から大地を割くように穴ができちゃうから、一時しのぎどころか補給路を増やすことになっちゃう」

 魔力が噴き止むことはなく、何かで蓋をしても別の場所に吹き出し口ができてしまう。


 一見突破口は無いように思えるのだが。


「ナナ、君は最大級の魔法を放てるように準備しておいて。チャンスが来たらゴーストを消し飛ばせるように」

「作戦、思いついたの? なら、信じさせてもらうね!」

 早速、ナナは杖を構えて魔力の集中を始めた。


 その姿を横に見つつ、ゴーストめがけて走り出す。

 防御壁を張り直し、腰に下げていた剣に手を伸ばそうとしたその時、正面から巨大な岩が飛んできた。


「おっと、やらせはせんぞ!」

 一瞬のうちにマスターが僕の前に踊りだし、飛んできたそれを真っ二つに斬り裂いてくれる。


 吹き飛んだ岩が落着し、大地を穿つような轟音が鳴り響いたが、彼女のおかげで傷一つ付くことはなかった。


「君たちが動き出したということは、何か見つけたんだね。なら、今度は俺たちが守る番だ!」

 次にゴーストから大量の火炎弾が飛んできたが、それらはルペス先輩が生み出した巨大な水球に包み込まれ、あっという間に消滅してしまった。


 二人の行動に感謝しつつ、大きく飛びつきながら剣を引き抜く。

 抜いたものは英雄の剣。損傷があるせいで振るえない剣だが、できることはある。


「吸いつくせ、英雄の剣!」

 英雄の剣を突き刺すように構え、結束点の中に差し込む。


 意志を持って攻撃を仕掛けてくるゴーストに、直接剣を触れさせるのは危険が伴う。

 ならば、奴の体を構成するための補給路を断ってしまえば。


 狙い通り、噴き上がってくる魔力が剣に吸い込まれ、周囲に漂うことが無くなった。


「なるほどな。ルペス、攻めるぞ!」

「了解です!」

 マスターの指示で先輩も剣を抜き、ゴーストに振り下ろしていく。


 奴の体の各部があっという間に斬り分かたれ、バラバラに浮遊する。


「ナナ! 結束点から吹き出る魔力は僕が抑える! 思いっきりやっちゃって!」

「うん、分かった! トルネード!」

 ナナがゴーストに向けて杖を振り下ろすと、いくつものつむじ風が周囲に現れる。


 それらはぶつかり合うようにしてお互いを食らい、成長しながら標的目掛けて近づいていく。

 最終的に一つの竜巻に変化し、実体のない魔力の体をあっという間に霧散させるのだった。


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 ゴースト エレメント系 霊体族


 体長  保有魔力量によって変化

 体重  なし

 弱点  なし

 生息地 魔力が濃密な空間


 魔力そのものが集い、形となって行動を開始するようになった実体無きモンスター。

 自身を存続させるために魔力を求め、ただひたすらに他の生物を傷つけていく。


 その性質上、武器のみによる攻撃は全く意味をなさず、一時的に分断する程度のことしかできない。

 退治法としては強力な魔法で霧散させることだが、中途半端な威力の魔法ではむしろ食事を与えるだけとなってしまう。


 魔法のように各種属性を操る能力を持つが、この際に自身の魔力を消費している。

 周囲からの補給を断てば保有する魔力は次第に減少していくので、いずれは強力な魔法でなくとも退治が可能となるだろう。


 ゴーストが出現しやすい地域は、人やモンスターが数多く命を落とす場と言われている。

 命を落とすからゴーストが生まれるのか、ゴーストが生まれたから命を落とすのか。


 真実はゴーストにも分からない。

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