「お、お! 正面に大陸みたいなものが見えてきたぞ! あれがそうか!?」
ウォルの声に反応して大きな窓の先を見やると、海上から数十メールはあると思われる巨大な崖を持つ大陸が現れる。
あれは数カ月前に訪れ、新たな知識、新たな力、そして英雄の剣と新たな使命を得た地、『アディア大陸』だ。
「断崖絶壁の大陸じゃない……。あんなの、飛空艇じゃなかったら入ることは当然、出ることすらできないわよね? 一体、以前はどうやって……?」
「海の中から侵入します。海中の岩壁に大きな穴が開いている場所があり、そこから大陸内部にある湖に出られるのですよ」
断崖絶壁を見て絶句をするアニサさんに、飛空艇の艇長を務めるプラナムさんが大陸への侵入経路を説明する。
もしも大陸間の渡航が一般的になった場合、空中と海中どちらからの侵入が基本となるのだろうか。
飛空艇の方が入るのは容易だと思うが、潜水艦を利用しての海中散策も捨てがたい。
渡航を希望する人の要望次第、というのも可能性としてありえそうだ。
「それにしても、たったの一日でアマロ村からここまで来れるなんて……。潜水艦とは大違いの速度ですね」
「向こうは水の抵抗がある上に、海中に障害物も多いですからね。その点、飛空艇は出せる速度も段違いな上に、何も気にせずに移動ができますので」
潜水艦を利用しての渡航期間は約一週間だったが、それに付随して、艦のある場所までの移動や、砂漠の移動も含めれば、二週間程が実質の移動時間だ。
大幅な時間短縮ができる上に、ある程度開けた場所であれば自由自在に離着陸できるのが、飛空艇の大きな強みと言えるだろう。
欠点としては、音が大きいことや目立ちやすい点が挙げられるだろうか。
「お兄ちゃんは、この景色と速度を一足先に堪能できたんだよね……。羨ましいなぁ……」
「楽しもうと思える心情じゃなかったけどね。実質的には今日が初フライトみたいなものさ」
いまこうして家族たちと、友人たちと共に飛空艇に乗れたことで、初めての乗艇の時には抱けなかった感情が激しく立ち昇ってくる。
一回目だから、二回目だからと気にすることはなく、存分に楽しまなければ損だろう。
「当機はまもなく『アディア大陸』に入ります。飛行高度を上げますので、揺れにご注意くださいまし」
今回の目的は、飛空艇が持つ高空への移動能力の確認と、『アディア大陸』に存在する最後の種族に会いに行くこと。
かなりの標高を持つ山にその種族は住んでいるので、飛空艇が作り上げられた最大の目的である、空中に浮かぶ大陸を探しに行くための事前確認にはもってこい。
それに加え、彼らはモンスターと心を通わせる能力を持つそうなので、交流次第ではモンスター図鑑作成の一助になる知識を教えてくれるかもしれない。
「帝都の散策は後回しになっちゃうけど、それで良いんだよね? ウォル」
「初めての場所に行くわけだからな。後でも先でも大きくは変わんねぇさ」
行ってみたくて、見てみたくてしょうがないはずなのに、ウォルは僕たちの事情を優先してくれる。
そんな彼の寛大さに感謝しようと思ったのだが。
「うおおおお!? めちゃくちゃどでけぇ樹があんぞ! 反対の方向には、よく分かんねぇけど大量のでかい建物が見える! あっちが帝都ってやつか!? 早く、早く行こうぜ!」
「直前の言葉くらいには責任持ちなさいよ……。ウォルの発作みたいな物なので、気になさらないでくださいね」
ウォルの言葉は無視され、飛空艇はさらに速度を上げて砂漠上空を飛行する。
やがて砂の大地を抜けると同時に、眼前に大きな山がいくつも現れた。
その中で最も雄大と思われる山に向け、飛空艇は高度を上げていく。
空に浮かぶ大陸を探すという夢に向け、高く、速く――