「翼に当たる空気の変化は?」
「計算通り、下向きに変化しています。これで揚力は上向きになり、翼自体もその力を存分に受け取れることでしょう」
「よろしい。では、各翼及び艇体の揺れは――」
『アディア大陸』帝都ドワーブン。僕はその一角にあるオーバル研究所を訪れていた。
視線の先では、プラナムさんが研究員たちに指示を出しつつ飛空艇の実験を行っている。
遥か上空に向かう際、強風にあおられても問題が起きないようにするための実験なのだが、だいぶ良い数値が出てきているようだ。
「やあ、ソラ君~。今日も見に来てくれたんだね~」
「ダイアさん。やっぱり気になっちゃいますからね。それに、剣について調べることもできますし」
ビーストたちの住まう領域、ビート大山連峰を離れてから一週間が経ったが、僕は毎日のようにこの研究所を訪れていた。
目的は飛空艇の状況確認と、英雄の剣の調査。
前者は言わずもがな、後者はいまだ戦いには利用できないそれを、修理する算段を付けるためだ。
「あの剣は本当に面白いね~。飛空艇の実験も面白いけど、そっちに注力したくてしょうがないくらいだよ~」
「魔法機械部門の研究者としての血が騒ぐと言ったところでしょうか? 機械とは違いますけど、あの剣も魔法と道具が組み合わさった物ですもんね」
室内の一画を見やると、英雄の剣が機械にかけられ、分析が行われている様子が見えた。
いまだ不明な部分が多い英雄の剣だが、繰り返し分析が行われたことで分かってきたことがある。
それは、いままで溜め込まれてきたであろう魔力が、完全に混ざり合っているということだ。
大地、モンスター、人と、魔力はそれぞれに適応した形に変化しているので、形が異なる魔力が触れ合うと異常反応を起こすことがあるのだが、あの剣にはそれが起こっていない。
吸収した魔力を一つの形に変える能力があるらしく、魔力結束点から噴き出る魔力を鎮静化できるのも、その能力によるものなのかもしれない。
「あの剣を完全に解析、修復ができれば、魔法機械の技術も飛躍的に成長するはずさ~。うまくやれば、魔法を打ち出す機能を剣に組み込むなんてこともできるかも~」
「近寄る敵はその刃で斬り伏せ、遠方の敵は魔法を機械で撃ち出して攻撃……か。まるで、魔法剣士みたいだ」
あの剣は圧縮魔に加え、剣と魔法を扱える人物にこそ輝く剣なのだろう。
剣しか使えなければ魔力の持ち腐れとなり、魔法しか扱えなければ武器としての役割を失うことになる。
魔法剣士である僕とレイカがそれを握ったのは、ある意味必然だったのかもしれない。
「ネックだった剣の修繕方法も、ソラ君が持ってきてくれた古代文字対応表のおかげで分かりそうだしね~。剣を直すときは、ボクも同席させてもらいたいな~」
「ええ、その時はよろしくお願いします。どんな剣が良いか、考えておかないと」
扱う上で違和感が出ないように、持ちうる性能を限界以上に引き出せるように。
僕たちが持つべき形は、どのような姿だろうか。
「それにしても、プラナムを放っぽりだしてまで、探索に出かけたいなんてシルバル君が言うとはね~。過去に鉱山で働いていた時の血が騒ぐのか、それとも君がよっぽど気に入られているのか。何にしても、良い変化だよ~」
「それに関しては大丈夫なんでしょうか? シルバルさんはプラナムさんの護衛兵なのに……」
「ソラ君が気にすることじゃないさ~。飛空艇に乗り込んでいるメンバーたちは、研究員であると同時に護衛兵でもあるからね~。ああ見えて、すっごく強いんだよ~」
なるほど、シルバルさんも気兼ねなく行動を取れるわけだ。
それにしても、プラナムさんの配下たちはずいぶんと層が厚い。
どのようにして集めてきたのだろうか。
「ダイア! ソラ様! 実験の結果が出ましたわよ! 数値は全て、合格値を十分に超えました! これで大空へと向かえますわ!」
「本当ですか!? おめでとうございます! いつ探しに行きますか!?」
「落ち着きなよ、二人とも~。結果は精査しないとだし、何度か合格点を出せなきゃ危なすぎるよ~」
駆け寄ってきたプラナムさんから実験の結果を聞き、大はしゃぎをしてしまう。
空を飛び、空にあるかもしれない何かを探しに行くのは、一週間後に設定された。
実験を繰り返し、準備をしている間に日々はあっという間に経ち、僕たちは飛空艇に乗って大空へと飛び立つのだった。