暖色系の明かりの中、金属同士がぶつかり合う小気味よい音が室内に響く。
ここは雪都ウパシの一画にある鍛冶工房。
僕とプラナムさんとシルバルさんはこの三日間、英雄の剣の修繕・強化をするために、火花と熱が舞い踊る中、手に入れた鉱石の鍛造に精を出していた。
「ふぅ……。ようやく鍛造が終了しました。元の形に戻ろうとする性質がどうにも厄介でしたね……」
「しかし、ホワイトドラゴン独自の鍛造法を利用したことで、より強力な金属となったようですわ。やはり、他国の技術は吸収し甲斐がありますわね」
できあがった金属塊を見て、シルバルさんとプラナムさんは満足げな笑みを浮かべている。
どうやら、会心の出来と言ってよい程の一品を作ることができたようだ。
「次は英雄の剣と混ぜ合わせて完成形を作っていくわけですが……。ソラ様方からの要望と、修繕後の強化を考えた結果、片刃の剣が最適な形となります。よろしいですわね?」
「ええ、それで構いません。この剣はレイカも使う可能性がありますし、その形は僕としてもなじみがあるので」
初めて『アイラル大陸』から『アヴァル大陸』に渡った頃、僕は剣ではなく刀を所有していた。
残念ながら『戻りの大渦』航海中に傷を付けて修復不可能となったため、剣を握るという現在の形となったのだ。
「こちらの武器である刀を拝見させていただきましたが、恐らくそれとも似て非なる形になると思いますわ。強化後のことも考えると、あの細さではとても耐えられないでしょうし」
「レイカ殿の幅広の剣、あれが完成予想図に最も近いでしょう。ではソラ殿、英雄の剣を私に貸していただいても?」
コクリとうなずき、英雄の剣をプラナムさんとシルバルさんに預ける。
彼らであれば必ず修繕してくれるはず。
それを見届けるためにも、この場に残って様子を見ていようと思ったのだが。
「おーい、リッカ様から何やらお話があるとのことだ。作業の手を止められる者は、御殿前に向かってくれ」
鍛冶工房の入り口辺りから、外へ出るようにとの声がけが聞こえてきた。
まさかリッカ様が民の前に現れ、直接お話をするとは。
内容はある程度想像がつくとはいえ聞きに行きたいが、作業を中断してまで聞きに行くべきだろうか。
「我々は手を離すわけにはいきませんが、ソラ殿はこの場を離れても構いませんよ?」
「故郷の主導者のお話ですものね。自身のお耳でしかと拝聴してきてくださいませ」
「分かりました。ご配慮、感謝しますね」
作業を開始したプラナムさんたちの元を離れ、工房のホワイトドラゴンたちと共に野外に身を晒す。
天候は雲一つない晴れ。
されど地に積もる雪が風によって吹き飛ばされ、舞い落ちてきている。
好天ながら悪天候という対の空模様は、何とも言い難い不安を心に抱かせた。
「んお? ソラじゃねぇか! お前もリッカの姫さんの話を聞きに行くのか?」
「ウォル、それにアニサさんも。うん、そのつもりだよ。君たちも同じ目的なんだろうけど、両手に持ってるの、何……?」
道すがらウォルとアニサさんに出会ったのだが、彼らは両手に串焼き肉を握っていた。
それどころか、肩からかけているカバンや、持っている袋からも、多種多様の飲食物が覗いている。
まだ祭りは始まっていないというのに、どこで買ってきたのだろうか。
「これか? 屋台の準備でトラブっちまった奴を見かけてな、オイラとアニサで解決してきたんだ。試し焼きもかねた礼ってことで、ご馳走してくれたってわけさ!」
「焼き菓子だとか飲み物だとか、他にも色々あるわよ……。善意でやってるってのは分かるだろうけど、なんかね……」
アニサさんが困ったような表情を浮かべているのは、周囲の視線を気にしてのことのようだ。
この都に住むホワイトドラゴンの方々にしてみれば、僕たちは外の大陸から来た珍しい人物。
彼らが向けてくるのは好奇心の視線ばかりなのだが、飲食物を大量に抱えている現状では居心地が悪いことこの上ないだろう。
「ソラも食うか? すんげぇ美味いぞ!」
「僕は何もしてないんだから、さすがにもらえないよ。君たちで味わって」
ウォルとアニサさんの食べ歩きに同行しつつ、御殿前に移動する。
そこにはこの都に住む者だけでなく、竜封じ祭りに参加するために数日前から訪れていた者たちらしき姿もあり、数多くの人でごった返している。
そのせいで移動に難儀する羽目に合ったものの、リッカ様がお立ちになられると思われる舞台を、かろうじて視界に映せる場所に陣取ることができたのだった。
「まだ姿はないみたいね。それにしても、みんなに話しちゃっていいのかしら?」
「んあ? みんなに話していいかってどういうことだ? まだ出てきてすらいねぇのに、なんで話の内容が分かってんだ?」
「竜封じ祭りの前後を考えれば自ずと……ね。リッカ様は、自らの境遇と危機が迫っていることを話すおつもりなんだよ」
ヒュドラに関わる大部分の情報は、上層部等の限られた人物以外に漏れぬよう、緘口令が敷かれていたであろうことは容易に想像がつく。
だが今回それを破り、民に広く教えようと考え始めたのは――
「お、向こうを見ろ! リッカ様のお出ましだ!」
「相変わらず、お可愛らしいお姿……! リッカ様ー!」
人々の最前列の方から、リッカ様が現れたという声が発生する。
ここからではわずかに見えにくかったが、彼女が配下を伴って舞台に向かっていく姿を何とか視界内に収めることはできた。
以前と同じように、狐のお面を被っているようだ。
「確か政は、リッカ様は関わらずに他の部署が担当しているんだったわよね? でも、ここまで大がかりにするってことは、その部署も許可を出したってことかしら?」
「恐らくはそれで合っていると思います。向こうに紫色の服を纏っている人たちが見えますよね? あの服は政に関わる方々にしか纏えない物なんですよ」
祭祀王であるリッカ様が纏う、白のお召し物とはほぼ真逆の紫の服。
それが政を担当する人たちにのみ纏うことを許された、もう一つのトップの証だ。
「祭りの準備で忙しいというのに、よくぞこの場に集まってくれた。心より感謝するぞ。さて、本来であれば形式に沿うのが習わしじゃが、今回ばかりはそうも言ってられん。端折らせてもらうとしよう」
ウォルとアニサさんへ説明をする中、リッカ様がお言葉を発せられる。
開幕の不穏さから民たちがにわかにどよめき立つ中、彼女は被っていたお面を取り外し、こう口にした。
「いまこそ語らせてもらおう。秘匿とされ続けてきた、ホワイトドラゴンの歴史を。歴代白竜王が賭してきたものを。これからの我々の未来を」
よどみなく話を始めたリッカ様のお姿に、僕は小さく微笑みを浮かべるのだった。