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『リリパット族』

「『リリパット族』……。それがこの大陸に住む者たちの種族名……」

「会えたことは非常に嬉しいのですが……。わたくしは、巨人や翼を持つ者がこの地に住んでいるのかと……」

「む~! 僕たちのこと、馬鹿にしてないですか!? そりゃ体は小さいですが、逆に言えばどこにでも潜り込めるということです! 服の隙間から入り込み、この槍で突き刺すことだってできるんですよ!」

 恐らく少年と思われるリリパットは、体を震わせつつも僕たちに小さな槍を向けた。


 指の長さにも満たないものだが、先端はかなり鋭利であり、かつ返しまで付けられている。

 刺されでもしたら、痛みはかなりの物になりそうだ。


「それはそうと、質問に答えてください! あなたたちは何をしに来たんですか!? どこから来たんですか!?」

「下の世界、地上から飛空艇でやってきましたわ。目的はこの大陸の探索と調査ですわね」

 ごまかしや方便を使うことなく、プラナムさんは質問に答える。


 現状、隠し事をする必要は微塵もないので、正直に話すべきと判断したのだろう。


「調査……? まさか、僕たちをバラバラにして体の中を調べるだとか、モンスターと戦い合わせたりとかするんじゃ……!?」

「わたくしも科学者の端くれですが、そういうことには興味ありませんわ。まあ、研究員の中には興味を持つ者がいるかもしれませんが……」

 異種族の体に興味を持ちそうな者は確かにいるだろう。


 さすがに体を切ったり、戦い合わせたりするような狂気的な一面は、あってほしくはないが。


「う~……! 分からないことばかりだし、集落には近寄らせません! 信用もできないですし!」

「あらら、これは困ってしまいましたわね……。寝床は飛空艇で問題ないにしても、食料の補給ができないとなると……。モンスターを狩って、場を繋ぐしかないでしょうか……」

 不便ではあるが、信用ができていないところに無理矢理押しかけるのも良くないだろう。


 食べられるモンスターは多いようなので、食糧難に見舞われることはなさそうだ。


「んう? スンスン……。なんか、甘い匂いがする……。出所は――お姉さんのポケットの中?」

「わわわ!? ちょっと、ちょっと!? 」

 リリパットの少年は突如としてナナの服に飛びつき、よじ登っていく。


 そして服に付けられたポケットに潜り込み、ゴソゴソと何かを探しだす。


「えへへ~。見つけた、甘い匂いの元! ねね、これ貰っちゃダメですか? 集落に入れてもらえるようにお願いするので!」

「それは嬉しいけど……。いいの? ただのお菓子なのに……」

 少年が持ち出してきたのは、袋詰めにされたクッキーだった。


 それだけで集落に入って良いとなるのは、少々気になるところだが。


「この大陸では、甘いものが珍しいんです。お花や果物から採れはするけども、どうしても量や時期が決まってるので!」

「そうなんだ。じゃあ、それと交換で集落へ入る交渉権を貰おうかな」

 僕たちはリリパットの少年と共に、彼が住む集落めがけて歩き出す。


 少年はナナのポケットから上半身だけを出し、彼の顔よりも大きなクッキーを味わっていた。


「おっと、自己紹介をしてなかったよね。僕はソラ。ナナにレイカにレン、プラナムさんにウォルにアニサさん」

「人数が多くて覚えきれないですね……。ま、少しずつ覚えていけばいいですよね! 僕の名前はパロウ。よろしくです!」

 すっかり警戒は解けたらしく、パロウ君は無邪気な笑顔を見せてくれている。


 小さな容貌と併せ、とても愛らしい表情だ。


「なあ、パロウ。網で捕えたモンスターは放置していていいのか?」

「もちろん回収しますよ。ただ、みんながいたから村の人たちが怖がっちゃって。僕が事情を聞きに来たってわけです。でも、大きくて怖くて……。つい追い払うような物言いになっちゃいました。ごめんなさい」

「気にする必要はありませんわ。自分たちより遥かに大きな人が近寄ってきたら、きっとわたくしたちも怯えてしまうはずですから」

 これで出会った種族は、ヒューマンを含めて七種目となる。


 六つあると思われる内の四つの大陸を確認できたので、最低でも後二つ、未確認の種族が残っていることになるのだろうか。


「にしても、ゴブリンとドワーフたちよりもちっこい種族がいるとは思わなかったぞ。不便じゃないのか?」

「これが当たり前だから、不便なんて思ったことはないですね。むしろ、みんなの方が不便そうに見えますよ。小さいところとかどうやって入っていくんです?」

 これほどまでの身長差ともなれば、もはや理解の範疇からは逸している。


 僕たちの長所がパロウ君に理解できないように、僕たちも彼らの長所が理解できない。

 このような種族もいるという、許容の心を持つ必要がありそうだ。


「だがま、ちっこいってのは便利かもな。飯が少量で済む分、食費が浮きそうだしな!」

「食料だけじゃなくて、いろんな素材が少なくて済むのが羨ましいわ。服とかカバンを買うのだって、馬鹿にならないんだから」

 既に冒険者組は許容の心構えができているようだ。


 各地を巡り、様々な人たちと交流してきたからこそ、違和感を抱くことなく会話ができるのだろうか。


「みんな、ここでストップです! これから僕が村の人たちに話してくるので、ちょっとだけ待っててくれませんか? それと、お菓子を持っていきたいのですが」

「うん、もちろん。みんなにも食べさせてあげて」

 ナナから許可を貰ったパロウ君は、クッキーが詰め込まれた袋を頭上にかかげながら集落へと走っていった。


 彼が事情を離して戻ってくるまでの間、周囲の土地の調査でもしておこう。


「基本的にはどこまでも草原って感じで、森とかはないのかなぁ」

「なんか崖っぽいものも遠目に見えるぞ。あの先にも土地があるみたいだが、あれは歩いて越えられるのか?」

 いまいる場所からは東の方角に、巨大な大地の裂け目が見える。


 ウォルの言う通り、向こう側にも土地が見えるが、あの奥には何があるのだろうか。

 飛空艇で更なる高みに移動してから見下ろすのも良いが、歩ける場所があるのであれば徒歩で進んでみたいところだ。


 これからの行動について皆と話し合いをしていると。


「お待たせです! みんな、村に入ってきて良いそうですよ! 美味しいお菓子のお礼に、おもてなしもさせてもらいますね!」

「お、そいつは重畳だ! 空のメシ、何があるんだろうな!?」

「さっきの蛇のモンスターを、僕たちのご飯って言ってたけど……。もしそうなら、私はご勘弁ね……」

 パロウ君が住む集落、アウェスの村にたどり着いた僕たちは、リリパットたちの歓待を受けることになった。


 回収してきた蛇のモンスターの皮を、彼らは小さい体を駆使して懸命に引きはがし、時に体内に入り込んで内部の不要物を排除するなどして調理が進む。

 下準備が終わった蛇にリリパット特製の調味料がまぶされ、じっくりじっくりと焼き上げられていく。


 太陽が沈みかけた頃に調理は終わりを迎え、皆で蛇料理を味わうのだった。

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