「ゴウセツ様が鍛冶工房で準備をして待っている――でしたわね。しかし、飛空艇と共にシルバルを持って行かれてしまったのは……」
「飛空艇を動かすにはボクたちの内の誰かがいないと危険だからね~。彼が剣の強化には必要となるわけではないし、妥当なとこでしょ~」
お互いの状況をカゲロウ様と交換し合った僕たちは、急ぎ鍛冶工房へと向かっていた。
プラナムさんたちの言う通り、シルバルさんは飛空艇の乗組員たちの指揮を取るため、かつヒュドラと戦う上での重要な戦力ということもあり、僕たちの元から離れている。
カゲロウ様も、方々へ連絡をしに行ってしまった。
「後は取り付けだけ。必要以上に時間を取られるということはありませんが、飛空艇でヒュドラの元に向かう皆に追いつけるかどうか……」
「レイカにもこの場に残ってもらうよう言伝をお願いしましたから、多分、大丈夫ですよ。彼女の圧縮魔を利用すれば、長距離を素早く移動できますので」
ヒュドラの情報が広がりだしたのか、にわかに雪都内が騒がしくなったように感じるが、道行く人々の表情に恐怖は張り付けられていない。
既に復活しているという話を聞いたせいで焦り、周囲の情報を過敏に吸収しているだけだろうか。
「英雄の剣の強化が完了したら、あの子の魔法も調べてみたいな~。一瞬で移動できる能力なんて、誰でも使えるようになったら最高だよ~」
焦りを感じている僕たちとは異なり、ダイアさんは余裕に満ちた考えを浮かべていた。
いつも通りな雰囲気、のんびりとした話し声を聞いて不思議と不安感が収まってくる。
彼女の心も本当なら焦っているだろうに、その配慮がありがたい。
「ダイアが欲望まみれの考えを口に出すときは、本当にそれのことしか考えておりませんわ。もう少し緊張感を持って欲しいのですが」
「ぶ~。ひどいなぁプラナムは~。剣が完成さえすれば、みんななら必ず勝ってくれるとボクは信じてるってのにさ~」
二人の応酬が続けられる中、僕たちは鍛冶工房へとたどり着く。
中に入るとカゲロウ様が言っていた通り、ゴウセツさんが既に待機しており、僕たちのことを待っていた。
「来たか。その様子を見るに、カゲロウから事情は聴いているな? わしは直接剣に触れられないが、取り付ける器具の調整等であればできるはずだ。手伝いが必要とあらば、いつでも言ってくれ」
「感謝いたしますわ、ゴウセツ様。では早速、作業を始めましょうか。わたくしが取り付けを致しますので、ダイアは各種器材の最終確認を。様子がおかしい物があれば、ゴウセツ様と調整をお願いいたしますわ」
「はいよ~。ま、不調があるものなんてないに決まってるけどね~。ソラ君は安心して見てていいよ~」
技術者たちは自身が扱う器材を手に持ち、作業を始める。
プラナムさんは目を保護するための眼鏡をかけ、溶接器具を用いて英雄の剣に点検の終わった器材を取り付けていく。
作業開始前まで余裕そうな様子を見せていたダイアさんも、全く言葉を発することなく真剣に自身のやるべきことを進めていた。
「しかし凄まじい技術だな……。時に魔道具技師として、時に鍛冶師として様々な物を作ってきたが、これほどまでに精巧な物は終ぞとして作れなかった。若い時に――いや、二十年ほど前に見たかったものだ」
手伝いに来たは良いものの、すっかり手持ち無沙汰になってしまったゴウセツさん。
体に自由が利く時にこの光景を見ていれば、彼の技術は飛躍的に向上していただろう。
どことなく寂しそうな横顔をしているのは、プラナムさんたちの技術を学び、共に製作をしてみたかったという思いから来ているようだ。
「いまからだって遅くはない――とは言えませんけど……。知識を前にして諦めちゃうなんて、ホワイトドラゴンらしくないんじゃないですか?」
「ホワイトドラゴンらしくない……か。ふふ、お前にも言われてしまうとはな」
僕にもと言うことは、他に誰かがゴウセツさんに指摘をしたということだろうか。
「レイカからこっぴどく……な。つい年寄りの愚痴をあの子に聞かせてしまったんだが、歳のせいにするなんてもったいない。折角、目の前に知らない知識があるのに――などとな」
「ふふ、あの子も知識を目の前にして諦めかけた過去がありますからね。我慢できなかったんだと思います」
脳裏に浮かぶは心に傷を負い、ヒューマンを恐れていた頃のレイカの顔。
悲しみと恐怖に苛まれていた少女が、僕たちと共に過ごし、ミタマさんやイデイアさんと友達になり、多くの知識を得たことで本来の明るさを取り戻した。
そのような経験があったからこそ、ゴウセツさんの愚痴に不満を抱いてしまったのだろう。
私がそうだったように、おじいちゃんにも新しい世界を知ってほしい。
辛いことや悲しいこともあったけど、お兄ちゃんやお姉ちゃん、私の友達たちといっぱい楽しいことを知れたから、私はいまの私になれたんだもん。
レイカから言われたことを話す彼の顔には、小さく微笑みが浮かべられていた。
「歳は歳だ。言い訳にしか聞こえんだろうが、お前たち若者とは埋めがたい時間の差がわしにはある。そんな老い先短いわしが知るよりも、未来を担う若者たちが多くを知っていく方が様々な意味で有意義だ」
ゴウセツさんの視線は僕から外れ、作業を進めているプラナムさんたちの方へと向かう。
「わしが学ぶのはお前たち若者の後でいい。その代わり、見て聞いたものをわしに教えてほしい。わしの心を期待や嫉妬で埋めさせてくれ。そうすれば新たな命として生まれ落ちた後も、多くのことを知りに行けるからな」
「ゴウセツさん……」
そんな寂しくて悲しいことを、言わないで欲しいとは伝えられなかった。
彼はこれまでの生で多くの知識を得てきた。
されどそれに満足することはなく、新たに受けるであろう命でさらに多くの知識を得ようとしている。
現世で得た知識は魂に刻み込まれ、次の世、さらに次の世へと脈々と受け継がれていく。
僕がレイカたちに語った、ホワイトドラゴンという種族の考察を思い出し、何も言えなくなってしまったのだ。
「もちろん、いまある生は有効活用させてもらう。命が終わるその時まで、何もせずにだらだらと過ごしているのは性に合わん」
「……分かりました。色々相談にうかがいますし、思い出話もたくさんさせていただきますね」
これで会話はなくなり、僕たちはじっとプラナムさんたちが製作を進める様子を見つめだす。
作業が最終局面に入った頃、雪都に残ってもらったレイカもこの場にやってくる。
そしてついに――
「これが最後のパーツだよ~」
「分かりました。これをはめて、最後に接合をすれば――これで完成です」
プラナムさんから完成した剣を受け取り、最終確認を始める。
幅広の剣身、鍔のない握り、剣自体が集めた魔力を貯めておく貯蓄倉、そしてそれを放出するための機構が取り付けられた異質な剣。
各種強化が施されているために重さはそれなりにあるが、決して片手で振るえないというわけではない。
これが現代の技術で改変した新生英雄の剣。
天災をも打ち払う強大な力を、僕は正しく扱えるだろうか。