「雪都が見えてきたわね。気のせいかしら? なんだか明かりが強くなっているような気がするんだけど」
「竜封じ祭りがあと数日に迫っておるからな。祭りへの準備や熱気が最高潮に達しているといったところじゃろう」
飛空艇の窓から見える夕闇に沈みかけた雪都は、強い光に包まれていた。
この光はヒュドラを封印という形で退けた平和の象徴。
同時に、奴に喰われた白竜王様への鎮魂の明かりだったのだろう。
「今回は、そのどちらもなされることなく戻ってきてしまった。これは希望の灯りなのか、この都が終わる直前に、より激しく煌めいているだけなのか……」
「終わりになんかさせやしねぇよ、ジュヒョウのじっちゃん。まだ雪都の散策だって終わってねぇし、祭りだって堪能してねぇ。あんたらにも、オイラたちの大陸に来てもらわなきゃなんねぇしな!」
ウォルの言う通り、ホワイトドラゴンたちにも、ティアマットとの戦いに参戦してもらわなければならない。
いや、恐らく彼のことだから、戦いどうこう以前に、『アヴァル大陸』のことを見てもらいたいと考えているのだろう。
目の前に差し迫った課題に思考を巡らせることは大切だが、更なる未来を思い描くのも必要なこと。
苦難ばかりを想像して心をすり減らしてしまえば、様々な事象を楽しむ余裕すら忘れてしまうのだから。
「そなたたちが作ってくれた時間は、再びヒュドラが動き出すまで。それもあまり多くはないんじゃったな?」
「ええ……。これまでの封印よりも氷雪の量が圧倒的に不足しているはずですし、僕が喰わせた鞘がどれほど弱体化に貢献しているか分かりません。不安でしょうか……?」
「ふむ、確かに不安じゃ。じゃが、ヒュドラとの戦いを乗り越え、民と共に歩んでいる未来がしっかりと思い描けたからかのう? これまでと比べれば圧倒的に楽じゃ」
狐の仮面を付けていた時のリッカ様の表情は想像するしかないが、恐らくどの表情にも恐怖の感情が張り付けられていたのだろう。
だが、いま僕に向けられた彼女の表情は穏やかな微笑み。
恐怖が混ざりこんでいるとはとても思えない。
「短い時間で我々はソラ様の剣を修繕し、強化する。徹夜にするつもりはありませんが、ほぼ一日中、鍛冶場にこもっていただきますわよ?」
「それは手厳しい……。ですが、それくらいの速度で製作を進めなければ、復活の時までに間に合わないでしょうね。お嬢様、手に入れてきた物を確認させていただいても?」
シルバルさんの質問にうなずいたプラナムさんは、配下たちに調査させていた物を持ってくるよう指示を出す。
しばらくしてこの場に持ち込まれた物は、黒色のでこぼことした鉱石だった。
「これが伝説級の鉱石……? もっと、黄金に輝いているとか、得もいえぬ雰囲気があるとか……」
「なんか普通」
レイカとレンの言う通り、これといった特徴があるとは思えない鉱石だ。
これが本当に、英雄の剣に使われた素材なのだろうか。
「鉱石と言うのは往々にしてそのような物ですよ。多種多様の薬品と混ぜ合わせたり、熱し鍛えたりすることで初めて姿を変えていく。ですが、この鉱石は分かりやすく特徴があるのです」
シルバルさんは右手につるはしを握り、鉱石に叩きつける。
それは簡単にひびが入り、真っ二つに両断されてしまった。
「ずいぶんもろっちい鉱石だな……。とても剣の材料になるとは思えねぇぞ」
「ふっふっふ……。まだ、これからですわよ。英雄の剣の材料として使われた真価、とくとご覧くださいませ!」
皆で割れた鉱石をじっと見つめていると、破片同士の距離が短くなっていくことに気が付く。
少しずつ、少しずつそれは狭まっていき、最終的に元の鉱石に戻ってしまった。
「すごい……! 再生する鉱石ってことですか!?」
「ええ。これが朽ちず、摩耗せず、損傷しないという伝説の正体です。鉱石自ら傷を癒し、元の姿に戻る。とてつもない素材ですよ」
シルバルさんの視線が、壁に立てかけられている英雄の剣に向く。
自ら再生する金属が用いられたことで、あの剣は長い時間を越えて僕たちの元へやってきてくれた。
僕たちが更なる強化をすることで、遥か先の未来でも人々を守るのだろう。
「外部から魔力を受けることで、現在の形を記憶させることができるのですが……。その性質のせいで、皆様から預からせていただいた魔力がほぼ空になってしまいましたわ……」
「となると、この鉱石を鍛えるにも魔力が必要なんですね。僕も鍛冶場にこもる必要がありそうかな」
鉱石を冶金するにも、加工した金属を英雄の剣と接合させるにも、形を変える必要が出てくる。
主に扱うことになる僕が、率先してプラナムさんたちの手伝いをしなければ。
「再生する鉱石。これを利用してソラ君の剣を強化するの、楽しみだよ~。うえっへっへっへ~」
「気味の悪い笑みを浮かべないでいただけませんこと? 楽しみと言うのは否定しませんが……。ソラ様、この鉱石を英雄の剣に用いてもよろしいでしょうか?」
「もちろんです! ヒュドラが目覚めるまでの時間を利用して、準備を進めておきましょう!」
飛空艇は雪原に着陸し、僕たちは雪都へと入っていく。
得られた時間を有効活用し、ヒュドラを退治するために。
各々ができる準備を始めるのだった。