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第3話 制服のまま健康診断

身体測定と健康診断、年齢の壁




 三日目の朝。

 ようやくブルマショックから立ち直りかけていた倉子と真子に、さらなる試練が告げられた。




「本日は、身体測定と健康診断です!」




 担任の水無瀬先生の明るい声が響くと同時に、二人の表情が凍りつく。




「えっ!? 今日!?」

「ちょ、健康診断って会社で毎年受けてるのに!?」




 真子がすぐさま手を挙げて食い下がった。




「せ、先生っ! 私たち、会社の定期検診でちゃんと健康管理してるんで、ここはスルーってことで……!」


「ダメです。学生は全員受ける義務があります」

 水無瀬先生は、笑顔で容赦なかった。




「年齢は関係ありません! 制服を着てる限り、あなたたちは“女子高生”なんです!」


「……その制服が一番のネックなんですけど……」

 倉子が静かに嘆く。




* * *




 保健室前の廊下には、女子生徒たちの賑やかな声。


 身長や体重を報告しあったり、スカートのウエストが緩んだだの太っただのと騒ぐ“本物の高校生”たちに混じって並ぶ、24歳の二人。


 それだけで、場違い感が際立っていた。




 自分たちの肌や髪を眺めながら、倉子がぼそりとつぶやく。




「真子、あんた、ぱっと見は自然に混ざってるけど……やっぱりお肌の艶とハリは、本物女子高生にはかなわないわね」


「……先輩、同じこと言い返してやりますけど、あんたもだよ」




 見るからに潤いと光沢が違う。

 同じ制服を着ているのに、肌の“旬”の差が残酷に浮き彫りになる瞬間だった。




「……スキンケア、もっと本気出すべきかしら……」


「でももう、回復力が違うっス……昨日の徹夜の影響、目の下にまだ残ってる……」


「言わないで」




 その後、身長・体重・視力・聴力と無難にこなし、最後に控えていたのは――内科検診。




 診察室に入ると、白衣を着た年配の医師が静かに問診票を確認していた。




「……服部さん、ですね。うーん……健康状態は問題ないけれど……」




 彼の視線がピタリと止まる。




「お酒……けっこう飲んでますね?」




「……え」




 反射的に動揺する倉子。

 真子が慌てて横から割って入る。




「いえ! これはその、会社での健康診断用の回答でしてっ!」




「しかし……これは、数値的にも明らかに“飲んでる人”の肝機能です。気をつけてくださいね。お酒は控えめに」




「……」




 二人、完全に黙る。




 そして医師は、ひとこと。




「まさか女子高生に、こんな注意をする日が来るとは思いませんでしたよ……」

 肩をすくめて笑う。




「……もっとも、24歳の女子高生に出会ったのも初めてですが」




 その言葉がトドメだった。




「うぐぅ……」

 真子が机に顔を埋める。




「いたたた……心が……内科で抉られるとは……」




「アルコールチェックで年齢詐称バレみたいな扱い……もう職質レベル……」




* * *




 放課後、屋上。


 制服姿で日陰のベンチに腰を下ろし、ふたりは抜け殻のように空を見上げていた。




「真子……」


「はい……」




「私たちの任務ってさ……お嬢様が卒業するまでだよね……?」


「うちの会社……確かにそう言ってました……」


「ってことは……あと三年……」


「三年間、制服着てブルマ履いて健康診断受けて、酒も控えて生きろって……」




 二人は静かに目を閉じた。




 そして次の瞬間、叫ぶ。




「三年もこんな生活続けたら、精神が死ぬってば!!」




 魂の悲鳴が、夕焼け空に吸い込まれていった。




 彼女たちの戦いは、まだ始まったばかり。

 しかしもう、すでにHPは赤ゲージである。




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