第5章:スーツに戻って地獄に逆戻り!? ゴールデンウィークは修羅場です
5-1:任務開始、そして寿司(高洲)へ
ゴールデンウィーク――学生たちにとっては、夢のような長期休暇の始まり。
当然、制服に悩まされ続けた倉子と真子にとっても、それはまさに“解放の象徴”だった。
「ついに……ついにこの時が来たわ……!」
倉子は深々とソファに沈み込み、スカートのない太ももを解放的に伸ばした。
「最高っスね……制服なし、スケジュール白紙……お昼まで寝て、午後はゲーム……」
真子も毛布にくるまり、アイスを片手に笑っていた。
そのときだった。
ピロンッ
ふたりのスマホに、同時に“警備連絡”の通知が届いた。
「……いやな予感しかしない」
「これ、見なかったことにしません?」
恐る恐る開いたスケジュールアプリには、こう表示されていた。
【至急任務】5月1日~5日 ドナルド・トラブル大統領(アメリア合衆国)来日特別警護任務
場所:東京都内・各所視察同行
服装:黒スーツ/機密インカム配備
「……スーツ?」
「って、アメリアって……え、えええええ!? これ、本国の大統領じゃないスか!!」
ふたりは絶望した。
そしてその翌日。
都内某ホテルのロビーに、黒スーツ姿の二人がいた。
普段はセーラー服で校内を走り回っていた彼女たちが、いまはジャケットにインカム、ヒールを鳴らしてプロの顔に戻っていた。
「……やっぱりスーツ、落ち着くわね」
倉子が胸元の無線を確認しながら言った。
「ですよね~。制服だと恥ずかしさが先に来るけど、これは戦闘服って感じッス」
そこへ、彼――アメリア合衆国大統領、ドナルド・トラブルが登場した。
白いスーツに派手なネクタイ、金髪オールバック。
にこやかに手を振りながら、観光大使のような笑顔で歩いてくる。
「Hello~! This is Japan! Sushi! Samurai! Wa~!」
(……うわぁ、本当にトラブルだこの人)
ふたりの心の声がシンクロした。
初対面のはずだが、なぜか真子にハグしてきて、
倉子の背中をポンと叩いてからウィンク。
「SP? NICE! ビューティフル! カンペキ~!」
「と、とりあえずスケジュールを――」
倉子が同行マネージャーに話しかけようとした瞬間。
「SUSHI!! I WANT SUSHI NOW!!!」
周囲が一瞬止まる。
真子が笑顔で確認する。
「……え、あの、本日は都庁の表敬訪問と日米友好記念パーティのはず……」
「NO! Sushi first! In the market! The famous one! Tsuki… Tsuki…」
「……築地?」
そしてそのまま、ドナルド・トラブル大統領は、視察をすっぽかして高洲の寿司横丁へと向かってしまった。
* * *
――現地、高洲。
GWで観光客が詰めかける市場通り。
その中を、大統領を囲むようにしてSPたちが猛ダッシュ。
倉子と真子は観光客に頭を下げながら通路を確保していた。
「すみません通ります! 大統領です、すみません、大統領です!」
「いやほんと迷惑ッスよ大統領ぉおお……!」
その間もトラブル大統領は大はしゃぎ。
「OH! ツナ! マグロ! エビ! ホタテ!! カンパチィイイ!!」
勝手に寿司屋に入り、職人の後ろから覗き込む。
記念撮影を求められると、後ろから真子を引き寄せてピース。
「美人SPと日本のSUSHI! BEST SHOT!」
(うわ、ハグきた。ぬ、ぬくもりが…不快ッス!)
