「うう、緊張してきた……。気持ち悪くなりそ……」
「大丈夫ですか? アニサさん。ちょっとでも体調が悪くなる前に、お水を飲んで気分を変えてくださいね」
魔導士ギルドの受付前にて。二人の魔導士が、試験開始時間を待っていた。
今日は魔導士試験が実施される日。
栄光を目指し、数多くの魔導士がこの場を訪れていた。
「はぁ……。こういう時こそウォルの根拠のない自信を聞きたいってのに、相変わらずあのバカは……。試験を受ける私たちのこと、少しくらいは考えなさいっての……」
「あはは……。欲しい声援とは違うかもしれませんけど、ソラたちが来てくれてます。ウォルさんに代わって、応援してくれてますよ」
ナナは床を見つめているアニサさんから視線を外し、僕たちに向けて手を振る。
それに同じ行動を返すと、こちらに顔を向けたアニサさんが小さく笑みを浮かべてくれた。
ウォル君はいつも通り夜間に大騒ぎをしたせいで、現在は疲れて眠ってしまっている。
僕たちが出かける前でも気持ちよさそうに寝ていたので、彼がやってくるのは試験が始まってからとなるだろう。
「普段強気なアニサさんも、やっぱり不安になるんだね……。想像以上に魔導士さんたちがいるし、どことなくピリついてて怖いかも……」
「大陸中から集まってきているわけだからね。もしも僕がこの人たちと腕を競うことになったらと考えると、萎縮しちゃうだろうなぁ」
その点、ナナは非常に落ち着けているように思える。
試験勉強を十全に行ってきたこと、何より自身の魔法に強い自信と誇りを抱いているので、この程度のプレッシャーなど些細なこととなったのだろう。
「あ、見つけました! ナナお姉さまー! おはようございます!」
「マギちゃん。おはよ、今日も元気いっぱいだね」
魔導士ギルドの入り口に現れたマギアさんが、ナナの元へ駆けていく。
彼女にも気負いや緊張の様子は見られない。
それだけ自信があるということであり、これから行われる試験をただの過程としか見ていないことの裏返しとなる。
「僕たちにできることは、彼女たちが魔女になれるように祈ることと、試験の様子を見守るだけ。最初に行われる実技試験は、誰が観覧しても良いことになってるんだよ」
受付そばの通路に、一般の人たちが集まっている姿が見える。
どうやら観覧席の準備が整い、誘導が始まったようだ。
「誰でも見て良いってすごいよね。試験の邪魔をする人たちが来ないとも限らないのに」
「あの通路の入り口前に魔導士たちがいるでしょ? あの人たちが観覧する人たちのチェックをするのと同時に、いざという時のために魔法をかけているんだ」
よくよく見ると、通路を進もうとする人たちに杖が向けられている。
感応式の拘束魔法らしく、不審な行動を取ると、即座に捕縛させる効果があるそうだ。
「みんな~! 私たち、そろそろ行ってくるね!」
「うん、行ってらっしゃい。僕たちも観覧席で見守ってるよ」
ナナは笑顔を浮かべ、アニサさんは緊張した面持ちをしながら、マギアさんは僕のことを睨みつけつつ、一般の人たちが入っていくのとは別の通路へと進んで行った。
実技試験の後には筆記試験があるため、一連の行程が終了するのは午後となる。
その間に受験者たちに何かしら用があっても、一般人が面会することは原則禁止とされているので、彼女たちと再会できるのは、なんだかんだで夕暮れ時近くになりそうだ。
「さて、それじゃあ僕たちも観覧席に行こうか。開始ギリギリに入って、立ったまま見守るのは大変だからね」
「魔導士さんたちの試験……。どんなことが行われるのかな?」
「ワクワク」
妹たちを連れ、観覧席へと向かう人たちの列に並ぶ。
荷物の確認が行われ、魔法をかけられ、通路を進むと――
「すっごーい! おっきな訓練場だー!」
屋外に作られた巨大な訓練場が姿を現すのだった。