「お肉、お肉~。野菜も詰め込んで~」
「水を汲んできたから、分けて容器に保存してっと」
リビングに入ると、レイカとレンが飲食料を容器にしまっている姿があった。
これから皆で出かけるための準備を行っているのだが、二人の作業は大分終わりに近づいているようだ。
これらを冷やすための準備はナナが行っているのだが、そろそろ終わっただろうか。
「ソラ~! ちょっと剣を持ってきてー!」
「お、早速……だけど剣? はーい、いま行くよー!」
聞こえてきた声に返事をしつつ、頼まれた物を持って玄関へと移動する。
扉を開くと、そこには巨大な影が出現していた。
「これまたずいぶんとでっかいのを作ったね……」
「貯蔵庫用の氷もついでに補充しようと思ってたんだけど……。大きく作りすぎちゃった」
半透明の氷の陰から、ナナが舌を突き出しながら姿を現した。
まだ魔女にすらなっていないというのに、これほど巨大な氷を苦労した様子もなく作れるのだから末恐ろしい。
「溶かせば小さくはできるけど、それだともったいないでしょ? ソラの剣で斬り分けてほしいなって思ったんだけど……」
「なるほどね。んじゃ、やらせてもらうよ。危ないから少し離れていてくれるかい?」
ナナが離れていくのを横目に見つつ、剣を抜き放つ。
剣の強化もされている上に、これまでの旅で僕自身の技術も上がっているはず。
これくらいは容易く断てなければ。
「かなり強力な冷気で凍らせちゃったから、硬度はかなりあると思うけど……。ソラなら平気だよね?」
「プレッシャーを掛けてくれるねぇ。それじゃ……。はあああ!」
氷に対し、精神を統一してから袈裟切りを放つ。
すると両断された部分がずるりと動き出し、音を立てて地面に落ちていった。
「刃こぼれなし。よし、続けていくよ!」
縦に、横に、斜めに剣を振り、氷が細かくなるまで斬り続ける。
やがて草の上には、氷の破片が大量に散らばるのだった。
「おおー。やっぱりソラも強くなってるんだね~」
「ま、そうそうできない経験を繰り返してきたからね。この程度はできるようになっておかないと」
細かい氷の回収はナナに任せ、大きなものを手に取って貯蔵庫へと運ぶ。
これでしばらくの間は保存に困ることはないだろう。
「あのぶんなら試験は余裕で合格できそうかな。気負っている様子もないし、筆記の方もたくさん勉強してたから問題ないはずだし」
今回皆で出かけようとしている理由は、ナナが受ける予定の魔導士試験が、近々とある街で行われるから。
それなりに距離があるので、道中の食料を準備しているというわけだ。
「冷気が室内全体に行き渡る場所に……。よし、これでおっけー。僕も戻って準備を終わらせよう」
貯蔵庫の扉をしっかりと閉め、リビングに戻って準備作業を再開する。
てきぱきと荷物の詰め込みを行い、玄関前には各々のカバンが置かれていく。
皆で協力して作業を行ったためか、出かける予定の時間よりかなり早くに準備が終わる。
いまから向かっても待ちぼうけになってしまうので、テーブルに座り、のんびりと会話をすることにした。
「今回の目的地は、あちこちに大きな噴水がある街だったよね? 水路があちこちに張り巡らされてるみたいだし、綺麗な街並みなんだろうなぁ……」
「良い絵が描けそうで楽しみ」
休憩しつつ、レイカたちはウキウキとした様子を見せていた。
今回の目的地は、『アヴァル大陸』内では王都に次ぐ大きさを誇る街。
二人の好奇心は、大きくうずいていることだろう。
「道中でワクワクしすぎて疲れないようにね。到着予定時刻は朝だから、疲れ切ってたら観光もできないよ」
「そこまで子どもじゃない。姉さんだったら分からないけど」
「へ~……。一晩中ずっと、自室でゴソゴソしてたの誰だっけ?」
レイカの暴露に、レンが大きく慌てだす。
今日の朝、二人が眠そうに部屋から出てきたのはそれが理由か。
「まあ、客車での移動が大半だから、そういう時に体を休めておけばいいさ」
「は~い。でも、寝てる間は景色を見れないのがなぁ……」
「こういう時、『アディア大陸』で見かけた撮影道具が羨ましくなる」
穏やかな会話が続いて行くうちに、やがて時計は出発の時を知らせてくる。
各々の荷物をつかみ取り、アマロ村の客車乗り場へと移動した僕たちは、目的地の方向へと移動する客車に乗り込むのだった。