その写真がSNSで拡散されたのは、その日の夜のことだった。
* * *
任務初日が終わった頃。
ホテルの非常階段に腰掛けて、スーツ姿の二人は無言だった。
「……あと、4日あるんですよね……」
「……そうね」
夜風が吹く。
真子がボソッと呟く。
「先輩……制服でもいいです。学校に帰りたいです……」
倉子も深く頷いた。
「ブルマでも……朝礼でも……“体育館で貧血倒れそうな校長の話”でもいいから……」
こうして、ゴールデンウィークという名の災厄ウィークが幕を開けたのだった。
---
5-2:二日目、ラーメンと通行封鎖地獄
二日目の朝――。
ホテルの地下駐車場、黒いSUVの横で倉子と真子は待機していた。
「昨日、マジで地獄でしたね……」
真子が眠たげに言いながら、ストレッチをしている。
「ええ。市場のあの混雑、ボディガード人生でもトップクラスよ」
倉子は静かに腕時計を確認しつつ、うなずいた。
本来ならこの日は、外国大使館関係者との昼食会、午後から経済フォーラム出席、夜は外務省主催の歓迎会。きっちり分刻みのスケジュールが組まれていた。
――そう、“本来なら”。
「ハロー! トラブル・アゲイン!!」
笑顔で登場したのは、今日も元気いっぱいなドナルド・トラブル大統領。
花柄シャツにスラックス、ノーネクタイの軽装。
「Today is…… RAMEN DAY!!」
「……え?」
倉子と真子の表情が同時に固まる。
「トゥデイ……ラーメン……?」
「Yes! Japan’s soul food! I want a bowl! Hot! Spicy! Tonkotsu!」
随行スタッフ:「そ、総理官邸には……?」
「レイター! RAMEN FIRST!!」
その一言で、警備計画が丸ごと吹き飛んだ。
* * *
1時間後――。
都内某有名ラーメンストリート。
狭い通りに、人・人・人。
その真ん中を、外国大統領の一団が堂々と進むという異常事態。
「警備ライン下がって!そこの自転車動かして!」
「お願いです!ほんと、そこ通らせてーっ!」
「大統領通ります!すみません!大統領なんです!」
倉子と真子は、一般人の視線にさらされながら、通行規制の最前線で悲鳴を上げていた。
「ねえ真子……これ、昨日より悪化してない?」
「完全に悪化ッス! 人数3倍ッス! 空気熱いッス!」
しかも、大統領はご満悦で屋台風のラーメン店に入り、
「カメラ! 撮ってくれ! 麺をすする私! ワビサビィィ!」
などと叫びながら、トッピング全部乗せラーメンをすすり上げていた。
どこからともなく現れた外国人観光客が「トラブル大統領ラーメンなう」とSNSにアップし、現場はさらにカオスに。
狭い厨房にまで人が入り込もうとし、倉子がカウンター内に自ら入って制止。
「入らないでください!危険です!火が……っ」
「先輩、まさかの厨房イン!?」
「麺湯切ってるSPなんて聞いたことないわよ!」
さらに、大統領がラーメン店主に絡みながら、唐突に真子を指差した。
「オオ!ラーメンガールSP! きっと似合う! 制服のまま厨房へ!!」
「えええええ!? 無理ッス無理ッス!」
* * *
食事後、現場はさらにカオスを極める。
トラブル大統領、突然路上インタビューを受け始め、
「ジャパニーズヌードル、カンペキ! イチバンオイシイ! マイハート!」
周囲から歓声と拍手。
その間、警備班は半泣きで人払いとルート再構築に奔走。
「緊急経路Cへ誘導開始!次の交差点を封鎖!誰か交番に話つけてー!」
「広報、もうラーメン公式発表しちゃって!止めるな!逆に乗れ!」
そんな大混乱の中、倉子と真子は警備車両の影に身を寄せて、冷たいお茶を一口ずつ啜っていた。
「……なんなのよ、この仕事……」
「任務中に“麺の硬さ”について議論したの、人生初ッスよ……」
倉子がポケットからスマホを取り出す。
予定表には、明日以降のスケジュールが並ぶ。
【5月3日:焼肉店視察予定】
【5月4日:うなぎ蒲焼希望】
【5月5日:自由行動(アキハバラ予定地?)】
「…………」
「……先輩、次、焼かれますね。私ら……」
「ええ。次は“焼き”がテーマの地獄みたい」
二人は顔を見合わせ、そしてそっと目を閉じた。
――ゴールデンウィーク三日目。
