「やっと入れた……。やっぱり、王都は人が多いね……!」
フラフラとしながら、レイカが小さくつぶやく。
長い待機列に並び続け、やっとの思いで王都ラーリムダに入れたため、僕も彼女と同じような状態となっている。
警備上仕方がないとはいえ、もう少しどうにかならないものか。
「シャプナーさんに『アディア大陸』の出来事を報告しに行って、その後にお買い物だったよね?」
「予定はそのつもり。ただ、その前に腹ごしらえをしようか。ちょっとお昼には早いけど、また待ちくたびれる羽目に会うのは嫌だしね」
レイカは提案にうなずき、僕に続いて道を歩き出す。
その歩きには惑いがなく、瞳は恐怖ではなく好奇心で彩られている。
彼女が初めてこの街を訪れた時の姿が脳裏に浮かび、懐かしさを抱く。
「あの時は怯えてばかりいた君も、堂々と道を歩けるようになったね」
「うん! お兄ちゃんやみんなのおかげだよ!」
レイカは僕に満面の笑顔を見せ、手を取ってくれた。
二人だけで行動しているせいか、いつもよりも積極的なように思える。
普段は、ナナへの遠慮が少なからずあるのかもしれない。
「ねえ、気のせいかな? 兵士さんの姿が多くない?」
「え? 言われてみれば……。見回りに出ているにしては数が多いかもね」
今日の王都は、兵士の数が普段より多いようだ。
直近に何かしらの催しはなかったはずなのだが。
「ここら辺はシャプナーさんに聞けば分かりそうだね。さて、商業区に着いたわけだけど、どこのお店に入ろうか」
食事関連の建物が立ち並ぶ通りは、食欲をそそる香りで包まれている。
席に座って食べるだけでなく、露店で買った物を近くの公園等で食べるのもいいかもしれない。
「私、ハンバーグが食べたいな!」
「またかい? って言いたいところだけど、この二カ月間は食べられなかったもんね。それじゃあ席に座って食べられる店を探そうか」
軽く各店舗の様子を見回りながら、良さそうな店を探す。
いくつか候補を見つけたものの、最終的には肉料理を専門に出している飲食店へと足を踏み入れるのだった。
「ハンバーグとチキンステーキで。飲み物はフルーツジュースと紅茶を」
窓際の席に着いた僕たちは、道行く人たちを眺めながら料理が出てくるのを待つことに。
それにも飽きが出始め、大きくあくびをしたタイミングでこんな声が聞こえてきた。
「もうすぐ王子様がこの街に帰ってくるって噂、本当なの?」
「本当かウソかを俺に聞かれても困るが、結構な数の奴らがそう信じているみたいだぜ。急に兵士たちの警戒が強まったからな」
ラーリムダという街の名に王都と付けられているように、この国の主である王はこの街の最奥部にある王城に住んでいる。
彼には一人息子である王子がいるのだが、良い歳だというのに政務に全く関わらず、各地を旅してまわる放蕩者なのだそうだ。
「いい加減遊びまわるのをやめて、腰を落ち着けてほしいけどねぇ……」
「王も歳だってのにな……。六年前のショックが尾を引いているって話だが、かといって王子と代替わりをするにしても、大騒ぎになりそうだよな……」
現国王である人物は、武術及び智謀に長けた傑物だったと聞いたことがある。
モンスター大発生事件の際も自ら兵を率い、王都の防衛をしたそうだが、被害を抑えきれなかったことに心を強く痛め、政務に集中できなくなってしまったそうだ。
「長い期間でみれば、浮き沈みがあるのは必然だけど……。現状は、一般の人たちも目をそらせる状態じゃなくなってるみたいだね」
「私たちもこの大陸の人たちのお世話になってるし、何かできればって思うんだけど……」
魔法剣士という後ろ盾を得たとはいえ、本来であれば僕とレイカたちはこの大陸にいないはずの存在。
浮いた存在である僕たちでは、国に何かしら働きかけることはできないのだ。
「可能な限り情報を集め、僕たちが問題の火種にならないようにしていればいいのさ」
「だね。あ、料理が運ばれてきたみたい。帰りの旅程もあるし、しっかり食べないとね!」
国の話を脳の片隅に送り、運ばれてきた料理に舌鼓を打つ。
懐かしの『アヴァル大陸』の味に満足した僕たちは、シャプナーさんのいる武器屋に向けて歩き出すのだった。