「満腹だ! いやぁ、美味かったぜ! アニサも食ってみればよかったのによー」
「苦手なんだからしょうがないじゃない。私も別の物を食べて満足できたし、リリパットの皆さんも喜んでくれたから別にいいの」
アウェスの村の夜。食事を終えた僕たちは、かがり火を囲みながら料理の感想を口にしていた。
蛇のモンスターを苦手としている組は、飛空艇からここに移動してくるまでの間に討伐してきたモンスターを調理してもらい、それを食べている。
中にはリリパットの人たちでは倒すのに難儀するものもあったらしく、久しぶりに味わえたことを彼らも喜んでくれていた。
「なるほど。地上に落ちた影を見つけ、空を飛ぶ機械とやらを作ってここまでやってきたと。さぞご苦労があったことでしょうなぁ」
「ええ、数多くの人たちのご協力により、ここまでやってくることができましたの。想像とは異なる部分も多分にありましたが、こうして食事を共にでき、とても喜ばしいですわ」
プラナムさんと会話をしている人物は、この村の長だそうだ。
彼を含めた村の人たちは、食後のデザートと称し、ナナが作ったクッキーを食べている。
相変わらず頭部より大きいというのに、特に苦に感じている様子は見られない。
リリパットは、見た目よりも大食らいなのだろうか。
それとも甘いものに飢えた結果がこれなのか。
「ソラお兄さん。地上には、もっと美味しいお菓子ってあるんですか?」
僕の膝の上に座り、村の人たち同様にクッキーを食べつつ質問をしてくるパロウ君。
砕け落ちた破片が服の上に落ちているが、細かいことは気にすまい。
「こればっかりは好みにもよるから何とも言えないけど……。いろんな種類があるから、きっと気に入る物はあるんじゃないかな?」
クッキーにケーキに福餅、それ以外にも地上には甘い食べ物が存在する。
ナナ手作りのドライフルーツなども、もしかしたら気に入ってくれるかもしれない。
「そうなんですね! いつか地上に行って、いろんなお菓子を食べてみたいなぁ……」
「一緒に食べ歩きができると良いね。ナナもお菓子を食べて周るのが好きなんだよ」
「食べて周るのもいいけど、ここで作れそうなお菓子を考えるのもいいかもね。地上とはまた異なる味を作れるかもしれないし」
いますぐに異種族たちが僕たちの大陸に住めるわけではない。
その日が来た際に円滑な交流が行えるよう、こちらの文化や技術、歴史等を伝えておくのも僕たちの役目の一つだろう。
「ご歓談中に失礼。皆様はこの大陸を探しに来たと言っておりましたね。ならば、これから各地を見て周るおつもりなのでしょう?」
声に振り返ると、そこにはプラナムさんと、彼女の手のひらに乗る村長さんの姿があった。
質問にうなずき返し、改めて僕たちの目的を伝えることに。
「ふむ。ならば、先んじてこの大陸の詳細を伝えておくべきでしょうな。まず、大陸名ですが、我々は『インヴィス空中大陸』と呼んでおります」
「それがこの大陸の名前か……。こうやって名前を出されると、オイラたちは別の大陸にいるんだって実感が湧いてくるな!」
「ちょっと前まで、『アヴァル大陸』からは一生出られないとばかり思ってたからね。まさか空の大陸を訪れるなんて想像もしていなかったわ」
考えてみると、本当に遠くまで来たものだ。
故郷の『アイラル大陸』から大渦を越えて『アヴァル大陸』へ。
潜水艦で『アディア大陸』へと向かい、飛空艇の存在を知って『インヴィス空中大陸』へ。
僕たちは海を越え、空をも越えてここまでやってきたのだ。
「まず、我々がいるこの場所は大陸の最も西に位置します。草原が大部分を占める土地であり、最も穏やかと言えるでしょう」
そういえば、この大陸にたどり着いた途端に気流等が落ち着いたが、何か理由があるのだろうか。
「それは、大陸を移動すればおのずと分かりますよ。ここで全てをお教えするのは簡単ですが、見て周るおつもりなのでしたら、自らの目と耳で堪能した方が良いでしょう」
「お! おっちゃんも冒険が行ける口か!? だよな! 冒険は、歩いて、見てこそだよな!」
突如として意気投合し始めるウォルと村長さん。
これまでに何度も旅をしてきたことで、彼らが興奮する気持ちが分かるようになってきた。
いくら空の大陸と言えど、図鑑を作り始めてすぐの時では、これほどに心躍ることはなかったはずだ。
「ただ、問題点が一つあります。すでに見ておられると思いますが、大地の裂け目が所々に開いております。中には大陸を三つに割いてしまう程に巨大なものがありまして……」
「なるほど。東部、中部、西部に分けられてしまっているのですね。その点に関しては飛空艇を利用すれば問題はないでしょう」
リリパットであれば通れる程度の道はあるそうだが、それでもかなり不安定な道とのこと。
大地の裂け目を越える際は、プラナムさんの言う通り、飛空艇で飛んでいくしかないだろう。
「まずは順番に、中央へと進むと良いでしょう。そこにはあなた方が疑問に抱いていることへの答えがおられますので」
「答えがおられる……? どういう意味かしら?」
「冒険をしてりゃ分かることなんだろ? だったら、なんだっていいじゃねぇか。明日から始まる冒険、楽しみだぜ!」
無邪気な笑みを浮かべ、明日への期待を抱くウォル。
レイカとレンも、彼に負けないほどにワクワクとしているようだ。
「そこの――ソラ殿でしたか。少々お尋ねしたいことがあるのですが」
「はい、なんでしょう?」
体を村長さんに向け、質問をされるのを待つ。
彼は僕の左側に置かれた二本の剣を見つめているようだ。
「傍らに置かれている剣の一つ、もしやそれは英雄の剣と呼ばれている物ではないでしょうか?」
「え……。な、なぜこの剣のことを……?」
これまで出会ってきた種族の中で、英雄の剣のことを知っているのはエルフの人たちだけだった。
なぜ、これほどに隔絶された大地で、この剣のことを知っている人物がいるのだろうか。
「その疑問への答えも、この大陸を進めば分かりますよ。パロウ。お前は皆さんに同行し、道案内をするように。そうすれば、彼らにこの大陸のことを教えられ、我々も地上のことを知るきっかけになるだろうからね」
「え! 良いんですか!? やったー! ソラお兄さんたちはどうでしょうか?」
「願ってもないことだよ。村長さん、しばらくパロウ君のことをお借りします」
リリパットの少年パロウ君を一向に加え、僕たちは『インヴィス空中大陸』の調査をすることに。
宴が終わり、人々が自宅へと帰っていく。
僕たちには体を休ませられる場所が無かったので、飛空艇へと戻り、そこで睡眠を取ることにするのだった。