それは、まだまだ地獄の始まりにすぎなかった――。
---
5-3:三日目、焼肉という名の戦場
三日目の朝。
予定では、高級ホテル内でのランチと、都内ビジネス施設視察。
そのはずだった。少なくとも書面上では。
だが――。
「YAKINIKU! MEAT! GRILL! FIRE!!」
ホテルのロビーに響く、大統領の元気すぎる第一声。
「お、お肉ですか……?」
SPチームの代表が恐る恐る聞き返すと、トラブル大統領は上機嫌で親指を立てた。
「JAPANESE BBQ! グリルでジュ~!ってやつが食べたいのさ!」
そう言って、彼は“予定表”という概念をまるごと破壊した。
しかも彼のご所望は、銀座の高級焼肉店ではなかった。
「NO! ビジネス感はイヤだネ!ローカルな店!煙モクモクしてるとこ!」
そして1時間後――
下町の大衆焼肉商店街に、大統領とSPの大群が現れた。
* * *
「……いやいやいやいや、狭ッ!!」
真子が叫ぶ。
道幅はせいぜい2メートル。両脇にひしめく古びた焼肉店の軒先。
昼からビール片手に肉を焼く地元のおじさんたち。
そこに、サングラスをかけたガタイのいいSPたちがずらりと並び、中心には陽気に手を振る大統領。
「すっごい浮いてる! ていうか、異物感しかないッス!」
「でも本人はノリノリよ……」
案の定、大統領は一軒の焼肉屋にズカズカと入り、勝手に七輪の前へ。
おしぼりを振り回しながら、ニコニコと「カモ~ンミート!」と叫ぶ。
「……なんでこんな元気なの、この人……」
焼き台の煙がモクモクと上がり、スーツの裾にじわじわと匂いが染みていく。
「……先輩、もう私たち、完全に燻製化してます……」
「脱いでも臭い、洗っても取れないやつね……」
さらに店内には、地元テレビ局のカメラまで突入。
「今日はなんと! アメリア合衆国のトラブル大統領が下町に出没です!」
そして、カメラの前でドヤ顔で肉を焼くトラブル大統領。
「ファイヤァ! ミディアム! コレ、ビーフ? ポーク? ワカラナイケド、ウマ~イ!!」
その横で、真子はサイドに構え、火の粉と油跳ねに備えて立っていた。
「……SPって、焼肉の煙から客を守る職業だったんスか……?」
「違うけど否定できないのが悲しい……」
そして事件は、その直後に起きた。
「You、焼いてあげるヨ!」
トラブル大統領が、なぜか倉子の肉を勝手に網に乗せ、焼き始めたのだ。
「レディにはスマートにサービスネ!」
網の上でジュウジュウと音を立てる肉を前に、倉子は笑顔のまま静かに目を閉じた。
「……真子、私、今すっごく複雑な気持ちなの」
「先輩、まさかとは思いますけど、“大統領に焼かれた肉”ってタグがつく世界線、初めてじゃないですか?」
「これ、笑い話にならないわよ。あとお尻、今さりげなく触られたわ」
「先輩、マジで訴えましょう……」
* * *
なんとか店を出た後。
大統領は「次はカラオケ行く? パリピっぽいとこ?」とノリノリだったが、
さすがにスタッフとSPが全力で止め、ホテルへと強制送還された。
その帰り道――。
警備車両の後部座席、スーツのまま頭をぐったり下げた真子がぼそっと呟いた。
「先輩……昨日までの学校生活って……楽園だったんスね……」
「ブルマで走った日々が、懐かしくて涙出そうよ……」
倉子はスマホの予定表を確認する。
【5月4日:うなぎ蒲焼】
【5月5日:自由行動→秋葉原メイド喫茶(?)】
「……次は、“焼かれた心”にタレを塗られる日か……」
「その次は、羞恥心をさらに炙る展開が待ってるんスね……」
ふたりは同時に、深いため息をついた。
次の任務は、さらに――“濃厚”である。
5-4:四日目、うなぎと密出発未遂
五月四日、午前六時。
その日の予定は、午前:表敬訪問/午後:国立博物館視察/夜:官邸レセプション。
緻密に組まれたスケジュールが、スタッフの手元で美しく光っていた。
――しかし、その美しき紙の束は、わずか一言で燃え尽きることになる。
「ウナギが食べたい! ウ・ナ・ギ・ノ・カ・バ・ヤ・キィィ!」
今日も元気いっぱいの大統領、ドナルド・トラブル。
朝食の席で「和朝食」を見た瞬間、目を輝かせながらスタッフに身を乗り出した。
