「グリフォンたちの巣がある山頂は、もう目の前だよ~。子どもたちを守ろうとして、彼らが急襲してくることもあるから気を付けてね~」
いまいる場所は、グリフォロ大山頂上付近。
呼吸を整えつつ山頂を見上げると、数多くのグリフォンたちが動き回る姿が見えた。
視界に映るあれら全てが野生の個体らしく、一斉に襲い掛かってくる可能性を考えるだけで寒気がしてきそうだ。
「アイツらが飯を取りに行ってる最中を狙って、討伐対象が現れるんだったよな? つまり、飯から帰ってくるまで戦い続ければ良いってわけだ。ビーストたちとの共同戦線、楽しみだぜ」
ナナとウォルに僕を含めた三名の周囲には、各々が武器を握ったビーストたちの姿がある。
彼らと共に討伐対象と戦い、グリフォンの子どもたちを守る手伝いをするというわけだ。
「ヘビーアナコンダが襲ってきたことや、グリフォンたちが戻ってきたことは指示役の人たちが教えてくれるから、みんなはその通りに動いてね~」
レイカ、レン、アニサさんを含めた指示役たちは、ここから少し離れた場所に見えるグリフォル大山最頂地点に向かっている。
そこで周囲の変化をつぶさに観察してもらい、適時指示を出してもらう。
僕たちはその指示に従いつつ、防衛を行うのだ。
「ん、グリフォンたちの様子が変わってきたね~。そろそろ狩りに出かけるかな?」
「指示役の人たちも最頂地点に到着したようです。僕たちも突入準備を始めましょう」
岩陰に隠れ、息を潜めつつその時が訪れるのを待つ。
やがて地上にいたグリフォンの内の一体が、翼を広げて大空高く飛び上がっていく。
その行動を皮切りに、次から次へと他の個体も翼を羽ばたかせ始め、宙へとその体を浮かせだす。
彼らは巣に子どもたちを残し、何処かへと飛び立っていってしまった。
「よ~し、巣へ入ろう! ヘビーアナコンダはすぐ来るから、油断しないようにね~」
武器を握り、一気にグリフォンの巣へとなだれ込む。
すると僕たちに気付いたグリフォンの子どもたちが、大きな声で鳴き始めた。
僕たちの出現に驚き、親を呼ぼうとしているのだろうか。
「数が多い分、うるせえな……。注意しねぇと指示役の声を聞き逃しそうだ」
「ある程度は僕たちでも判断しないとね。さあ、早速現れたみたいだ。みんな、やろう!」
どこからともなく、にょろにょろと体を揺らしながら蛇たちが現れた。
数は十体程度。体格は聞いている通り、2メールから3メール程度ある。
これから大量にヘビーアナコンダが現れるのであれば、まずは目の前にいる奴らを全滅に近い状態にできなければ、先行き不安と言ったところか。
「まずはおにーさんたちの力を見せてもらおっかな~。あの程度なら、よゆーでしょ~?」
「言ってくれるじゃねぇか。よっしゃ、ならオイラから行かせてもらうぜ!」
発破をかけられたウォルは、ヘビーアナコンダに接近し、勢いよく剣を突き刺そうとするのだが。
「んあ? 手ごたえがね――って、うおわ!?」
ウォルが握る剣には、ヘビーアナコンダが絡みついていた。
奴は刃で傷つかないよう器用に移動をし、彼の手に噛みつこうとしているようだ。
「ウォル、剣を空に! ナナ!」
「任せて! サンダーストライク!」
剣が空に投げ上げられ、ナナがそれに向かって雷を落とす。
再び地上に戻ってきた剣にはヘビーアナコンダが絡みついていたが、黒く焼け焦げ、動かなくなっていた。
「サンキューな、二人とも! にしても、サイズがでかいわりに素早いとはな……。これ、大群で出てきたら面倒なんじゃないか?」
「そーなんだよね~。ボクたちも魔法を使えるわけじゃないから、一体ずつ対処するしかなくて……。おねーさんの魔法は心強いよ~」
「ええ、頑張らせていただきます。でも、魔法ならソラも……ね?」
「もちろん。より効率化させた圧縮魔、存分に使わせてもらうよ」
両手に魔法を出現させ、それらを重ねるように圧縮していく。
二つが一つとなり、指先大に変化したところでそれを発射する。
「メガブラスト!」
ヘビーアナコンダの中心へ魔法が移動したところで圧縮を解除し、膨張した魔力で奴らを吹き飛ばす。
取りこぼしはあったが、大体は動かなくなったようだ。
「今度はミスらねぇぞ! おらぁ!」
剣を拾い上げたウォルは再び突きを繰り出した。
先ほどと同様、ヘビーアナコンダは剣に巻き付こうとするのだが、彼はそのタイミングを狙って剣を横なぎに振り払う。
奴の体は両断され、地面へと落ちていった。
「第一波は全滅だね~! 今度はボクたちが戦わせてもらうよ~!」
クウさんの合図を受け、ビーストたちは各々の武器を手に咆哮を上げる。
彼らは新たに襲い掛かってきたヘビーアナコンダに躍りかかり、慣れた手つきで命を奪っていく。
「棒を武器にしている人が多いね。奴らに取りつかれても素早く捨て、予備で攻撃か……。武器の使用を制限してくる敵には良い戦い方かもね」
「消耗がでかめなのが気になるけどな。あれ、見てみろよ。クウの奴、ヘビーアナコンダを取りつかせずに戦ってるぜ」
ウォルの言う通り、クウさんは一度も武器を取り換えずに戦っていた。
卓越した技術で棒を操っており、その動きは曲芸とも思えるほど。
ヘビーアナコンダもそれに翻弄され、絡みつく暇もなく打ち倒されるのだった。
