「うははははー! すげーな、水も花も土も岩も、ぜーんぶ本物だぜ! 魔法でも、作り物でもないみたいだ!」
「ほんと、すごいわ……! 地上からずっと離れた場所に、生物が、人が暮らせる環境があったなんて……! あ、ウォル! あっちに見晴らしが良さそうな丘があるわよ!」
「よーし! あそこのてっぺんから、周囲を見渡してみるか!」
空の大地へと降り立った途端、ウォルとアニサさんが大興奮しながら周囲を駆け回りだす。
彼はともかく、彼女までもが目を光らせているのを見て、二人と共にここまで来てよかったと思うのと同時に、無茶をしでかさないか心配になってしまったのだが。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん! あそこに空を飛ぶスライムがいるよ!」
「空飛ぶスライム!? それは是非とも調査しないと……! レイカは周囲に他のモンスターが居ないか確認! レンはスケッチの準備! ナナも僕と一緒にモンスターを調べよう!」
「もう描いてる。筆がものすごく乗る」
「ふふ、みんな楽しそう」
僕たちもまた、現れたモンスターに釘付けになってしまうのだった。
空を飛ぶスライムは、地上でもよく見る個体たちと比較して体重が非常に軽く、頭に生えている突起を回して空を移動しているらしい。
周囲のモンスターもスライム同様、風や空気を利用しているものが多いようだ。
この大陸は地上と似たような環境を有しつつも、また異なる進化をモンスターたちに与えているようだ。
「皆様。レーダーによる周囲の調査の結果、ここより北西に人工物らしきものを発見しましたわ。皆様方の調査が終わりましたら、そちらへ行ってみませんこと?」
「人工物……。この大陸に住む人の集落があるんでしょうか? 情報を集めるなら人に聞くのが一番ですし、行ってみましょうか」
調査道具を片付け、北西の方角へと歩き出す。
進行方向はウォルたちが向かった方向と一致するので、合流に不都合はない。
「おう、お前らも来たのか! 向こうに村みたいなものを見つけたんだが、行ってみないか?」
ウォルが指さした方向には、確かに集落らしきものが見える。
プラナムさんが教えてくれたことと一致するので、まずはあそこを目標に動いてみるとしよう。
「プラナムさん、この先の地形はどのように?」
「基本的には平坦な草原となっているようですわね。ですが所々に大地の裂け目らしきものがあるようですので、足を踏み外さないようご注意くださいませ」
集落らしき人工物めがけ、丘を下り、草原を歩く。
道中に何度かモンスターと遭遇し、戦闘になったものの、特に苦戦することもなく討伐に成功する。
むしろ草原の所々にできている裂け目の方が問題であり。
「うお!? あっぶねぇ……。危うく落っこちる所だったぜ……」
「ここの裂け目も雲で隠されてるみたいね……。雲がある場所は何かあると思って歩かないと危険かしら……」
落とし穴に草をかぶせて隠すがごとく、裂け目の周囲には白い雲が漂っていた。
底があるのか、それとも空中に放り出されてしまうのか。
どのような末路に見舞われるのか全く想像できない、恐ろしい罠があちこちに存在していたのだ。
「裂け目があるのはレーダーで分かりますが、詳細な位置まで分からないのが難点なのですよね……。高低差次第では見つけられないものもありますし……」
「全てを機械に頼り切るのではなく、目視での判断も必要ということですね。警戒を強めていかないと……」
雲を避け、裂け目を飛び越え、草原を進む。
やがて目的地である集落の様子も、だいぶ見えやすくなってきた。
「ここまで大変だったけど、村まであとちょっとだね! でも、なにか違和感があるような……?」
「規模が小さいどころか、家屋自体が小さいような気がする」
だいぶ集落まで近づいてきたというのに、建てられている家々が僕たちの身長を越していかない。
プラナムさんたちゴブリンやドワーフのように、体が小さい種族なのだろうか。
「あれ? そこの雲、なんか変じゃない? 吹き出し方が他と違うような……」
「……ほんとね。モンスターが出てくるかもしれないから、警戒しましょ」
レイカとアニサさんの会話により、僕たちの中に緊張感が生まれる。
雲が噴き出す穴からは、果たしてモンスターが飛び出してきた。
細長い体を持ち、先が枝分かれした舌をチロチロと動かす蛇のモンスターだ。
「結構でかいな! だが、オイラたちは既に蛇のモンスターと戦ってきてんだ! ソラ、行けるよな!?」
「当然! みんなは距離を取っておいて! 僕たちで――」
皆に指示を出そうとしたその時、どこからともなく網らしきものが飛んできて、モンスターの体をすっぽりと覆ってしまった。
網目は非常に細かい上に見た目以上に重量があるらしく、モンスターは脱出しようと暴れるも、思うように動けないようだ。
「網……? どこから飛んできたか見えたか?」
「集落の方からだったと思うわ……。ちゃんと見えた訳じゃないけど……」
集落へと視線を向けると、網を発射したと思われる道具がいつの間にか出現していた。
だが、あれの周囲に人の姿はなく、誰がモンスターに攻撃を仕掛けたのかは分からない。
僕たちに友好的な種族なのか、それとも。
「そ、そのモンスターは僕たちのご飯です! い、いくら巨人の方であろうとも、奪おうとするのなら、よ、容赦はぁ……!」
「あん? なんだ、この声。どこからだ?」
「さぁ……? すぐ近くから聞こえてくるけど、僕たち以外に人なんて……」
キョロキョロと周囲に視線を送るも、声をかけてきた人物の姿が見当たらない。
だが、確かに声が聞こえたので、誰かがそばにいるのは気のせいではないと思うのだが。
「きょ、巨人さんたちはどこから来たんですか!? も、目的はなんですか!?」
「ずいぶんと警戒されているようだけど……。場所が分からないんじゃ話し難いわね……。どこにいるんですかー?」
「こ、ここにいるじゃないですか! 無視しないでください!」
謎の声の主は、僕たちのことを巨人さんと呼んだ。
そばで声が聞こえるというのに、姿が見えないということは。
「お兄ちゃん? しゃがみ込んだりしてどうしたの?」
「僕たちに声をかけている人は、想像以上に小さいんじゃないかと思ってね。地面の近くにいるんじゃないかと――あ、いたいた」
「どこだ? うわ、本当にちっちぇ……」
僕の視線の先にある石の上に、手乗りサイズ程度の背丈を持つ人がいた。
一斉にこちらの視線が向いたためか、件の人物は体を震わせている。
それでも決して僕たちから目をそらさず、気丈に振舞おうとしているようだ。
「や、やっと気づきましたね……! ですが、いくら巨人であろうとも僕は諦めるつもりはありません! 体は小さくとも誇り高い、『リリパット族』の名に懸けて!」
僕たちの目の前に現れた体の小さな種族、『リリパット族』。
彼らは一体、どのような文化を持つ種族なのだろうか。