「この魚もいいけど……今日は“タレの香ばしいやつ”を食べたい気分なんだヨ!」
付き添いの通訳が青ざめる。
「だ、大統領……今日は午前に官邸の表敬訪問が……」
「レイター! ウナギファースト!!」
(……またかよ)
倉子と真子は、SPルームでうな垂れた。
「次は“焼かれた心”に“タレで追い打ち”っスね……」
「昨日あんなに煙に燻されたのに、今日は甘ダレで煮詰められるのね……」
* * *
10時、ホテルから警備車両で出発――のはずだった。
だが、その時間になっても、大統領の姿が見えない。
担当SP「……部屋にいないです」
「……は?」
全員の動きが止まった。
警備統括:「緊急確認! トラブル大統領、部屋から勝手に外出した可能性大!」
慌てて監視カメラを確認すると――
映っていたのは、サングラスにキャップを被り、ノリノリでエレベーターに乗り込む大統領の姿。
真子:「完全に脱走犯ッスよ……!」
倉子:「これ、笑えないやつよ……!」
その10分後、スタッフのスマホに**「今ウナギ屋!イマカバヤキ!!」**という謎のスタンプ付きメッセージが届いた。
* * *
場所は老舗のうなぎ専門店。
予約もなく突入した大統領は、一般客と並んで笑顔で写真を撮っていた。
「オー! グリルドイール!! カリッとネ! タレがジュ~!!」
周囲の観光客も驚き、大統領の登場に大騒ぎ。
記念撮影→SNS投稿→人だかり→ニュース速報――情報拡散まで15分。
現地到着した倉子と真子は、完全に顔が引きつっていた。
「またかよぉおおぉぉ……!」
「さすがに今日こそ怒りますよ先輩! これ仕事の域超えてますって!」
店内に入ると、大統領は店主に絡みながら笑顔で言った。
「このウナギ、ファンタスティックだヨ! あ、レディたちも食べる? おごるヨ!」
「……遠慮しときます」
倉子は無表情で断りつつ、真子を引っ張って奥に下がった。
「もうダメ……匂いで胃が逆流しそう……」
「てか、先輩……昨日の焼肉と今日の蒲焼きで、私らのスーツ、もう“和風出汁”の香りしかしないッスよ……」
「うちの社、クリーニング代出るかしら……」
* * *
なんとか大統領を確保し、車に押し込んだあと。
官邸訪問は中止、夜のレセプションだけなんとか形にした。
帰りの車内――。
真子はシートに沈み込みながら、スマホを操作していた。
「……先輩。見てください」
画面には、ネットニュースの速報が映っていた。
『アメリア大統領、突如うなぎ屋に現る! “蒲焼きは世界の味”発言に称賛の声』
「……これ、称賛されるのおかしくない?」
「悪目立ちの神様なのかしら、この人……」
そして、倉子はスマホのスケジュールアプリを開いた。
【5月5日:自由行動(秋葉原予定)】
補足:本人が「メイドに会いたい」と発言済み
「……」
「……先輩、今度は“魂が焼かれる”予感がしてきました……」
「……ブルマのほうが、まだ布が多かった気がする」
ふたりは沈黙し、同時に悟った。
この任務、最終日が最大の地獄であることを――
5-5:五日目、メイド喫茶と“死”の羞恥
五月五日、こどもの日。
都心は晴れ渡り、ゴールデンウィーク最終日の活気で賑わっていた。
――午前十時。
都内某超高級ホテル、アメリア大統領専用スイート前。
「大統領は……?」
倉子が淡々と尋ねる。
「……い、いないです」
アメリアSPのチーフが青ざめながら頭を抱える。
また、やられたのだ。五日目にして**五度目の“脱出”**である。
「私がルームサービスを取ってる間に……」
「窓から出たとか言わないでよ……?」
「正面玄関から“イエーイ!”って叫びながら出て行きました……」
倉子と真子の顔が、同時にひきつる。
「……どこへ?」
チーフSPは震える指で、スマホを差し出した。
そこには大統領から送られてきた、自撮りの画像。
背景は――秋葉原の電気街。
そして、吹き出しにはこう書かれていた。
『メイドさんに会いにきたヨ! 萌え萌えキュンってな!』
「終わった……」
「こっちが“萌え尽きて死ぬ”パターン……」
* * *
その1時間後。
秋葉原・某有名メイド喫茶「メイド☆ファンタジア」。
SPたちの懇願により、倉子と真子が“制服SP”から“メイドSP”へと転職させられていた。