「あ、指示役が何かジェスチャーを……。第二波反対方向、敵襲あり……! ソラ!」
「うん、僕たちが行こう!」
「当然、オイラも行くぜ! おりゃあああ!」
走り、岩場を飛び越え、指示が出された方向へと移動する。
そこでは、ヘビーアナコンダの一体がグリフォンの子どもの目の前にまで接近しようとしていた。
「くっそ! 間に合わねぇぞ!」
「大丈夫! ドロー!」
虚空に向かって剣を振り下ろしつつ、圧縮魔でヘビーアナコンダを引き寄せる。
ちょうど剣が振り下ろされた地点に奴は出現し、切断音と共に動かなくなった。
「めっちゃくちゃな技だなぁ……。お前にそれをやられたら、対応できる気がしねぇぞ……」
「タイミング次第で思いっきりカウンターを受けるけどね……。なかなか難しい技だよ」
攻撃準備を終えている相手を引き寄せてしまえば、こちらも対応できずに攻撃されてしまうだろう。
非常に便利な攻撃手段ではあるが、使いどころを間違わないようにしなければ。
「子どもたちに近寄られすぎてて、広範囲の魔法が使えない……! 私は援護にまわるから、ソラはウォルさんと一緒に!」
「りょーかい! 行くよ、ウォル!」
「おうよ! おら! そりゃ!」
剣を振り、魔法を使い、ヘビーアナコンダを蹴散らしていく。
そしてとうとう――
「お! グリフォンが狩りから戻ってきたってよ! 急いでこの場を離脱するぞ!」
「おっけー! 九合目まで一気に行くよ!」
全員に速度強化魔法をかけ、この場を一気に離脱する。
山道を下り、九合目にまでたどり着いたところで、呼吸を整えつつ山頂に視線を向けてみると。
「特別問題はなさそうだな。いまごろ奴らは、ガキどもと飯か~」
大空からグリフォンたちが舞い降り、子どもたちがいる巣へと向かって行く姿が見えた。
親たちが取って来た食料を、大はしゃぎで食べ始める子どもたち。
ここからは見えないが、そんな光景が視線の先で行われているのだろう。
「おーい、おにーさーん。みんな~。早くおいでよ~」
「ん、クウさんが呼んでる。この辺りはまだグリフォンの領域だし、のんびりしすぎていると見つかっちゃうかもしれないね」
「んだな。行こうぜ!」
集落へと戻り始めていたビーストたちを追いかけ、クウさんと合流する。
道中、指示役をしてくれていたレイカたちとも合流し、先ほどの戦いの振り返りをしながら山道を下っていく。
「おにーさんたちのおかげで、ボクたちは被害を受けずにすんだよ。さすがに、グリフォンたち全てを守れたわけじゃなかったけどね~」
「どうしても討ち漏らしは出ちゃいますか……。でも、こればっかりはしょうがないのかな」
本来であれば、グリフォンとヘビーアナコンダによる争いだけで終わるはずのもの。
いくら力を貸してもらっているとは言え、過度な干渉は避けるべきなのだろう。
「何体かやられちまったのか……。グリフォンが生きるには影響ないのか?」
「ちょうどいい総数になったから、問題はないかな~。ボクたちがしめる必要もなくなったから、グリフォンのお肉はお預けだね~」
どことなく複雑な表情を浮かべていたウォルだったが、お預けと聞いたことで顔を暗くする。
心配はしつつも、グリフォンを食べられるかもという期待もまた残っていたのだろう。
「干し肉で良ければご馳走させてもらうよ~。せっかく頑張ってくれたのに、なーんにも、もてなさないんじゃね~」
「本当か!? よっしゃ! じゃあ、さっさと集落に戻ろうぜ! オイラ、腹が減って腹が減ってしょうがねぇんだ!」
山道を駆け下りだしたウォルに続いて集落へと戻った僕たちは、少し体を休めた後、ビーストたちと共に宴の準備を始める。
グリフォンの干し肉や乳製品などが調理され、良い香りが漂い始めたのは太陽が大地に沈んだ頃。
煌々と輝く火種を囲みながら、にぎやかな宴会が始まるのだった。
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グリフォン 鳥獣系 飛行獣族
体長 標準 約3.0メール 最大 約5.0メール
体重 標準 約350キロム 最大 約600キロム
弱点 雷
生息地 高山地帯
鳥のような鋭利なくちばし、獣の肉体に四つのかぎ爪を持つ有翼のモンスター。
打ち下ろされるかぎ爪、突き立てられるくちばしは、強固な鱗を持つ外敵の命すら容易く奪っていく。
空を飛べるということもあり、その肉体は非常に強靭。
気流が乱れた空間を自在に移動する能力を持つので、風の属性はほとんど効果が無く、寒さにも強い。
基本的には戦いを避けた方が良い相手だが、どうしても戦わなければならない場合は、まずは翼に攻撃を仕掛けて機動力を奪おう。
頭上からの不意打ちとして、雷の魔法を用いるのも効果的だ。
肉食性のために凶暴な性格を有するが、認めた相手であれば背中に乗せて行動するという一面を持つ。
打ち倒す以上の難度ではあるが、共に空を飛ぶことができれば、筆舌に尽くしがたい経験ができるだろう。
翼が汚れると飛行に支障が出るらしく、水浴びを好む性質がある。
ため池の規模次第ではあるが、興奮して全ての水を弾き出してしまうという、意外と無邪気な一面も。
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