「剣の強度、耐久性共に問題なし。英雄の剣の修繕、これにて完了です」
「ほ……。ようやく第一段階が完了に至りましたか……。今度は剣の強化、最も重要な部分ですわね」
飛空艇内の計器から取り外された、形状が変化した英雄の剣がプラナムさんの手に渡る。
これまでのそれは、見た目だけならばこれと言った特徴のない剣だったが、いまのそれは幅広の片刃剣となり、銀色の剣身に照明が当たって美しく輝いていた。
「それでは器具の取り付けを行いましょうか。ダイア、準備を」
「こっちの用意は万端だよ~。鍛冶工房でやるんだったよね~?」
いくら多くの設備が搭載されている飛空艇とはいえ、内部で火気を使うことはさすがに想定されていない。
雪都には鍛冶工房といううってつけの場所があるわけなので、利用しない手はないだろう。
飛空艇から降りた僕たちは、少し離れた場所にある雪都に向けて歩き出した。
今日の天気は曇り空。
いまにも雪が降りだしそうな重い雲だ。
「ここまで至るのに七日……。取り付けに要する時間は少ないでしょうが、ヒュドラが再び動き出すまでを考えると決して余裕があるとは言えませんね……」
「いくら余裕があったとしても、この剣の制御は難解を極めるはず。下手をしたらソラ様ですら扱えない代物になる可能性すらありますわ。お気をつけてくださいまし」
最終的な英雄の剣の完成形は、物体を断ち斬る剣としての能力と、内部に貯めこまれた大量の魔力を自在に発射する、銃としての機構を兼ね備えた新たな武器。
近接武器と遠隔武器の良いとこ取りと言えば聞こえはいいが、実際は互いの強みを打ち消し合う可能性すら持つ、あまりにも使いづらい代物だ。
しかしこの形状を取らなければ、せっかくため込んだ魔力を放出することができず、英雄の剣としての能力は半分以下になってしまうだろう。
「しっかし、難儀な武器だよね~。魔力を持つ人が握れば魔力を吸いつくされ、持たない人では強みを発揮しきれない。ここまでわがままな武器をいじくるのは初めてだよ~」
「扱える者を極限まで狭めているのは、それだけ危険な力になりうる可能性があるということ。我々も、剣の成長を見守らなければなりませんね」
実際に握ることになる僕たちだけでなく、シルバルさんたちも責任を負うと言ってくれた。
あくまで剣の修繕と強化を請け負ってくれただけであり、一から製作をしたわけでも握るわけでもないというのに、本当に心強い。
「ホワイトドラゴンの皆様も、戦いの準備にかかりっきりのようですわね……。いざという時の避難準備をしつつ、実際に戦うことになる兵士たちのために食料や備品の用意……。不安でしょうに、素晴らしいことですわ」
雪都の正門をくぐると、あちこちの商店や家屋に集まり、準備を行うホワイトドラゴンたちの姿が見えてくる。
逃げ出したいという気持ちはあるはずだが、ヒュドラが一度暴れだせば、自分たちの安全を保障してくれる場所は無くなってしまう。
それが分かっているからこそ、直接戦えないなりに自分たちの戦いを始めようとしているのだろう。
「ここまで結束するのは、ボクたちの国でもそうそう見ないね~。ソラ君やホワイトドラゴンたちだけに効くっていう、命令は発せられてないんでしょ~?」
「ええ。リッカ様は命令を発することもなく、自身の言葉だけで民の意思を一つにしたようです。仮に彼女が政に関わるようになったとしても、問題なく民を導いていけるでしょうね」
リッカ様がヒュドラと戦う宣言を発したあの日、僕の意思や体を縛り付けるような感覚は発生しなかった。
他のホワイトドラゴンたちが違和感を抱く様子もなかったので、あれはまさしく彼女自身の言葉だ。
「レックス様然り、リッカ様然り、外の大陸には立派な為政者がおられて羨ましいですわ。我が国は……ハァ……」
「独り言が大きいですよ、お嬢様。ソラ殿はともかく、他の方に聞かれたらどうされるおつもりですか?」
プラナムさんがぽつりとつぶやいた愚痴に、シルバルさんが窘めを行う。
何度か自身の王に対しての不満が彼女たちの口から発せられていたが、あまり優秀ではないのだろうか。
「いえ、文武両道、民に対しても優しい方ではあるのですが、昨日決定した案を、別の者からの意見を取り入れた結果、翌日には廃案にしてしまうことが稀にありまして……」
「実際、それが正しかったことの方が多いんだけどね~。振り回されるこっちの身にもなってほしいよ~」
確かに、やって良いと言われたことを次の日にはダメだと言われてしまえば、忠義心が失われてしまうのもうなずける話だ。
だが、結果的に王の決定が正しかったとなれば、それは案を王に提出するまでのプロセスが間違っているのではないだろうか。
「ええ、以前であればいざ知らず、いまであればそうかもしれないと言えますわ。これも外に出て、多くを見聞きした結果でしょうか?」
「かもしれないね~。ボクたちも知らず知らずのうちに、王に全責任をおっかぶせて批判してたってわけだ~。国は一人でなく、みんなで進めて行かなくちゃ、なのにね~」
遥かに進んだ技術や知識を持ちつつも、こうして間違えることがある。
これから成長していくうえで、僕たちも間違うことは多々あるはず。
プラナムさんたちのように、間違いは間違いであると認め、次に向けて反省できるようになっていかねば。
「鍛冶工房が見えてきましたね。到着しましたら、早速、剣の強化を――」
「見つけたぞ……。ったく、運動不足確定の教育係君にやらせることじゃねぇだろ……」
第三者の声に振り返ると、そこには息を切らした様子のカゲロウ様の姿があった。
僕たちを探しに来たようだが、何か――いや、まさか。
「ヒュドラのお話……ですか?」
「ああ、話が早くて助かるぜ……。奴の様子を見ていた兵から、ついさっき伝令が入ってな。ヒュドラが復活し、行動を開始したそうだ」
ヒュドラが封印から逃れ、食料を求めて動き出した。
僕たちの間に、大きく緊張が走るのだった。