「すみません、他に頼める女性がいなくて……お願いです……!」
アメリアSPの土下座に近い説得に、真子は完全に折れた。
問題は――
「……倉子先輩……だ、大丈夫っスか?」
フリル満載のピンクメイド服に、白のエプロン、ふわふわのカチューシャ。
その格好で、“氷のSP”こと倉子が、無言で立ち尽くしていた。
そして、口を開く。
「……恥ずか死ぬ」
その一言は、もはや名言だった。
* * *
店内には、満面の笑みでハートを作るトラブル大統領の姿。
「オオ!カワイイイイ! 萌えー! 萌えー! サイコー!!」
倉子と真子は、メイドのふりをしながら、大統領の安全を警戒しつつ“接客”をこなしていた。
「おかえりなさいませ、ご主人様……(死んだ目)」
「本日もご来店、誠にありがとうございますッス☆(棒読み)」
他の本職メイドたちは、プロ根性でトラブル大統領を盛り上げる。
「トラぶるたん萌え萌えキュンですにゃん☆」
「ナイス焼肉パワーで萌えMAXですう~☆」
場違いすぎる外国のトップが、一番はしゃいでいた。
そして――。
「最後に、記念写真を撮ろうネ! ふたりとも、私の両脇にハグして!」
「……」
「……」
数秒の静寂。
「ご主人様、記念撮影は……有料オプションでございます」
倉子の、SPの威厳を絞り出した冷静な声に、店内のスタッフが大爆笑した。
* * *
昼過ぎ、大統領は満足気にホテルへ戻り、その後空港へ移動。
無事、アメリア空軍の専用機へ搭乗した。
その瞬間――
倉子と真子は、全身から力が抜けた。
空港ロビーの一角、制服に着替え直したふたりが無言でベンチに腰掛けていた。
「……ブルマでも……セーラーでも……なんでもいいから、学校に帰りたい」
倉子が本気で呟いた。
「制服……温かくて、懐かしくて、安心するッス……」
真子も目に涙を浮かべていた。
そしてスマホが鳴る。
澪からのメッセージ:
「おかえりなさい。先輩、真子さん、来週の“授業参観とPTA総会”ですが……」
「社長が“君たちの働きぶりを視察したい”と言って便乗するそうです」
「……」
「……」
倉子:「当日、風邪をひく予定です。よろしく」
真子:「私は、お腹壊す予定ッス……!」
二人は揃ってベンチに倒れ込んだ。
その姿は、“世界最強メイドSP”から“ただの高校生”へと戻る瞬間だった。
---
エピローグ:恥ずか死ぬ② ~世界が見た、メイドSP~
その日――。
都内某所にある民間警備会社セキュリティ・アテナ本社の問い合わせ窓口には、
通常の百倍を超えるアクセスが殺到していた。
その内容は、どれもこうだった。
「御社に“メイド服を着用した女性SP”が在籍しているのは本当ですか?」
発信元:アメリア国防省、フランス大統領府、イギリス王室安全局――
さらにはなぜかバチカン市国とカナダの観光庁からも。
きっかけは、言うまでもない。
――アメリア合衆国大統領、ロナルド・トラブルのSNS投稿だった。
『Japan has MAID-BODYGUARDS! So cute! So strong! So Moe!!』
(訳:日本にはメイドのボディガードがいる。可愛い。強い。萌える。)
添付されていたのは、秋葉原のメイド喫茶で両脇にメイド姿で立つ倉子と真子の写真。
ハートポーズ。完全に笑顔が引きつっている。だが確かに写っている。
事態は即座に“世界級の誤解”を招いた。
外務省は火消しに追われ、総理官邸までもが声明を出す。
「日本に“常設メイドSP制度”は存在しません」
にも関わらず――
その午後、日本の官邸からアテナ社に**“SP派遣についての制度確認”**の連絡が入った。
その頃、倉子と真子はというと――
校内のベンチで並んで、澪の買ってきたメロンパンを食べていた。
真子:「ああ、平和……制服ってこんなにありがたいものだったんスね……」
倉子:「今ならブルマでもスクール水着でも、感謝して着るわ……」
そこに、社長からの通知が届いた。
【至急】世界中から“メイドSP”要請が届いております。近日中に再任務調整を予定。ご協力ください。
二人は、ゆっくりとスマホを伏せた。
そして――。
「恥ずか死ぬ」
それは、もはや呪文であり、真理であり、
制服SPの歴史に刻まれた、**“第二の被害報告”**であった。