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グリフォンとの繋がり

「グリフォンを食べるモンスター……。危険性は高そうですね……」

「さすがに大人の個体に襲い掛かることはないけどね~。グリフォンの子どもたちは食べちゃうし、たまにボクたちにも襲い掛かってくるから、定期的に狩る必要があるんだ~」

 クウさんの家に戻ってきた僕たちは、退治するモンスターについての話を聞いていた。


 標的はヘビーアナコンダと呼ばれる蛇型のモンスターで、その全長は2から3メール程になるそうだ。

 群れで狩りをする習性があり、エサとして定めた標的をどこまでも追いかける執念深さも持ち合わせているらしい。


「蛇かぁ……。参加するって言っちゃったけど、あの瞳、ぬめぬめした鱗、苦手だなぁ……」

「小さくても、睨まれると体が硬直するような感覚に襲われる」

 『アイラル大陸』北部には蛇のモンスターが住んでいないため、レイカたちは苦手意識を抱いている。


 僕も初めて蛇の姿を見た時は、何とも言えない寒気に襲われたものだ。


「無理に戦いに出る必要はないよ~。どこから襲ってくるのかを把握して教えてくれる、司令役を担ってくれるだけでも嬉しいな~」

 クウさんの提案を聞き、妹たちは胸をなでおろしながら小さく息を吐いた。


 今回のモンスター退治は、数多くのビーストたちが動くらしい。

 戦力的には十分足りているそうなので、苦手意識があるのであれば、無理に参加する必要もないだろう。


「私も蛇は苦手だから、指令役の方を担わせてもらおうかしら。ウォル、ちゃんとみんなの話を聞いて、迷惑をかけないようにするのよ?」

「へーへー、分かってますよ。言っとくが、お前たちの方こそ気を付けろよ? いつの間にかヘビーアナコンダが近づいてきて、噛まれたなんて笑い話にもなんねぇからな。毒があったらやべぇぞ?」

 後衛であれば危険に晒される可能性が低いとはいえ、攻撃を受けないとは限らない。


 蛇のモンスターであれば、物陰から音もなく近寄ってくるはずなので、いつの間にか攻撃を受けていたなんてことは十分あり得るだろう。


「毒はないから安心――とは言えないけどね~。噛まれたら当然痛いし、締め落とされる可能性もあるしね~」

 毒の治療にはナナの薬、もしくはレンのホウオウに頼らなければならないので、それに悩まされる必要が無いと分かっただけでも一安心ではある。


 だが、2メール以上の体から繰り出される攻撃はかなりの威力となるはず。

 僕たちも極力攻撃を受けないよう、注意しなければ。


「ケガをしても、僕とホウオウが治すから。みんなは全力で戦って」

「ありがとうね、レン君。なら私は、モンスターがたくさん出てきても、大きいのが出てきても良いように、本気で戦わせてもらおうかな」

 ナナが共に戦ってくれるのであれば、恐れるものは何もない。


 どんな敵が現れようとも、その卓越した魔法と膨大な魔力により、容易く打ち砕いてくれるだろう。


「お兄ちゃん。今回は私がモンスターたちの情報を集めるよ。ナナお姉ちゃんとウォルさんのこと、グリフォンたちのことも守ってあげてね!」

「うん、任された。もしヘビーアナコンダを見て気分が悪くなったら、すぐに休むようにね」

 レイカの頭部を優しく撫でた後、クウさんへと向き直り、うなずく。


 僕たちの意思は一つにまとまった。

 今度はなぜ、グリフォンを守るようになったのか、聞いておかねば。


「グリフォンを守るようになった歴史か~。やっぱり、彼らの飛行能力に着目したというのが大きいだろうね~。空の移動は、すっごい便利。遠方への移動に、周囲の偵察、敵と戦うにも上を取れるのは有利だからね~」

 飛空艇でこの地を訪れている以上、空を移動することの優位性は理解できている。


 近場に空を飛べるモンスターが居て、それに騎乗できる可能性があれば、利用したくなるのは当然の話だろう。


「最初はただただ、利用するだけだったんだろうけどね~。けど、いつの間にかグリフォンたちを自分たちの仲間とするようになって、いまの関係ってわけさ~」

「共にいつまでも空を飛び続けられるように。そんな彼らへ感謝をするため、野生のグリフォンたちを守る文化が生まれたのですね……」

 決して、美しい理由を持ってグリフォンたちに近づいたわけではない。


 それでも、共に暮らしていくうちに敬意を抱くようになり、守りたいと思えるようになったのは素晴らしい変化だ。


「いまでは良い関係を築けているけど、ほんとにほんとの最初期は仲が悪かったみたいなんだよね~。卵もそうだけど、子どものお肉、すっごく美味しいんだよね~」

 くるりと視線を動かすと、ウォルの瞳の色が変わったように思える。


 彼の胸中では、グリフォンたちを食べてみたいという気持ちが湧いたのだろう。


「アンタ、ビーストの人たちに失礼だと思わないの? 美味しいものを食べたいって気持ちは分かるけど」

「欲しがるのは違うとは思うけどよ、食えるんなら食うだけだろ」

 実際、ビーストたちもグリフォンを食べることがあると言っていたので、食べてみたいと思っても咎められることはないだろう。


 だが、他の種族の所有物に変わりないので、こちらから要求するのはお門違い。

 その辺りはウォルも理解しているので、いざこざが起こることはないだろう。


「ちなみに、ヘビーアナコンダの討伐中にグリフォンの総数も調べるんだけど、多すぎる場合は体の弱い子どもの個体をしめることにしているんだ~。グリフォンの数が増えすぎても、環境は崩れちゃうからね~」

 僕たちの視点からでは無慈悲な言動に思えるが、この地域に長く暮らしているビーストたちだからこその言葉なのだろう。


 せっかく知る機会があるのだから、そういった点にも目を向けていかなければ。


「難しいよね……。増えすぎも、減らしすぎも環境のためにならないとなると……」

「モンスターと付き合う上での命題みたいなものだからね~。でも、目をそらすわけにはいかない。この山に暮らす者として、グリフォンと生きる者として」

 穏やかな表情から一転、真剣な表情を浮かべるクウさんを見て、自然と僕の心にもやる気が満ちてくる。


 グリフォン防衛戦が行われるのは明後日。

 この日の会議はこれで終了となり、僕たちのために用意された建物で体を休めることになるのだった。

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