「行っちゃったね」
「うん。プラナムさんたちなら、必ずお城からソラを連れ出してくれるはず。私たちはこれからの対策と準備を始めよう」
大空高く舞い上がっていく飛空艇を見送りつつ、ナナ、レイカ、レンの三人は大きくうなずき合う。
彼女たちは、これからやってくるであろう人物たちへの対策のため、魔法で罠を仕掛け、気付かず踏み込めば足をくじく程度の穴を掘り始める。
自衛をしようという割にはお粗末な物ばかりだが、彼女たちの目的はあくまで時間稼ぎ。
王都へと向かった飛空艇が、この場に戻ってくるまでを耐えられればそれで良いのだ。
「おーい! オイラたちが来たぞー!」
聞こえてきた声に作業の手を緩め、ナナたちは村がある方向へと視線を向ける。
そこにはウォルとアニサが、大きく手を振りながらやってくる姿があった。
「お! 落とし穴を掘ってんのか!? オイラに任せな! でっけぇのを掘って――」
「ウォルさん、そこは――」
ナナが止めるも遅く、ウォルは地面へと倒れてバタバタとのたうち回り始めた。
仕掛けられた罠を踏み抜き、拘束魔法が発動したようだ。
「お、おい! なんだよこれ! オイラを捕まえても意味ねぇだろ!?」
「何やってんのよ、アンタはもう……。罠の準備をしているところに足を踏み入れるんだから、もう少し警戒しなさいよね。ほら、解除してやったからさっさと起きなさい」
アニサがウォルに向けて魔法を使ったことで、拘束は無事解除された。
彼は不満そうに顔を歪め、服に付いた草を払いながら起き上がる。
そして足元への警戒を強めながら、ナナたちの元へ向かうのだった。
「おはようございます。ウォルさん、アニサさん。お手を煩わせてしまい、すみません」
「いーのよ、気にしないで。むしろ、ちゃんと罠が発動するかの確認になって良いんじゃない?」
「オイラは被検体だってか……。まあ、あんなんが複数仕掛けられてるんだったら、時間稼ぎには最適だろうけどよ……」
ウォルとアニサを含めた五人は、襲撃の対策準備を再開する。
魔法で罠を作り、地面に小さな穴を掘り、その上に軽く草を撒いていく。
太陽が頂点に達した頃に全ての準備は完了し、五人は腹ごしらえをするために家の中へと入るのだった。
リビングには、ナナたち一家の一員であるスライムのスララン、コボルトのルトとコバの姿がある。
落ち着かない様子を見せているが、これから起きるかもしれない出来事を、モンスターたちも感じ取っているのかもしれない。
「ごめんね、ソラ君に会えなくて寂しい思いをしているはずなのに、不安まで感じさせてしまって。彼が戻ってきたらきっと甘えさせてくれるから、あと少しだけ我慢してね?」
「クゥーン……」
皆でひとしきりモンスターたちを撫でた後、ビスケットとジャムによる軽食が開始された。
いつ襲撃者が来ても良いように、ウォルは食事をしながらも窓に張り付き続けている。
ナナも魔法に異常が出ていないか、休憩しつつ警戒を続けているようだ。
「お。どうやら団体様のご到着のようだぜ。村の停留所に向けて、いくつもの客車が移動してる」
ウォルの言葉で皆が窓に集まり、外の様子をうかがい出す。
遠方には、客車の列がアマロ村に向けて移動している様子が見える。
あれら全てが敵だと仮定すると、かなりの数がこの場に向かってくることになるだろう。
「ナナちゃんたちが聞いてきた情報どおりね。早く出すぎたら警戒しちゃうでしょうし、家の近くに来たタイミングで出ましょうか」
ナナたちは残っていた軽食を口に放り込み、それぞれの得物を手に取って最後の調整を始める。
この場から逃げ出すのは、手引きをした人物が行方をくらませる可能性があるので却下。
飛空艇の到着が遅れれば、武器を振り回しての抵抗も必要になるだろう。
「全く、まさか所属しているギルドと一戦交えることになるなんてね……。でも、ソラ君たちと紡いだ絆が壊れるよりかは、ずっとましな気がするわ」
「ちがいねぇな。待遇を受けられなくなったとしても、冒険は続けられる。ならオイラたちは、親友であるソラの家族を守るために戦うぜ!」
ウォルとアニサはうなずき合うと、勢いよく室内から外へと飛び出していく。
ナナたちもまた彼らの言葉に嬉しさを抱きつつ、後に続いて行った。
ソラたちが乗った飛空艇が現れたのは、それから約三十分が経過した頃。
空から降りてくる飛空艇を見つめながら、時間稼ぎが終わったこと、待ちわびた人が帰ってきてくれたことに、彼女たちは笑みを浮かべるのだった。